種付から肥育まで養豚経営支援システムを活用して効率化と安全・安心を増進

 

【先端技術の概要】

l  先端技術を用いた商品・サービスの名称:『Porker

l  商品に実装されているコア技術:養豚経営支援システム

l  商品・サービス事業者:株式会社Eco-Pork

l  対象となる作物等及び作業:養豚の最適生産管理

l  目指した効果・メリット:作業の効率化、商品の安全・安心の増進

l  商品・サービスのウェブサイト:https://www.eco-pork.com/service

 

【導入事業者の概要】

l  名称:株式会社アーク

l  取材対象者:専務取締役・養豚事業部本部長 橋本 友厚 氏

l  本社等所在地:岩手県一関市藤沢町黄海字上中山89

l  会社ウェブサイト:https://www.arkfarm.co.jp/

l  事業概要:昭和47年創業。東京と広島に営業所を置き、養豚(母豚3,000頭)を中心に、農畜産物の生産、加工、販売及びサービスを広く展開。岩手県一関市内に100haの広大な「館ヶ森アーク牧場」を運営し、ファームマーケットのコンセプトに基づき憩いと食を学ぶ場を提供。「食はいのち」という理念の下、「自分たちの家族に安心して食べさせられるもの」を作り続けている。農業HACCPと、東北の企業では初(全国でも2社目)のJGAP認証を取得している。品質、美味しさ、安全、環境などへのこだわりは折り紙付きであり、極めて困難とされる無添加のハム・ソーセージの商品化に成功している。

 


   養豚場で作業中の橋本氏

 

【先端技術の導入に至った経緯】

l  そもそもどういう問題・課題に直面しており、それをどのように改善・解決したかったか:

「ひと言で“養豚”と言っても、その中身は種付、分娩、肥育など様々な段階に分かれています。妊娠期間はおおよそ4カ月で、分娩から肥育が終わるまではだいたい半年かかります。この計1年弱の期間を豚に健やかに過ごしてもらえるように管理するのが我々の仕事であり、こだわりです。ところが、いま言ったように色々な段階があるので、豚の成育環境や体調を適切に保持するための作業は温度・湿度管理、増体重、在庫管理など多岐にわたります。また、当社には常時3,000頭もの母豚がいるので、必然的に業務量もとても多くなります。当社は『食はいのち』という理念の下、品質には徹底的にこだわっているので、こういった条件下でどのようにお客様に美味しく、安全、安心な豚肉を提供できるかは重要な経営テーマです。」

l  その問題・解決を先端技術によって解決しようと思った理由・きっかけ:

「かつては、紙のフォームに生産に関する各種の数値を記入して、電卓で集計し、それをPCへ打ち込み、必要に応じて印刷して資料として活用していました。しかし、経営規模の拡大などに伴って扱うデータ量が増えました。同時に、時代潮流としてICT化やペーパーレス化も進んできたので、先端技術を使った効率化や業務改善の必要性を感じていました。また、日々の業務の中では、顧客の要請や市場の需要を踏まえて種付、分娩、出荷等に関する計画を的確に立てて実行する必要がありますが、子豚の中には授乳期や離乳期などに急に死んでしまったりするものが出て来ます。規模が拡大するほど、そうした事態を把握・予期して計画をより緻密に立てることへのニーズが社内でも強まりました。そうした経緯の中で、養豚の最適生産管理のための経営支援システムを改めて導入することにしたのです。」

「加えて、ベテラン社員の経験と勘に頼りすぎることへの問題意識もありました。当社は20年前はベテランを中心に4050名規模でしたが、現在は約150名の社員がいて若手の割合が高まっています。まだ経験がさほど豊かでないスタッフに、経験と勘以外の拠り所を持ってもらう上で、先端技術は有効ではないでしょうか。」

l  技術導入に際して助言・支援してくれた関係者:

「当社が農業HACCPJGAPの認証を取得した後、それを本当に実効的に生産の仕組みに組み込んでいくにはどうすればよいか悩みつつ検討していた時期がありました。そのとき、懇意にしていた当社の契約獣医の方から、Eco-Porkという会社が養豚経営支援システムを開発中だと伺いました。それが、『Porker』導入の検討を始めるきっかけになりました。」

 

【商品選択の決め手】

l  先端技術の導入までに検討した選択肢(製品・サービス)の内容:

「実は、『Porker』のことを知る以前から、Eco-Pork社以外の会社が提供している経営支援システムを幾つか検討したり、試用したりしていました。ですが、現場の改善に十分に結びつく手応えを感じられず、本格導入には至っていませんでした。」

l  先端技術の選定に際して重視した基準・目安:

「現場での様々なデータ管理をなるべくシンプルに合理化出来ることがまず条件として有り、加えて当社は、農業HACCPJGAPの取得企業として、両認証の要件を生産工程の中に具体的に実装する必要があります。従って、導入する経営支援システムはそれを担保してくれるものが望ましかった。『Porker』にはそれが組み込まれていたので、大きなメリットだと感じました。」

l  最終的に当該製品・サービスを採用すると決めた理由:

