Vol.9 No.3
【特 集】 第21回民間部門農林水産研究開発功績者表彰受賞者の業績


口蹄疫抗原検出イムノクロマトキットの開発と普及実用化
日本ハム株式会社    松本 貴之・北條 江里・浦山 佳那
富士フイルム株式会社    中村 健太郎・和田 淳彦
 口蹄疫は,牛・豚・山羊・緬羊・水牛等の偶蹄類家畜およびラクダ・シカ等の偶蹄類野生生物が感染する急性伝染病で,世界で最も恐れられている家畜伝染病の一つである。日本では,2000年と2010年に発生し,特に2010年の宮崎県での発生では,感染が急激に拡大して終息までに約3カ月を要し,約30万頭におよぶ牛・豚の殺処分をする結果となった。口蹄疫の防疫で重要とされているのが早期発見である。これまで日本国内で口蹄疫が疑われる家畜がいた場合には,現場においては臨床的症状のみしか判断材料がなかった。日本ハム株式会社および富士フイルム株式会社は,農研機構動物衛生研究部門と共同で現場で使用可 能な口蹄疫ウイルス検出技術を開発し,口蹄疫抗原検出キット「NHイムノスティック 口蹄疫」として製造ならびに販売を開始した。本キットの活用により口蹄疫の早期発見に貢献し,発生に伴う経済的被害の低減および日本国内の食肉の安定供給に寄与すると期待している。
(キーワード:口蹄疫,簡易迅速検査,検査キット,抗原検出,銀増幅イムノクロマト法)
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CO2&Air局所施用を主とした環境統合制御による生産性の向上
株式会社テヌート    藤原 慶太・弓谷 賢二
 日本の農業においては,化石燃料を焚いて加温する事が主流であり,またCO2施用においても,ハウス内で化石燃料を焚き排出される排ガスのCO2をハウス全体に充満させ,植物体へ光合成促進として施用しているのが現状である。株式会社テヌートは,排出されて要らなくなったCO2を分離回収し使用されている工業用ボンベを農業のCO2施用に本格的に使用する技術を開発している。葉の気孔近くに配管を設置し,流量,圧力,時間,CO2濃度を制御することで,植物体が必要としているCO2を必要な分だけ必要な部位を中心に施用する局所施用方式を確立した。これにより,ハウス内環境に優しく,ランニングコストにおいても化石燃料焚きと遜色無い価格まで対応できるようになってきた。
(キーワード:CO2,Air,局所施用,多点観測,多エリア個別独立制御)
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わかめ養殖種苗の優良系統開発と生産条件最適化による普及実用化
理研食品株式会社    佐藤 陽一・斎藤 大輔・最上谷 美穂
 三陸わかめの養殖生産量は漁業者数の減少や海況変動などの影響により減少しつつあり,需要を満たせていない。そこで,優良系統開発と種苗を安定供給するための生産技術開発に取り組んだ。優良系統は,新たに開発した陸上水槽装置を用いて,日本各地のわかめを同一環境で養殖して選抜し,早生や晩生などの生長特性が異なる系統を作出した。種苗生産は,応答曲面法を活用して水温や光量などの環境条件を最適化した。得られた条件を付与できる生産システムを設計開発し,宮城県名取市にわかめ原藻1,000t規模の種苗生産施設を整備した。生産した種苗は三陸および北海道の既存養殖産地における生産性向上や新たな養殖産地の形成にも活用されている。
(キーワード:わかめ,養殖,種苗,応答曲面法,最適化)
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農業水利施設の遠隔診断による施設維持管理の高度化
国際航業株式会社     金子 俊幸・西岡 陽一
応用技術株式会社
    山崎 徹
株式会社水域ネットワーク
    神田 康嗣
富士フイルム株式会社
    菊池 浩明
 本開発では,UAV(ドローン),AI等の先端技術を組み入れ,水利施設の遠隔三次元計測により沈下やひび割れなどの外的変状を自動抽出し,老朽化の程度を診断する技術体系を構築した。具体的にはUAVによる空中写真撮影から施設構造物の3次元モデルを生成し,ダム,水路,樋門等の水利施設および海岸堤防の破損・欠落,沈下,ひび割れ等の外的変状を自動抽出した。3次元データを活用した変状の自動抽出から点検台帳作成までの一貫したサービスをクラウドシステムとして構築したことにより,従来作業に比較して約2割程度の点検コスト削減効果を実現した。
(キーワード:UAV,AI,SfM解析,変状自動抽出,クラウド)
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輸送中の損傷を軽減するイチゴ容器「ゆりかーご」の開発
大石産業株式会社    大石 高也
 イチゴを輸送するための新しい出荷容器として,宙吊り型構造を有する容器「ゆりかーご」を開発し,その傷防止効果について検討した。福岡県から東京へ,トラックまたは航空機により輸送試験を行った。従来型の容器に比べ「ゆりかーご」は輸送中の玉まわりが抑えられたため傷の発生が少なかった。また,近年では輸出用の需要も増えている。さらに2016年からコスト削減仕様の開発にも着手している。
(キーワード:イチゴ,出荷容器,損傷防止,緩衝効果,「ゆりかーご」)
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国産材を用いたCLT(直交集成板)による
中層大規模建築物の普及促進
一般社団法人日本CLT協会     河合 誠
 ヨーロッパで生まれて急速に展開しているCLTは,北米・オーストラリアにも技術移転が行われている。日本におけるCLTの導入は後れを取っているわけではないが決してヨーロッパのような発展のスピード感はない。日本に導入した経緯から実用的な工法に育て上げるまでのJASならびに国土交通省告示が制定される工程を説明した。さらに普及活動の状況と日本の森林事情および環境対策・地方創生など現代日本の抱える課題解決の一つとしてのCLTをさらに発展させるには何が必要なのか。普及のポイントは今後の組織的行動の継続に掛かっている。
(キーワード:直交集成板,CLTパネル工法,燃えしろ設計,ロードマップ,地方創生)
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