">
Vol.10 No.12
【特 集】 スマート育種の展開―現状と将来展望―


スマート育種への道のり
農研機構 作物研究部門    杉本 和彦・石井 卓朗
 イネのゲノム配列の完全解読で大きく加速した農業形質に関する遺伝子レベルでの理解,様々な品種や系統のゲノム情報や形質情報,そしてこれらの情報処理技術開発がすすめられた。本特集号ではこれ らの情報や技術を品種育成の現場に利用し,品種育成の迅速化,高度化,省力化をすすめる「育種のスマート化」に関連のある技術や成果を紹介する。
←Vol.10インデックスページに戻る

データ駆動型育種とそれを利用するためのプラットフォームシステムの開発
東京大学 大学院農学生命科学研究科    岩田 洋佳
東京大学 大学院農学生命科学研究科,千葉大学 国際高等研究基幹
    南川 舞
かずさDNA研究所 先端研究開発部    磯部 祥子
ListenField株式会社,中部大学 工学部宇宙航空理工学科    本多 潔
 データ駆動型育種では,マーカー遺伝子型データから選抜対象形質の表現型データを予測するモデルをもとに優良個体の選抜や有望な交配組み合わせを予測して,選抜育種の過程を効率化・高速化する。こうした育種を様々な機関で日常的に実施できるようにプラットフォームシステムが開発され,商用サービスとして近日提供される。同システムはタブレットなどからも容易に利用できる一方で,セキュリティ対策も講じ られている。本稿では同システムの概要とそのカンキツ育種への応用について紹介する。
(キーワード:データ駆動型育種,ゲノミック選抜,ゲノムワイドアソシエーション研究,クラウドサービス,APIプラットフォーム)
←Vol.10インデックスページに戻る

スマート育種を実現する3種の育種情報ツール"Pedigree Finder",
"BRIMASS"および "有用遺伝子カタログとアリルグラフ"
農研機構 作物研究部門    米丸 淳一
農研機構 高度分析研究センター    坂井 寛章・川原 善浩
農研機構 農業情報研究センター    鐘ヶ江 弘美
 「スマート育種」を実現するためには,多種多様な育種情報の整備と利用を進める必要がある。また,これらの育種情報を有効に利用するためには,育種現場における利便性が特に重要となる。そこで,育種情報を集約,解析支援を行う育種情報管理支援システム「BRIMASS」,育種の家系図情報を表示する系譜情報グラフデータベース「Pedigree Finder」および有用遺伝子の品種間多型情報を整理した「有用遺伝子カタログと可視化ツールアリルグラフ」の3種のツールを開発したので,その概要を紹介する。
(キーワード:育種情報,支援,系譜,遺伝子カタログ,アリル)
←Vol.10インデックスページに戻る

ヒストリカルデータの作物育種への利用に向けて
龍谷大学 農学部植物生命科学科    小野木 章雄
 作物育種では毎年栽培試験が行われるため,育成機関には長年にわたる試験結果が多量に保管されている。昨今は様々な測定技術の発展に伴い新しい種類のデータが次々と生み出されているが,そのような状況においてこのヒストリカルデータにはどのような利用可能性があるのだろうか。本稿では,近年急速にデータサイエンスの色を帯び始めた育種の歴史を振り返りながらヒストリカルデータの位置付けを論じ,ヒ ストリカルデータの利用可能性を検証したいくつかの試みを紹介する。
(キーワード:育種,ヒストリカルデータ,データサイエンス,ゲノミックセレクション,機械学習)
←Vol.10インデックスページに戻る

地上ロボットを用いた植物フィルードフェノタイピング技術
東京大学 大学院農学生命科学研究科    郭 威
 フィールドにおける植物の生育状態を測定するフェノタイピング作業の効率化は,ICT,AI,ロボティクス技術の活用を期待され,技術の開発が急速に進んでいる。特に,IOTやドローンなど近接リモートセンシング技術による様々な視点から圃場データの効率的取得が可能となり,そのデータを解析し,フェノタイピングするアルゴリズムの開発も数多く報告されている。本稿は,人の目線に近い視点からのフェノタイピングを焦点にし,圃場で使える地上ロボット技術の現状とその課題,育種現場への応用と将来への展望を述べる。
(キーワード:育種現場,ローバー,自動走行,画像解析)
←Vol.10インデックスページに戻る