「実はEco-Pork社は、元々いわゆるIT関連業界にいた方々の養豚管理ソフトのベンチャー企業だったのです。その時点で興味深く、また実際に社長や社員の方に会って話を伺うと、日本の養豚業務を発展させるためにソフトウェアエキスパートの立場から貢献したいという熱意と意欲に溢れていた。そこが新鮮に感じられたし、同じ志を共有できると思ったので、同社の製品に決めました。」

 

【先端技術の効果・メリット】

l  先端技術の導入により、具体的にどういった効果・メリットを享受しているか。また、それは当初想定に比べてどうであったか:

「実際に導入してみて、従前の大量データのパソコン入力作業が大幅に軽減されて来ています。かなりの負荷軽減になってきていると思います。」

「クラウド上からいつでもどこでも見たいデータを携帯端末上に引っ張って来られるのは便利ですし、どこで何が起こっているかを把握し、すぐに必要な手を打つことができるのもメリットです。当社の場合、養豚場が4カ所あり、それぞれに応じた管理をしなければなりませんが、端末上で各養豚場の日々の日産データが一目瞭然です。もし、豚舎での異常を感じた場合は、その時点で契約獣医師とデータをウェブ上で確認し合い、必要な診断や対応を指導していただくこともできます。機動性が高まったと思います。」

「それから、これは『食はいのち』を標榜している当社にとってとても大切なことなのですが、経営管理システムがトレーサビリティの点で優れたパフォーマンスを発揮してくれることが大きいですね。例えば、当社の豚から作られた食肉に異物が混入していた場合は、生産工程を遡及して追跡調査を行わなければなりませんが、これを速やかに行うことができます。また、豚が病気になったときは投薬を行うことがありますが、その履歴もきちんと残すことができます。」

「こうしたトレーサビリティや投薬履歴などに関する機能は、食の安全・安心の増進を支えるものであり、『食はいのち』という当社の創業時からの信念をシステム的に担保してくれるものですから、無くてはならないものと思っています。」

l  先端技術の効果・メリットのコストパフォーマンスをどう評価するか:

「経営支援システムなど先端技術の導入は、従来の投資に比べたら決して安価なものではありませんが、単純比較は出来ないと考えています。というのも、先ほど言ったようにこのシステムは当社の理念を支えるインフラのツールでもあり、将来に向けた戦略的な先行投資と位置付けていますから、安ければ良いとは言い切れないと考えています。」

l  効果・メリットを実現する上で、思わぬ苦労や障壁はあったか:

「苦労とは違いますが、システムというものには常に改良の余地があり、使っている中でこういう機能があったらいいのにというニーズが出てきます。いまでもEco-Pork社は当社の意見・ニーズに基づきソフトウェアを速やかに改良しようという姿勢を持ってくれています。このレスポンスの良さはとてもありがたいですね。」

 


      『Porker』の操作風景

 

【先端技術の導入プロセスにおける専門コンサルの重要性】

l  先端技術の導入に際して、技術・サービス事業者や関係機関などから、どういった助言やサポートを得たか。それは何を解決するためであり、どういう効果・メリットを得たか:

「取組み当初は定期的にミーティングを重ね、導入から導入後のサポートをしてくれました。時には全社員向けの取り扱いのための説明会も開催し、社員皆で進めて行く意識を高めてくれました。また、現在でも必要に応じてミーティングを開催し、当社からのフィードバックや指導を頂いています。」

l  技術・サービス事業者や関係機関などからの助言・サポートは有償であったか無償であったか。無償であった場合、それを当然と思うか。有償であった場合、費用を負担してでも欲しいと思える効果・メリットはあったか:

「付随するオプション機能や操作指導などはもちろん、内容に応じて有償です。ただ、今回のケースは、『Porker』は新規開発という段階であったが故に、取組みの際には私たちの現場の意見を素直に反映させてくれました。それも数多くの意見をです。そういった意味では私たちの会社は特異なケースかも知れませんが、互いにより良い実用化に向けて意見の交換を積極的に行いましたし、私たちもそこで多くの事を学ばせていただきました。」

 

【その他】

l  農林水産業における先端技術の導入を効果的に推進していくに当たっての、メーカーや国の機関等に対するニーズなどを自由に:

「当社は山中にあり、インターネットの電波や光回線の整備が遅れていたので、ネット環境構築には苦労もしましたし費用も掛かりました。最近の豚舎は生育環境を良好に保つため機密性が高いので、なおのこと電波が遮断されやすいのです。国としてICT活用やスマート農業を推進していくのであれば、こうしたインフラ面への対応により力を入れてほしいと思います。」

 


     株式会社アークの皆さん

 

 

【ここがポイント】

l  まだ業務経験がさほど豊かでない若いスタッフに、経験と勘以外の拠り所を持ってもらう上で、経営支援システムなどの先端技術は有効。

l  トレーサビリティや投薬履歴の記録などは、食の安全・安心の増進をシステム(仕組み)として支える重要な機能。

l  先端システムの開発者とユーザーが互いにより良い実用化に向けて意見の交換を積極的に行うことで、双方にとって事業上のメリットや学びが得られる。

 

取材日:20191016