ホーム > 読み物コーナー > 私の花ともだち > チューリップ > チューリップの里を訪ねて

チューリップの里を訪ねて
−私のオランダ紀行−

(1994年)


文中の「(写真)」をクリックすると、それぞれの写真をご覧になれます。


 オランダと聞けばチューリップと風車を思い浮かべるぐらいオランダは、チューリップで有名な国です。ここではチューリップの国オランダについて少しご紹介しましょう。

 意外と知られていないのが、オランダの国土の大きさで、実は九州ほどの小さな国なんです。しかも、国土の3分の1が干拓によって作られ、最低標高がマイナス6.7mというのも干拓の国ならではの不思議な国です。 その国土は大堤防写真1)で「北海」をせき止めて維持されているのです。 第二次大戦中にドイツ軍には堤防爆破という作戦があったのですが、さすがに国土全部を水面下にしてしまうのは気が引けて、作戦は取りやめになったという恐ろしい話も聞きました。

 オランダの危機はこれで終わったわけではなく、近年は地球温暖化という問題が出てきました。オランダは、温暖化が進行し北極の氷山が溶けてしまうと、海水面の上昇で国土の大半が海になってしまうのです。 理由はそれだけではないのですが、オランダは、国をあげて環境問題に熱心に取り組んでいます。

 オランダならではの奇妙な景色が続くところがあります。例えば、アールスメア近くに湖があってその外側に環状道路があります。その道路を走っていると湖の水面がすぐ近くにあるのに、 反対側の地面ははるか水面下というところがあるのです。だからちょうど目線に当たるのは家や温室の屋根です。ついでに奇妙な景色をもう一つ紹介しますと、オランダでは道路と運河の水面との高低差が数十センチしかないところがよく見られます。 流通の国オランダでは水上交通が盛んで、大きな運河では巨大な貨物船が車と同じ高さで通り過ぎることがあり、車に乗っていてびっくりすることがあります。

 更に、あまり知られていないことはオランダの緯度と寒さです。緯度は、日本から遠いので樺太ぐらいと言った方が分かりやすいでしょう。海流の関係で樺太よりはずっと暖かいのですが、 冬は運河が凍ってしまうほどです。何しろチューリップという花のイメージがあるのでもっと暖かいと思っていたら、年間平均10℃というのは意外です。 でも、チューリップには冬の寒さが必要なのです。人間にとって特に寒く感じるのは風の強さのためでしょう。オランダに行って吹きさらしの風に震えて初めて、何故、風車(Wind Mill)を作ったのか納得しました。

 オランダ名物で、しかも私が最もあこがれていた風景「チューリップと風車」(写真2)は、オランダの気候そのものを示していたのだと今更ながら感心させられています。

 訪問した1994年は、オランダの「チューリップ伝来400年」に当たる年で、私にとって3回目のオランダ旅行でしたが、前回以上にチューリップとの再会と新たな出逢いという期待でいっぱいでした。

 オランダ北西部のハーレムからライデンの海岸線の砂丘地帯には球根産地が連なっており、その中央にリッセ(Lisse)市があってチューリップ畑の真ん中にキューケンホフ(Keukenhof)という地区があります。 ここは、私が長年憧れていた世界最大のチューリップ公園、キューケンホフ公園(Nationale Blomententoonstelling Keukenhof)のあるところです。

 「一面のチューリップ畑に立って遠くに風車を眺める」というのが長年の夢でした。写真はその夢が実現した92年の最初の写真です。これは、キューケンホフ公園に行く途中、 何も知らずに通りがかりに偶然出会った景色なのです。
 その時にチューリップ畑の中のホテルを見つけ、次は是非あのホテルに滞在したいと思っていました。3度目のオランダ行きまでの2年間、 「ホテルで朝起きて窓のカーテンを開けたらチューリップ畑、遠くにキューケンホフ公園の林が見える」(写真3)というシーンを頭の中に描いていました。 以心伝心か、旅行会社に取ってもらったのが、偶然そのホテル(De Nachategaal Van Lisse)だったのです。

 そして、とうとうその「幸せな朝」がやってきました。時差ぼけも少しあって5時頃目が覚めましたが、日の出まで今か今かと窓を見つめてじっと待機。 日の出とともにカーテンを開けたら、そこには想像していたとおりの景色があったのです。カメラをもって外に飛び出しました。昼の太陽に当たってサンサンと輝くチューリップもいいのですが、 少し薄暗い中で朝日に照らされるチューリップは違った美しさを持っていて、躍動的なシーンを作ってくれました。

 短気な人だと思われるでしょうが、ここで撮っていて良かったのです。私が行ったのは5月初めで、チューリップの刈り取り真っ最中だったのでその日の夕方にはもう花はなくなっていました。

 刈り取りというのは、正確には摘花です。球根生産をする畑では、病気のウイルスにかかっていないか花を咲かせて、チューリップ狂時代に流行ったような変な斑がないかチェックします。 咲きそろったところで球根を太らせるため、花だけを切り落とします。これを早くしないと花を咲かせるために余分な養分が必要になります。(写真4)はその摘花機と摘み取られた花の山です。 後は、葉が球根を太らせ、掘り取って乾燥し出荷します。

 この捨てられる花はもったいないと思うでしょうが、この花を使ったイベントやコンテストが準備されているのです。「花のモザイクコンテスト」や「花のパレード ブルーメンコルソー」などです。

 ホテルからチューリップ畑を通ってキューケンホフ公園まで、さっさと歩けば20分ですが、なんといっても憧れのチューリップ畑を通るのですから、その写真もしっかりと撮りたいのです。 早く公園に行かなければ、入場者が増えて写真が撮りにくくなるのにと焦りつつ、2倍もの時間がかかってやっと公園に到着しました。 それにしても、チューリップのある風景写真5)って、なんと素晴らしいのでしょう。

チューリップの目次へ  ↑ ページの先頭へ戻る