UAVを用いた作物育種現場における作物フェノタイピング技術とその利用
農研機構 北海道農業研究センター    秋山 征夫
 ドローン空撮画像を解析する作物フェノタイピングのメリットは,作物育種において非常に大きい。古くから利用されている画像解析法(古典的画像解析法)は特別な技術ではなくなり,作物フェノタイピングの基盤となりつつある。高度化が進んでいる人工知能 (AI) の深層学習は画像認識に有用で,作物フェノタイピングへの応用が期待されている。複数の二次元画像から三次元モデルを構築できるStructure from Motion (SfM) は,作物を立体的に解析できるため,作物フェノタイピングに貢献する技術と考えられる。これら古典的画像解析法,AI・画像解析法,そしてSfMを応用した研究例について紹介する。
(キーワード:rG評価法,SfM,古典的画像解析法,深層学習,HojoLook)
←Vol.10インデックスページに戻る

地中に隠れた作物根系のハイスループット・フェノタイピングを目指して
農研機構 作物研究部門    寺本 翔太・宇賀 優作
 作物根系は土中からの養水分吸収や耐倒伏性,環境ストレス耐性などに深く関与する重要な形質である。しかし,これまで根系改良はほとんど行われていない。主な原因は根が地中に存在し,調査の際に掘り出すなどの大変な労力と時間を浪費することにある。これまで,われわれはフィールドおよび屋内において作物根系を効率的に計測するためのフェノタイピング技術を開発してきた。フィールド向けには,重機を用いた根のサンプリングの省力化や深層学習を用いた画像解析による根系計測の高速化を進めた。屋内向けには,X線CTを導入し,関連する画像技術の開発を通して根系を非破壊で効率的に計測できるプラットホームを構築した。
(キーワード:可視化,環境レジリエント作物,根系形態,非破壊計測,X線CT)
←Vol.10インデックスページに戻る

多様なコムギ遺伝資源をフル活用するスマート育種の実現に向けて
神戸大学 農学研究科    松岡 由浩
 営農環境の過酷化が進行する今日,小麦の生産を維持するため,栽培の主力であるエリート品種の改良が求められている。品種改良の「原資」となる有用遺伝子の未利用アレルを豊富にもつ遺伝資源は,この時代の要請に応える鍵を握るといっても過言ではない。本稿では,パンコムギの最重要遺伝資源の1つであるタルホコムギに焦点をあてる。そして,ジーンバンクに保存されている多様な系統とスマート育種を連結するための研究の新しい展開,具体的には,系統地理に基づく遺伝資源の有用性の評価と人工倍数体を用いたプレブリーディング法の開発について解説する。
(キーワード:パンコムギ,タルホコムギ,合成コムギ,プレブリーディング,ナショナル・バイオリソース・プロジェクト(NBRP))
←Vol.10インデックスページに戻る

野生ダイズのゲノム情報および特性解析からみえてきた
遺伝的多様性とダイズのスマート育種
宮崎大学 地域資源創成学部     橋口 拓勇・橋口 正嗣
東北大学大学院 生命科学研究科    佐藤 修正
宮崎大学 農学部    田中 秀典
 野生ダイズ(ツルマメ)はダイズの祖先種であり,ダイズの栽培化によって失われた環境ストレス耐性,害虫抵抗性,栄養成分,収量等の有用形質を保持していることから,ダイズの品種改良の材料となりうるマメ科植物である。また,野生ダイズは日本に広く自生することから,その集団のゲノム多型情報を調べることで遺伝的多様性を評価し,野生ダイズの起源,繁殖,栽培の変遷を紐解くこともできる。近年,われわれは野生ダイズ集団の系統解析や成分分析を行うことで,野生ダイズがどのように環境に適応し分布域を広げてきたか,どの系統が有用成分を多く含むのかといった情報を蓄積してきた。本稿では,日本各地から収集した野生ダイズの遺伝学的な解析や特性解析から明らかになってきた成果を中心に,ナショナルバイオリソースプロジェクト (NBRP) ミヤコグサ・ダイズの概要,そして野生ダイズも活用したダイズのスマート育種に向けた取り組みについて紹介したい。
(キーワード:野生ダイズ,ゲノム,多様性,特性解析,マメ科リソース,スマート育種)
←Vol.10インデックスページに戻る

ゲノム情報を活用した遺伝資源の整備
―イネコアコレクションの開発―
農研機構 作物研究部門    田中 伸裕
農研機構 遺伝資源研究センター    江花 薫子
 NARO遺伝資源研究センターでは生物の多様性維持のために,世界各地から様々な作物の遺伝資源を収集,保存してきた。遺伝資源は緑の革命をはじめ,農作物生産の向上に大きく貢献してきた。NARO遺伝資源センターにはイネだけで約4万系統の遺伝資源が保管されている。コアコレクションはこの膨大な数の遺伝資源を効率良く利用するために,作物ごとに作出されてきた。本稿では既存のイネコアコレクション,WRCとJRCのゲノム解析と,そこから見えてきた問題点を解決したNAROコアコレクションの作出を行ったので,紹介する。
(キーワード:イネ遺伝資源,遺伝子,コアコレクション,ゲノム解析,GWAS)
←Vol.10インデックスページに戻る