Vol.10 No.9
【特 集】 ウィズコロナに対応した農業と食料


コロナ禍における行動変容と今後の見通し
ニッセイ基礎研究 生活研究部    久我 尚子
 新型コロナ禍で消費行動は大きく変容した。非接触志向が高まり,ネットショッピングの利用やサービスのオンライン化が進み,消費行動のデジタルシフトが加速した。食のデリバリーやデジタル娯楽などの需要も高まり,巣ごもり消費が活発化した。これらはコロナ禍前からの変化が加速したものであり不可逆的なものだろう。一方で感染状況下では旅行や外食などの外出型の消費が打撃を受けているが,これらは可逆的な変化であり,非接触志向が緩和されることで自ずと回復基調を示すだろう。長期的にはバーチャル・リアリティも進展していくのだろうが,短期的にはリアルによる体験価値が再確認され,需要の揺り戻しが生じるのではないか。
(キーワード:コロナ禍,行動変容,巣ごもり消費,デジタルシフト,中食)
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加速する食品・飲料業界のDX
―食のパーソナライゼーションによる新たな生活者体験の創出―
株式会社NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部    三竹 瑞穂
 近年,社会情勢や環境の変化,個人のライフスタイルなどの変化に伴い,食に対する意識の多様化が進んでいる。食品・飲料業界を取り巻く環境変化,世界の食品・飲料トップメーカーのDXの変遷をみながら,業界全体の潮流を探る。2030年までには,食品・飲料業界は社会全体の課題であるウェルネス領域への貢献により一層向かうだろう。そして,DX・D2Cの加速が,業界全体のバリューチェーンの変革をもたらす。企業がウェルネス市場を攻略するための3つの変革ポイントおよびNTTデータFood & Wellnessプラットフォームについて概説し,情報技術を活用した食による健康的な未来を展望する。
(キーワード:DX,D2C,食のパーソナライゼーション,Food & Wellness,情報技術)
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コロナ禍を乗り切るために農林漁業に求められるもの
株式会社 食農夢創     仲野 真人
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は農林漁業の現場にも大きな混乱をもたらした。特に生産者の持つ販路によって明暗がはっきりと分かれた一方で,長引くコロナ禍によって消費者のライフスタイルが変化する中で様々なビジネスチャンスも生まれている。しかし,生産者のみで時代の変化に対応することは容易ではない。まだまだ先の見えないコロナ禍においては,生産者のみならず,食品メーカーおよび観光,小売,外食,ECなどの2次・3次事業者と食農プラットフォームを構築すること,そしてその先にある最終消費者まで巻き込むことによる新しい農林漁業のあり方に期待する。
(キーワード:コロナ禍,ウィズコロナ,農林漁業,食農プラットフォーム,コミュニティ)
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生活様式の変化を好機ととらえ農村活性化を目指す
―マイクロ・ツーリズムとワーケーションへの意識調査から―
東京農業大学 国際食料情報学部    大江 靖雄
 本稿では,コロナ禍で生じた新たな生活様式(ニューノーマル)の下で,我が国農村ツーリズムの新たな方向性とその潜在的需要層について,3大都市住民を対象としたアンケート調査結果を基に考察した。その結果,近隣地域の観光を意味するマイクロ・ツーリズム(micro-tourism)とリモートワークと余暇を組み合わせるワーケーション(workcation)への潜在的需要特性や求める農村側の魅力や必要設備などが明らかとなった。マイクロ・ツーリズムは特に熟年層,ワーケーションでは若年世代で関心が高く,これまで,関心の低かった世代の農村への関心を高めている。農村の自然や歴史・文化および地元料理・酒の3大魅力に加えて,ワーケーションでは基本的ビジネス設備や飲食店が利用可能であることが必要となる。
(キーワード:Covid-19,農村ツーリズム,マイクロ・ツーリズム,ワーケーション,レジリアンス)
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新型コロナウィルス禍における農水産業に対する応援消費
公益財団法人流通経済研究所    石橋 敬介
 本稿では,コロナ禍の下での農水産業への応援消費について,その実態調査の結果を記した。コロナ禍では,東日本大震災後ほどではないものの15.3%の回答者が応援消費を行っていた。また,若年層よりも高齢層で,応援消費を行った者の割合が高かった。さらに,高齢層では果物で応援消費を行った者が多いことや,若年層では果物や水産物で行った者が少ないことを明らかにした。応援消費を行った理由としては,応援先が困っていると感じたことが多く選ばれたが,それ以上に廃棄されるのはもったいないという理由が選ばれた。これらの調査結果は,農水産業の生産者などが応援消費を獲得する際のターゲットやメッセージの検討に利用できるものである。
(キーワード:応援消費,消費者調査,新型コロナウイルス,購買行動)
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プロトンポンプの機能を高めることによりイネの収量向上と肥料の削減を実現
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所
名古屋大学大学院理学研究科
    木下 俊則
 植物における根の養分吸収と気孔開口に共通して重要な役割を果たしている細胞膜プロトンポンプの発現を高めた過剰発現イネを作出し,詳細な解析を行った。その結果,過剰発現イネは,野生株と比べ,根での養分吸収,気孔開口,光合成活性が20%以上増加し,水耕栽培において地上部バイオマスが20%以上増加し,さらに,3カ所の異なる野外の隔離水田圃場において,野生株より30%以上収量が増加した。加えて,過剰発現イネでは窒素の施肥量を半分に減らしても,通常の窒素量の野生株よりも収量が多いことも明らかとなった。本稿で紹介する技術は,今後,食糧増産や環境問題解決への貢献が期待される。
(キーワード:プロトンポンプ,イネ,気孔,収量向上,肥料削減)
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収量を落とさずに窒素肥料を減らす地球に優しいBNI 強化コムギの開発
国際農林水産業研究センター    吉橋 忠
 窒素肥料の多くは作物に吸収されず,硝化に伴い農業由来の環境負荷となる。作物が硝化を抑制する生物的硝化抑制(BNI:Biological Nitrification Inhibition)を活用することで,作物の生産性向上と環境負荷低減を両立できる。高いBNI能を持つ野生コムギ近縁種であるオオハマニンニクとの属間交配により,多収品種にBNI能を付与したBNI強化コムギを開発し た。BNI強化コムギはほ場において,土壌中のアンモニア態窒素の硝化を遅らせ,その土壌中濃度を向上させ,低窒素環境においてもコムギの生産性が向上し,コムギの窒素利用効率が向上する。
(キーワード:生物的硝化抑制,コムギ,イネ科穀物,畑地,窒素肥料)
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