Vol.12 No.8 【特 集】 農林水産物・食品の輸出促進に向けた取り組み |
農林水産物・食品の輸出拡大に向けて |
農林水産省 輸出・国際局 井上 俊輔 |
我が国の農林水産物・食品の輸出額は2023年に初めて1兆4,500億円に達した。2025年までに2兆円,2030年までに5兆円という政府目標の達成に向けては,引き続き「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」に基づき,マーケットインの発想で輸出をさらに促進する必要がある。具体的には,オールジャパンでの輸出促進活動や輸出支援プラットフォームの活用に加え,輸出先国・地域のニーズや規制を踏まえた,輸出産地などの育成を進めることなどが重要である。また,輸出先国・地域における輸入規制の撤廃・緩和に向け,政府一体となって働きかけるとともに,一部の国・地域による輸入規制強化の影響を受けている水産物などの輸出先の転換・多角化も引き続き進める。 (キーワード:輸出拡大実行戦略,マーケットイン,オールジャパン,輸出支援プラットフォーム,輸出先の転換・多角化) |
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イチゴの輸出拡大に向けた品種・技術開発 |
農研機構 西日本農業研究センター 遠藤(飛川) みのり |
イチゴでは果実の流通適性向上や輸送中の品質保持,流通コスト削減のため,様々な品種,収穫および包装技術,輸送技術などが開発されている。新品種「恋みのり」は流通中に損傷が発生しにくい新たな物理的性質を有し,全国に普及が進んでいる。また,選果ウェアラブルデバイスによる収穫,選果,パック詰め作業工程の統合による作業時間の短縮や微細な損傷の発生抑制,パック詰めロボットによる選果,パック詰め作業の自動化が行われている。さらに,輸出で多用される宙づり型容器のスタッキング性が向上したほか,Sea&Air 輸送と呼ばれる船舶と航空機を併用した輸送方法の実証が行われた。 (キーワード:品質保持,低コスト化,新品種,スマート農業技術,流通技術) |
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多収性ナガイモ「とかち太郎」の育成とその活用 |
地方独立行政法人北海道立総合研究機構 北見農業試験場 平井 剛 |
地方独立行政法人北海道立総合研究機構十勝農業試験場,十勝農業協同組合連合会,帯広市川西農業協同組合および音更町農業協同組合は,共同でナガイモ品種「とかち太郎」を育成した。「とかち太郎」は,既存ナガイモ系統である「音更選抜系統(以下,音更選抜)」の定芽部位を利用して得られた突然変異体から選抜・育成された多収品種である。「音更選抜」に比べてイモ径が太く,約20%多収であるが,栽培特性,内部品質,貯蔵性等の主要形質について「音更選抜」と大きな差はみられない。2013年に北海道の優良品種として認定され,北海道十勝総合振興局管内のナガイモ産地に普及が進んでおり,輸出にも活用されている。 (キーワード:ナガイモ,突然変異育種,定芽,多収) |
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かんしょ輸出拡大のための輸送中腐敗防止技術の確立と実証 |
農研機構 九州沖縄農業研究センター 西場 洋一 |
日本産のかんしょは海外でも人気が高く,近年輸出が急増している。しかし,主に冬期の海上輸送中に腐敗が多く発生しており問題となっている。かんしょ輸送中の腐敗を防止するため,高温キュアリングなどの腐敗防止方策について輸出実証試験を行い,現場レベルで効果を実証した。また,かんしょの選別を高速,高精度化するため傷検知AI の開発を行った。腐敗防止方策を導入した生産法人では冬期の輸送中腐敗を抑えることに成功しており,今後は標準作業手順書を活用した普及を進める予定である。 (キーワード:かんしょ,輸出,輸送,腐敗,かび) |
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盆栽や植木の輸出の障害となる植物寄生性線虫の防除 |
農研機構 植物防疫研究部門 立石 靖 |
輸出後の盆栽や植木から相手国の検疫で何らかの植物寄生性線虫が検出された場合,荷口単位で不合格となって高額な損失が生じ得る。こうした事態を避けるためには輸出前の線虫対策が重要だが,防除対象となる線虫が広範かつ要防除水準が低いうえ,防除の影響で生じる落葉などの商品価値の低下も避けなければならない。こうした状況に対応するため,アバメクチン乳剤の農薬登録が適用拡大された結果,薬害の生じやすい樹種の線虫防除が可能になった。その後の取り組みで同剤を活用した技術体系が構築された結果,従来技術と比較して,イブキ盆栽では線虫防除効果が向上し,イヌマキ植木およびクロマツ盆栽では線虫防除に伴う商品価値の低下を大幅に抑制することが可能になった。 (キーワード:盆栽,植木,苗木,輸出,植物寄生性線虫) |
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茶の輸出に向けた取り組み |
日本茶輸出促進協議会 佐塚 高 |
2023(令和5)年の緑茶の輸出額は292億円(粉末茶216億円,その他76億円)に達した。健康志向や日本食への関心の高まりを背景に需要が拡大し,過去最高額となった。主要輸出先である北米,台湾をはじめ,EU,東南アジア向けの輸出が増加した。米国,EUでは茶は栽培されていないので,残留農薬基準値はもともと設定されておらず,貿易上の非関税障壁となっている。輸出促進には,輸出先国・地域における残留農薬基準に対応した病害虫の防除方法の開発・実証試験などが必要である。なお,「有機栽培」については,他作物ほ場や他園からのドリフト(drift)などのリスクがあり,自園のみならず周辺茶園の協力はもとより,茶園立地条件の確認など広域的な対応を図る必要がある。 (キーワード:茶,国別輸出状況,国別輸出額目標,残留農薬) |
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日本酒の輸出動向と今後の輸出拡大に向けて |
日本貿易振興機構 農林水産食品部 福士 穂花 |
2023年の日本産酒類の輸出金額は約1,350億円,うち日本酒の輸出金額は約410億円にのぼり,世界情勢の影響を受けながらも,日本酒は日本の農林水産物・食品輸出拡大を支える重要品目の一つに位置付けられる。一方,世界から見た日本酒の輸出には拡大の余地があり,そのためには認知度のさらなる向上と,輸送や保存における取り扱いの知識向上などの教育が不可欠である。ジェトロでは輸出支援機関として,国内事業者向けの様々な事業を実施している。 (キーワード:日本産酒類,日本酒,輸出支援,ジェトロ,商談機会の提供) |
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我が国における木材輸出の現状と輸出拡大に向けた取り組み |
森林研究・整備機構 森林総合研究所 北海道支所 嶋瀬 拓也 |
近年,日本の木材輸出が急拡大している。輸出額は2012年の93億円から2023年の505億円へと11年で5倍にもなった。輸出額の46% を丸太が占めるなど,付加価値の高い製材や合板を輸出重点品目として増やしていきたい政府の思惑とは一致しない面もあるが,輸出が全体として拡大しているのは,それぞれの貿易取引において輸出側と輸入側の双方にメリットがあるからにほかならない。木材輸出を一層拡大させていくためには,このことを念頭に,よりよいマーケットのありかたを探り続けていく視点が重要であり,そのためにも引き続き産官学の密接な連携が求められる。 (キーワード:産官学連携,品目団体,付加価値,木材輸出,輸出重点品目) |
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