Vol.33No.10
【特 集】 自給飼料の増産・高度利用に向けて


わが国の飼料構造の転換
畜産・飼料調査所 御影庵    阿部 亮
 日本の純国内産飼料の自給率は,平成元年以降,23〜26%で推移してきた。配合飼料の主要原料であるトウモロコシはすべて輸入品であり,その量は年間1,200万t前後である。濃厚飼料原料だけでなく,乳牛に給与する粗飼料についても,輸入乾草への依存度が,特に都府県の酪農経営では高い。そのような中,平成18年度後半から平成20年にかけて,トウモロコシのシカゴ商品取引所での価格の高騰と原油価格の急騰による運賃の値上げによって配合飼料と輸入乾草の農家購入価格が急上昇し,"平成の畜産危機"と呼ばれる事態がもたらされた。世界の経済情勢の変動に対して緩衝能の高い飼料構造が国内に確立されなければならないが,そのためには,低・未利用資源の飼料としての活用,自給粗飼料の増産を中心とする飼料ベストミックスの構築が必要である。現在,未利用資源の活用ではエコフィードが,自給粗飼料の生産ではコントラクターが,自給粗飼料とエコフィードの結節ポイントとしてはTMRセンターが全国に芽生え始めている。
(キーワード:飼料自給率,輸入乾草,コントラクター,TMRセンター,エコフィード)
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飼料用米・イネ発酵粗飼料向け多収品種の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所    前田 英郎
 飼料自給率の向上を目指すために,飼料用水稲の生産拡大が求められている。水田における飼料用水稲の栽培を安定化するためには,子実や茎葉を含む地上部について高い生産性を備えた専用品種の利用が不可欠である。飼料用水稲品種は利用形態に応じて,子実を濃厚飼料として利用する飼料用米品種,地上部全体を発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)として利用するイネ発酵粗飼料用品種,さらに両方の利用が可能な兼用品種の3品種に分けることができる。本稿では,それぞれの利用形態に沿って育成された飼料用水稲品種の特性と今後の開発について紹介する。
(キーワード:イネ,育種,飼料用米,発酵粗飼料)
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イネ発酵粗飼料の収穫調製および流通技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所     浦川 修司
 イネ発酵粗飼料は水田政策と密接な関わりを持ちながら進められてきた。特に「水田農業経営確立対策」と同時に,農林水産省による国や県,民間や大学を含めた大型プロジェクト研究として,専用品種の育成から栽培,収穫調製,家畜への給与までの総合的な技術開発が開始された。このプロジェクト研究や,その後の継続的な研究によってさまざまな研究成果が生み出され,作付面積は飛躍的に拡大した。なかでも,飼料用イネ専用の収穫機が開発されたことで,圃場条件に影響されることなく,良質なイネ発酵粗飼料を生産し,流通できるようになった。
(キーワード:イネ発酵粗飼料,飼料用イネ専用収穫機,ロールベール,耕畜連携)
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飼料用トウモロコシの作付け拡大と高度利用技術
地方独立法人北海道立総合研究機構    大坂 郁夫
 わが国の家畜飼料は輸入に依存しており,国際価格の影響を受けやすい構造になっている。そのため,畜産農家の経営は不安定な状態にあり,飼料自給率の向上が喫緊の課題となっている。そのような状況にあって,飼料用トウモロコシは輸入穀物の代替えという考え方が先行しているが,どのような使い方が効果的か,あるいはどれくらいまで利用可能かなどについてはあまり知られていないのが実情である。そこで,本稿では飼料用トウモロコシの作付け拡大および高度利用を阻害する要因を整理するとともに,それを解決するための取り組みについて紹介する。
(キーワード:飼料用トウモロコシ,トウモロコシ栽培適地,極早生トウモロコシ品種,破砕処理サイレージ)
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食品残さの飼料化技術とその高度利用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所     川島 知之
 エコフィード(食品残さ飼料利用)の調製技術としては乾燥,サイレージ,リキッドフィーディングに大きく分けられ,それぞれ単味の資源を活用したものや,多様な資源を組み合わせた取組がある。エコフィードの利用においては,成分の変動をいかに抑えるかが課題になるが,下記のポイントで対応できる:(1)成分が安定している残さの利用,(2)成分の安定したものの一部として利用することで変動を希釈する,(3)大規模に収集すると成分は安定する,(4)類型化して分別し,その代表値により配合する。
(キーワード:食品残さ,エコフィード,飼料成分,飼料化技術,設計プログラム)
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地域自給飼料生産システム構築の必要性
九州大学大学院    福田 晋
 労働力や機械装備に制約のある畜産経営が自給飼料生産の作業をコントラクターに委託する外部化・分業化は日本型地域自給飼料生産システムの第1ステージであるといえる。現在,耕種経営が飼料を生産し,自給飼料基盤に乏しい畜産経営に販売する外部化・分業化の第2ステージの段階に入ってきた。飼料用稲や飼料米の生産・販売はその典型であり,畑作地帯ではトウモロコシサイレージの流通がすでに普及している。そして,そのような地域自給飼料生産システムの構築には,生産力の高い主体とシステムをコーディネートする主体とともに,合理的な技術的条件および経済的条件が必要となる。
(キーワード:地域自給飼料生産システム,コントラクター,コーディネート機能)
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耕作放棄地を活用した小規模移動放牧による粗飼料資源の有効利用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター     山本 直幸
 耕作放棄地の増加は大きな問題となっているが,自給飼料率向上の面からも和牛の放牧利用に期待が寄せられている。耕作放棄地の代表的植生はイネ科,キク科などであるが,それらを適切に活用するには嗜好性や植生変化,牧養力の判断が重要であり,また放牧可能日数や野草の可消化養分総量(TDN),粗タンパク質(CP)含量の推定も必要である。移動放牧では生産性を落さないように転牧時期を判断しなければならないが,それには採食回数や群落高,植被率の測定が有効である。今後,和牛生産のさらなる拡大と自給飼料率向上ため,畜産側と耕種側との有機的な広域連携による中国地域における周年屋外飼養技術の開発が求められている。
(キーワード:繁殖和牛,耕作放棄地,小規模移動放牧,粗飼料資源)
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西南暖地の多様な地域資源を活用する地域畜産システムの構築
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター     佐藤 健次
 温暖な九州地域では多様な飼料作物が生産され,近年は飼料イネの生産も加わり多様性がさらに増している。一方,焼酎の生産量の増加に伴う焼酎粕などの食品残さも多様に排出されている。九州管内で主流のプラントで生産される焼酎粕濃縮液(水分約60%)や飼料作物(飼料イネを含む)などを活用する新しい発酵TMR(混合飼料)のロールベール生産技術システムおよびその地域利用システムの開発を通して地域畜産システムが構築されている。
(キーワード:飼料作物,飼料イネ,焼酎粕濃縮液,TMR,畜産システム)
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