Vol.11 No.2
【特 集】 高機能施設下での園芸作物生産

世界における動向と持続可能な人工光型植物工場の実現に向けて
NPO植物工場研究会    林 絵理
 気候変動など地球規模の諸問題が顕在化するなか,持続可能な植物生産方法として人工光型植物工場(植物工場)に対する期待が高まっている。近年,世界的に植物工場に関する研究およびビジネスが急速に進展している。本稿では,日本国内および海外,特に米国における植物工場に関わる背景,現状の生産性を含む動向,課題などを俯瞰したうえで,持続可能な次世代型植物工場の実現に向けた展望を述べる。
(キーワード:次世代型植物工場,生産性,植物工場ネットワーク,データシェアリング)
←Vol.11インデックスページに戻る

人工光型植物工場建設の「規模の経済」
―その存在と作物生産採算性への影響―
千葉大学 環境健康フィールド科学センター    菊池 眞夫
 人工光型植物工場は食料問題・環境問題の解消に資するものとして近年注目されているが,商業レベルの普及は必ずしも順調に進んでいない。その主因として植物工場建設費が高額であることが挙げられるのが常である。ただこれまで植物工場建設に関わる「規模の経済」の研究は皆無であり,それを考慮することなく植物工場の経済性が論じられている。ここで紹介する研究はこの「規模の経済」の実証的分析を目的とし,世界各国の植物工場建設費のデータに基づき,それが存在することを実証し,レタスとイチゴについて「規模の経済」を考慮した場合の植物工場生産における採算性を検討したものである。
(キーワード:費用便益分析,植物工場の規模,収支均等最小規模,レタス,イチゴ)
←Vol.11インデックスページに戻る

人工光型植物工場でのUV照射による
赤色系リーフレタスの機能性成分向上について
千葉大学大学院 園芸学研究院    浄閑 正史
 形状の異なるリーフレタス数品種を人工光型植物工場で栽培して有望品種を選抜し,UV照射と最適な光強度による成育促進および機能性成分の向上を検討した。リーフレタス5品種を栽培したところ,生産性ならびに機能性に優れる'アナポリス'を選抜した。本品種はチップバーンの発生が見られず,特に機能性に優れていたが,目標収量を下回った。そのため,育苗および本圃の光環境を最適な光強度(PPFD)に設定し,収穫前にUV照射を行うことで,生産性向上と株全体における着色の両立できることが示唆された。
(キーワード:アントシアニン,チップバーン,光強度)
←Vol.11インデックスページに戻る

イチジクの超密植根域制限養液栽培技術
千葉大学大学院 園芸学研究院    大川 克哉
 太陽光利用型植物工場でのイチジク栽培における早期成園化,高品質・高収量果実生産,栽培管理の省力化,簡易化,マニュアル化の実現を目的に,結果枝を1〜2本しか持たない小型のイチジク樹をポリポット(培地容量6〜8L)に植え,養液栽培する栽培技術を確立した。この栽培法では,挿し木を冬季に行い,底熱処理により発根のみを早期に促進した苗を養液栽培することにより,挿し木当年から十分な果実収量(3〜6t/10a)が得られる。さらに栽植密度を高めると同時に赤色LED光の照射を行うと,果皮中のアントシアニン蓄積を促進し,果皮着色に悪影響なく果実収量を30%程度増加させることができる。
(キーワード:イチジク,養液栽培,太陽光利用型植物工場,LED,早期成園化)
←Vol.11インデックスページに戻る

太陽光型植物工場におけるLED照射とブドウの品質
千葉大学 名誉教授    近藤 悟
 ブドウは落葉果樹の中でも,自発休眠のための低温要求時間が他果樹に比較して短く(0℃〜7℃の累積積算時間で400時間程度),また植栽から結実までの期間が短く管理しやすいため,ハウス等施設を利用した環境下での栽培が行われ,一年において夏と冬に収穫するなど二期作も可能である。ブドウの植物工場での栽培には容積を必要とするため,一般に閉鎖型は適さなく太陽光型植物工場で栽培される。ブドウ の栽培期間は通常開花から収穫まで3〜4カ月を必要とするため,栽培過程において太陽光の影響を受ける。われわれはブドウ果実の着色および糖合成への光波長の関連を検討しているが,本稿でこれまでの結果を紹介する。
(キーワード:アントシアニン,アブシシン酸,糖含量,着色)
←Vol.11インデックスページに戻る

閉鎖型植物工場における自動化
エスペックミック株式会社    中村 謙治
 閉鎖型(人工光型)植物工場は,光源がHIDから蛍光灯,LEDへと変遷していく中で平面栽培から多段式栽培が主流になり,施設規模も大規模化が進行している。生産規模の拡大とともに設備の自動化も多様な形で開発が行われてきている。播種から収穫までの工程を自動化した植物工場は次世代に向けた一つの指標となる可能性を示している。
(キーワード:植物工場,スペーシング,自動化,省力化,ロボット)
←Vol.11インデックスページに戻る

国内最大規模の人工光型自動化植物工場「テクノファーム成田」の概要
ENEOSテクノマテリアル株式会社
Jリーフ株式会社
        上原 淳
 ENEOSグループは2021年に国内最大規模となる人工光型自動化植物工場を建設し,レタス生産を開始した。ENEOS株式会社の100%子会社であるENEOSテクノマテリアル株式会社は日新商事株式会社と合弁会社Jリーフ株式会社を設立し,千葉県芝山町に植物工場「テクノファーム成田」を建設した。当工場は株式会社スプレッドが開発した世界最新鋭の次世代型農業生産システム『Techno Farm™』を導入した国内2工場目の植物工場である。生産段数は28段で,日産3万株のレタスの生産が可能である。当工場は2021年6月に操業を開始し,2021年12月にはフル生産に到達,現在も順調にレタスを生産している。
(キーワード:植物工場,人工光型,閉鎖型,自動化,レタス,フードテック,スマート農業)
←Vol.11インデックスページに戻る

組換えイチゴによる動物薬生産
ホクサン株式会社 植物バイオセンター    田林 紀子
 著者らは,医薬品原材料を生産する遺伝子組換え植物およびこの組換え植物の栽培と封じ込めを可能にする密閉型植物工場施設の開発を行い,抽出・精製工程を必要としない遺伝子組換え植物そのものを原薬とした動物用医薬品の実用化に世界で初めて成功した。具体的には,イチゴにイヌのインターフェロン遺伝子を組込み,組換えイチゴそのものが有効成分となる医薬品の承認を得て,2014年にはイヌ用歯肉炎軽減剤「インターベリー α ®」として発売を開始した。現在は,イヌのみではなくネコへの適用を可能とするために,臨床試験にて効果確認を行い,対象動物種の適用拡大のための申請を行っている。
(キーワード:密閉型植物工場,イチゴ,遺伝子組換え,インターフェロン,イヌ歯肉炎軽減剤)
←Vol.11インデックスページに戻る