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バラの歴史


バラのルーツ   古代のバラ   伝播と進化   香料や薬用など
バラの原種   近代のバラ   新しいバラを求めて





バラのルーツ
 アジアや欧米などに自生分布しているバラの近縁種(バラ科、バラ属の植物)は200種にも及ぶとみられています。発掘された化石の分析から、 野生のバラは3千万年も前にすでに北半球の各地に分布していたことが分かっています。それよりずっと前にバラの祖先種は世界のどこかで生まれ、 分化しながら各地に伝わっていったのです。

 バラの生まれ故郷はいったい何処なのでしょうか。真実はまだ誰にも分かっておりませんが、近縁野生種の分布や遺伝的な変異の状況から、 専門家はヒマラヤの麓や渓谷あたりが、バラの発祥地としてもっとも可能性が高いとみています。

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古代のバラ
 バラは伝説やロマンに彩られた究極の植物であるといわれていますが、単に優れた園芸植物というだけでなく、文芸、美術、さらに香料や薬の分野でもきわだった役割を演じてきました。

 クレタ島の壁画(3000-1100BC),バビロニアの叙事詩(2000BC),ギリシャの史家ヘロドトスの著書「歴史(400BC)」,哲学者テオフラストスの植物誌(300BC)など、 バラは紀元前にもいろいろなところに登場してきました。クレオパトラや皇帝ネロも沢山の花びらを宮殿の床に敷きつめたり、ネットにいれて天井から吊したり、 あるいはお風呂に浮かべて楽しむなど、贅沢な使い方をしたことが知られています。

 ちなみに、クレオパトラがアントニウスを迎えたときには宮殿全体をバラで飾り、廊下にはバラの花びらを20cmほど敷きつめたと言われています。高価なローズオイルも、 支配者の象徴としてふんだんに愛用したようです。

 政治との関わりではイギリスのバラ戦争が有名です。白バラを徽章とするヨーク家と、紅バラのランカスター家が王座をめぐって激しく対立したのですが、 結局ランカスター派のヘンリー(七世)が王位の座につき上り、ヨーク家のエリザベスを妃とし、シンボルも紅バラと白のTutorローズを用いて国の統一をしました。

 バラの栽培史については紀元前500年頃に、古代中国の宮殿(周王朝)の庭で栽培されたのがもっとも古い記録だとされています。ギリシャでも紀元前後に栽培されはじめたらしいのですが、 一般化してきたのは3世紀のローマ帝国時代以降といわれています。

 ギリシャの女流詩人、Sapphoがバラは「花の女王」であると讃えましたが、それ以来すでに2千年以上も経っています。長い歴史の中でバラの魅力は衰えるどころか益々深まってきているのです。

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伝播と進化
 ローマ帝国の崩壊とともにバラの栄華も一時は衰えましたが、やがて7世紀中期にサラセン帝国の隆盛をみるに及んで、バラは南欧スペインまで到達することになりました。 バラの東西交流に果たした十字軍の役割も極めて大きかったといわれています。十字軍は11世紀から13世紀の間に7回も遠征したのですが、東方からの帰りにバラの新種を西ヨーロッパに持ち帰って広めたのです。

 バラが芸術品のモチーフとして頻繁に登場するようになったのは14世紀以降、イタリアのルネッサンス期から後のことで、この頃からヨーロッパにおけるバラの栽培も盛んになってきました。 バラの発展に偉大な貢献を果たしたのは、ナポレオンの第一妃ジョセフィーヌ(Josefine)です。彼女は1802年にマルメゾン離宮に広大なバラ園を作り、そこに世界から集めた珍しいバラを栽培しました。 花だけでなく樹全体を鑑賞の対象にしました。ジョセフィーヌは1814年に亡くなりましたが、彼女のコレクションは250種類にも達していました。とても幸運なことですが、 この大コレクションの多くは図譜として私たちに残されているのです。さらに、特筆すべきことですが、このバラ園で働いていたA.デュポンが世界で初めて人工交雑によって新しいバラを作出しました。 近縁種間の交雑によって花形、色、香り、四季咲き性などバラの遺伝的な性質に革命的な変化が生じましたので、この時期よりも前のバラを「オールドローズ」、 それ以後のバラを「モダンローズ」と称することになりました。

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香料や薬用など
 インド北部のカシミヤ王国で発見されたといわれているバラの精(Attar of roses)は、香水や死者への塗油(Anoint)として広く用いられていました。 しかし、古代中国ではローズオイルを使用できるのは支配層に限られており、フランスでも一般の人たちがローズオイルを使えたのは、結婚式の時ぐらいだったといわれています。

