Vol.10 No.7
【特 集】 イノベーションが切り拓く食の新市場

イノベーションが変える食の未来を展望する
宮城大学 食産業学群    石川 伸一
 食産業の分野に第四次産業革命とよばれるサイバーフィジカルシステムを基にした製造業の革命が起こっている。新しい食の技術はフードテックとよばれ,さまざまな先端テクノロジーが食の分野にイノベーションを引き起こしている。人口増加などに伴う畜産タンパク質食品の需要増加を満たすために,培養肉や植物性代替肉の開発が激化している。また,3Dフードプリンタによって,栄養面,機能面,嗜好面が反映された個別化食が生み出される可能性がある。しかし,フードテックの今後の発展や社会実装には,科学と技術の融合や人の心理,思想,文化,価値観への配慮が必要であり,それらがうまく解決されることが期待される。
(キーワード:フードテック,代替肉,培養肉,3Dフードプリンタ)
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培養肉の開発の取り組みと将来展望
インテグリカルチャー株式会社    川島 一公
 培養肉の開発は,SDGsを達成するための新たな食肉生産法として注目されている。培養肉には細胞培養技術が使われているが,培養に使用する原料が食品化されていないことと,コストが高いことが問題となっていた。これまで著者らは,培養肉の社会実装に向けて食品化とコストの削減を実現する培養装置CulNet System(カルネットシステム)を中心とした技術開発を進め,これらの問題の解決にあたってきた。また,将来的にCulNet Systemの汎用性を高め,農業機械として生産者に使用してもらうことを念頭に社会実装することを目指しており,その際に生まれるエコシステムに関し考察を行った。
(キーワード:培養肉,細胞農業,CulNet System,細胞培養)
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食ですべての人の健康を実現したい ―個別栄養最適食「AI食」―
株式会社ウェルナス    山口 翔平・野澤 周吾・小山 正浩
 社会の食に対する健康意識が高まる一方で,従来の科学的エビデンスでは個人への食の効果を判定することは困難である。そのため,すべての人々が食で健康を実現するためには,個別に効果を評価し,その個人に効果が出るように設計した食の提供が必要である。著者らが研究・開発を行っている個別栄養最適食「AI食」では,個人に紐づいた身体データと食データの解析により,個人が望む健康を実現するための食を提案することができる。「自己の健康実現」という明確な目標のために個別に最適化されたAI食は,将来の食の在り方を変える可能性を秘めている。
(キーワード:個別栄養最適食,well-being,食のパーソナライゼーション,ヘルスケア,フードテック)
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3Dプリンタを応用した構造化和牛培養肉の開発
大阪大学大学院 工学研究科    松崎 典弥・Fiona Louis
 近年,将来の食料問題や環境問題の解決策として植物由来の代替肉や細胞を培養して作製する培養肉が注目されている。本稿では,ティッシュエンジニアリング技術を応用し,バイオプリント装置を用いた霜降り構造を有する和牛培養肉の作製に関するわれわれの取り組みを解説する。
(キーワード:構造化培養肉,3Dバイオプリント,組織工学,線維(ファイバー)組織)
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VR/ARの食への応用と今後の可能性
筑波大学 システム情報系    橋本 悠希
 食は五感体験であり,形,色,香り,食感,音などのあらゆる感覚要素を知覚することで総合的に食品を味わっている。これに対して近年,バーチャルリアリティ/オーグメンテッドリアリティ(VR/AR)技術が大きな発展を遂げ,複雑で実現が難しいとされてきた食体験を再現・拡張する研究が増加している。本稿では,食のVR/ARに関する最新の研究事例を,視覚,聴覚,触覚,嗅覚,味覚の各感覚について紹介すると共に,筆者自身の研究事例である,バーチャルな吸飲感覚を提示するシステムについて解説し,食のVR/ARが持つ可能性について述べる。
(キーワード:バーチャルリアリティ,オーグメンテッドリアリティ,五感,食体験,吸飲感覚)
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食用コオロギを活用した循環型食品の研究開発と事業化
徳島大学バイオイノベーション研究所・株式会社グリラス    渡邉 崇人
 喫緊の課題である食料問題に対する解決策の一つとして,昆虫であるコオロギに注目が集まっている。徳島大学ではコオロギの食用利用を拡大するために,コオロギ生産を効率化するための品種改良,大規模飼育を可能にする生産システムの構築,フードロスでの飼育技術開発などの研究開発を進めている。さらには,社会実装を加速するための大学発ベンチャーとして株式会社グリラスを起業し,食品原料の販売から自社の加工食品の開発・販売を進めている。
(キーワード:コオロギ,品種改良,コオロギ生産システム,フードロス,大学発ベンチャー)
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昆虫の食品・飼料利用に向けた課題と展望
大阪府立環境農林水産総合研究所 食と農の研究部    藤谷 泰裕
 海外では昆虫生産のための大規模プラント建設への投資が盛んで,技術革新と共に昆虫利用に関する法整備も進められている。昆虫の食品・飼料利用の普及には,昆虫生産コストの低減,安全性・機能性な ど製品の品質保証,そして社会受容性が必要である。日本でもスタートアップ企業による生産実証,大学や研究機関における魚や家畜への給餌試験,機能性の探求が活発化してきている。昆虫フードテックへの参入 企業が増える中,科学的根拠に基づく適正な品質評価や製造規範を整備することで社会の受容性が高まり,技術革新と市場拡大につながることを期待している。
(キーワード:技術革新,安全性,機能性,社会受容性,法整備,昆虫フードテック)
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