Vol.11 No.11
【特 集】 スマート農業技術の現地実証と社会実装(掘


スマート農業実証プロジェクトの概要と本特集のねらい
農研機構 みどり戦略・スマート農業推進室    栗原 光規
 マート農業実証プロジェクトは,これまでに217課題が全国各地で展開されている。そのうち2021年から2年間の計画で取り組まれた34課題(実証テーマごとに,輸出で3,新サービスで9,スマート商流で6,リモート化で8,強靭な地域農業で5,ローカル5G で3)が終了したため,特徴的な8課題を選定し,その取組概要,導入技術の効果と課題,今後の社会実装に向けた取り組みについて紹介する。
(キーワード:スマート農業,輸出,新サービス,商流,リモート化,強靱な地域農業)
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スマート農業生産技術を活用した日本産イチゴの輸出拡大を
見据えた高品質生産・出荷体系の構築
農研機構西日本農業研究センター    曽根 一純
 JA 阿蘇いちご部会管内の30aの実証圃場にてスマート農業生産技術を活用し,イチゴの輸出拡大を見据えた高品質生産・出荷体系の構築を目指した実証試験を実施した。その結果,①圃場内環境情報などを活用したスマートCO2施用技術などによる多収安定生産技術を導入することで,慣行比25%以上の省エネと5%以上の増収を実現した。②簡易型自動選別パック詰めロボットは高い選果精度を有し,パッケージセンター全出荷量の5%の処理が可能と試算された。③香港を想定した宙吊り型包装資材と2℃での船便輸送により,航空便輸送と遜色がない着荷時減損率を約10%まで軽減し,競合する韓国産に対して価格競争力を有し た輸出用規格を選定した。
(キーワード:イチゴ,スマート農業,局所適時CO2施用技術,自動選別パック詰めロボット,輸出)
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ドローンセンシングデータの広域シェアリングを中心とした
大麦・大豆生産における新たな農業支援サービスの実証
石川県農林総合研究センター 農業試験場    植松 繁
石川県農林総合研究センター    藪 哲男
 石川県で水田転換作物として導入を進めている大麦・大豆の収量向上のため,経営体が簡便かつ安価にデータ駆動型農業に取り組める仕組みを構築し,導入効果を検証した。実証では,ドローンでの撮影作業をアウトソーシングし,得られたデータを広域にシェアリングすることで低コスト化を図る「広域画像収集プラットフォーム」を構築するとともに,営農・栽培支援アプリケーション「Agri Recommend」を大麦・大豆に適応拡大し生産現場での活用を可能にした。その結果,両品目とも単収が向上し,本技術の導入効果が確認された。また,構築した仕組みはサービス提供事業体から新たな農業支援 サービスとして提供されることで,社会実装を実現した。
(キーワード:土地利用型作物,データ駆動型農業,ドローンセンシング,データシェアリング,営農・栽培支援アプリケーション)
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東北地域のタマネギ生産の安定化に向けたシステム実証
農研機構 東北農業研究センター    室 崇人
 新たにタマネギ栽培に取り組む生産者に,作付け地域における適期作業を促し,適期外作業による減収リスクの低減に寄与し,標準的な収量の確保によりタマネギ栽培の黒字化(安定化)をもたらすシステムを構築し,その効果を東北地域の3法人で実証した。
 システムを介した栽培管理の実施支援により,各法人ともに防除回数が増加し,収量増に伴い出荷経費なども上昇したことで,経費が約17%増加した。しかし,3法人の集計値で単収は4.2 t/10 a となり,収入が約29%増え,収支全体としては黒字となった。タマネギ生産・流通・利用にかかわる多くの関係者が,本実証でも利用したシステムを介して情報を共有し,新しいビジネスフォーマットを創出することが,今後の目標となる。
(キーワード:東北地域,タマネギ栽培,スケジュール管理,営農指導支援システム,東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォーム)
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露地野菜栽培における自律走行型ロボットおよびリモート圃場
カメラを活用した農薬散布サービスの実証
株式会社レグミン    近藤 克文・成勢 卓裕