 バラの香気成分を分析すると600種類以上もあるそうですが、成分バランスや量によって甘い香りや優雅な香りなど奥深い芳香が生まれます。ローズオイルはどの時代でも極めて高価で、 同じ重さで比較すると金の6倍以上もしたそうです。ローズオイルの主産国はブルガリアで、輸出先は主にフランスです。

 19世紀に用いられた植物性の薬にはバラの成分を含んだものが多かったといわれています。病気の治癒に効果のある成分は主にバラ、とくに薬用バラ(Apothecary Rose)として知られていた Rosa gallicaの花びらに多く含まれていました。バラの花びらを原料として作られた薬は胃の消化薬として広く用いられました。また、ダマスクバラ(Damask Rose、Rosa damascena) のシロップは下剤として、バラの花びらを酢に漬けた「バラ酢」は鎮静・頭痛薬として用いられました。バラの実から取り出した果肉を砂糖と混合・調整したものも慢性病に効く薬として売られていました。 薬用としての需要は激減しましたが、バラの実はお茶や砂糖漬にして今でもまだかなりの量が消費されており、ビタミンCの供給源になっています。実だけでなく花も食用になります。 このような用途にはRosa rugosaR.caninaが適していると言われています。

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バラの原種
 現代のバラ品種を成立させた祖先種をたどって行きますと、ノイバラ、ハマナス、庚申バラなど7、8種の野生バラにたどり着きます。このような野生種を一般にバラの「原種」と呼んでいますが、 それらの大部分はRosa gallicaや、その近縁種を含むGallicanaeと呼ばれている植物グループに属しています。これらの野生植物も美しい花をつける魅力的な植物ですが、 残念なことにそれらの真価はほとんど認められていません。たとえば、Rosa eglanteriaは芳醇な香りのするかわいい実をつけますし、Rosa virginianaは花、実、葉のいずれも豊かな色彩に富んでいて、 四季を通じて楽しむことができます。今日広く栽培されているバラの品種は次に列記しました植物のうち2種以上の植物を遺伝資源として交雑・育成されたものです。

ノイバラ ハマナス
ノイバラ ハマナス

写真をクリックすると大きな画像が見られます。

 ちなみに、ここに掲げましたバラの原種はアジア原産の植物ばかりです。

Rosa gallica officinalis

Rosa chinensis  R.damascena  R.foetida  R.gallica  R.moschata
R.multiflora  R.odorata  R.rugosa  R.wichuraiana

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近代のバラ
 19世紀以前に中国で育成・栽培されていたRosa chinensisR.giganteaとの交雑種がヨーロッパに導入され、Bourbon roseとの交雑が試みられました。 その結果、Hybrid perpetual系とTea系のバラが生まれ、さらにこの両系間の交雑からHybrid teaHT)系が育成されました。 1867年に発表されたギョー氏作出の「ラ・フランセ」が四季咲き大輪バラ(HT系)のナンバーワンとされています。

 それまでのBourbon系のバラは晩春から夏にかけて年一回開花するだけでしたが、中国種から四季咲きの性質や多様な花色、つる性、耐寒性などの諸性質が導入されて近代のバラが出現したのです。 さらに日本原産のノイバラ(R.multiflora)とR.chinensisとの交雑種であるPolyantha系にHT系を交雑して育成したのが、 中輪多花性のFloribundaFL)です。花粉親の分からない自然実生から選抜・育成された場合が多かったので、系統関係は必ずしも判然としませんが、 東洋種と西洋種との交雑が繰り返されて遺伝変異に富む魅力的なモダンローズが数多く発表されました。

 最近、世界に新風を巻き起こしているバラに「イングリッシュローズ」と呼ばれている品種グループがあります。 これは英国の育種家D.オースチンが優雅な花形や芳しい香りを備えたオールドローズに現代のバラを戻し交雑して作出した、いわばオールドローズタイプのモダンローズで、 現在、100を越す品種が出回っています。

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新しいバラを求めて
 新しいバラを求めてやまないバラ愛好家や育種家達によって、バラは少しずつ姿を変えてきました。このようなローザリアンといわれる人たちは、 いまでも病気や害虫に強い抵抗性のある品種の育成をめざして頑張っています。イングリシュローズは、オールドローズの優雅な花形や芳醇な香りの素晴らしさを見直すきっかけを与えてくれました。 グランドカバーローズも、修景用としてのバラの新しい展開方向を示しています。

 優れた形質を持ちながら、これまで一度も遺伝資源としてバラの育種に使われていない野生バラがまだ沢山あります。これらを交雑の親に活用することによって、 もっと新しいタイプのバラが生まれる可能性があります。バイオテクノロジーを駆使した青色のバラも、近い将来私たちの前に姿を現してくれるでしょう。 バラの行く手はますます明るく刺激的といっても過言ではありません。

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