 高齢化に伴う離農者増加により大規模生産者に圃場が集積し,管理圃場が広範囲に分散することが問題となっている。この圃場分散が招く人手不足を解消するため,自律走行型農薬散布ロボットを用いた代行サービスとリモート圃場カメラを導入し,経営面に与える影響を評価した。農薬散布ロボットを用いた代行サービスを活用することで,生産者のリソースを使用することなく農薬散布を行い,作業コストを26.6%削減した。圃場カメラにより作業者が圃場に行くことなく圃場状態の監視を実現し,その監視にかかるコストを慣行比で11.4%削減した。
(キーワード:スマート農業,露地野菜,自律走行,農薬散布,圃場遠隔監視)
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球根版スマート農業技術を社会実装するための試み
富山県花卉球根農業協同組合    藤岡 昭宏
 チューリップ球根生産の超省力化技術であるネット栽培方式を水田転換畑用に開発し,球根版スマート農機の現地導入を推し進め,大幅な省力化が確認された。また年間稼働率を高めるため,チューリップと作型が異なる球根類にも有効であることも分かった。利用者数の拡大に伴い,農機の圃場間移動による実作業率の低下が明らかになった。課題解決に向け,スマート農機の新たな運用体系「小球と大球の分業・リレー生産方式」を提案している。
(キーワード:チューリップ,花き球根,ネット栽培,スマート農業,リレー生産)
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生育予測とQRコードを活用した
スマート商流システムによるトレーサビリティの確立と
これに伴う輸出拡大ならびにスマート農機の利用拡大の実証
株式会社鈴生    繁田 明日加
 (株)鈴生は遊休農地や水田の裏作などで野菜作をしており,加工業務用を主軸としている。スマート農業実証プロジェクトでは,実需者への安定供給を図るためのレタス生育予測システムの活用,トレーサビリティの見える化による商品価値の向上,海外輸出による販路拡大,スマート農機などの利用コスト軽減と稼働率向上を目的とした農業コントラクター事業について取り組んだ。特にQR コードを活用したトレーサビリティシステムと"見える化"によるスマート商流の実証項目では,商品価格に転嫁できる取り組みであると感じるとともに,GAP などの認証取得にも貢献でき,野菜販売での優位性を実感した。 (キーワード:スマート農業,生育予測,トレーサビリティ,輸出,コントラクター)
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ナシ栽培におけるスマート農業技術の実証
千葉県農林総合研究センター     桑田 主税
 ナシの主産地である市川市の圃場でスマート農業技術の実証に取り組んだ。気象データにより主要病害である黒星病の発生危険度を予測する防除支援システム「梨なびアプリ」に基づいて防除を行い,黒星病の発生を抑えた上で千葉県の減農薬栽培基準を満たす栽培が可能であることを実証した。ナシ棚下からの画像を用いてAI で葉や果実を自動的に検出し,果実の数や大きさを算出するツールを構築した。また,人に自動追従するロボット台車を用いたナシの収穫において作業時間が29%削減されることを明らかにした。
(キーワード:ニホンナシ,スマート農業,防除支援システム,AI 生育解析,自動追従台車)
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安心かつ安全な暮らしを実現するICTを利用した水管理システムの活用
農研機構 植物防疫研究部門     嶺田 拓也
 強靭で持続可能な地域農業を実現するために,開水路主体の水田地区において,通年で運用可能なICT 活用の用水および排水制御システムを導入することで,豪雨時の下流域の浸水被害の低減に加え,効率的かつ省力的な水田水管理も可能とするスマート水管理システムの実証試験を行った。遠隔操作型用排水ゲートによって操作員の事故リスクが軽減されたとともに,水害時降雨データを用いたシミュレーションではスマート田んぼダムの設置で,下流域の浸水面積を33%,浸水量では55%減少させうると算定された。また ,ICT 水管理機器や複数水田への一括給水システムの導入で最大6割の水管理労力の削減を達成した。
(キーワード:ICT,スマート水管理,遠隔操作,田んぼダム,減災)
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