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カブトムシ産業

 カブトムシは形も大きさも、日本を代表する甲虫である。また、子供たちの人気の点でも王座に君臨しているのは今も昔も変わりがない。ただ、変わったのは、 それを自分で採るのではなく、もっぱら購入するようになった点である。

カブトムシの成虫
 カブトムシは幼虫が腐植を食べて育つ。そのため、かつて農家が自分で堆肥(たいひ)を作っていたころは、そこが絶好の繁殖源になり、成虫は、炭焼き用にどこにでもあった雑木林に、 その甘い樹液を求めて集まった。だから、都会の子供といえどもカブトムシは身近な存在であった。

 それが、化学肥料の普及で農家が堆肥を作らなくなり、炭が灯油に代わり、宅地化と相まって雑木林が激減したことで、カブトムシはにわかに新興の“昆虫産業”の旗手として台頭してきたのである。

 カブトムシが“商品化”され始めたのは1960年ころからで、当初は田舎で採集したものを都会で売る方式がとられた。しかし今や、オガクズなどで大量に養殖したものが主流を占め、その業者は大小千軒ともいわれ、 年商数億円に達する業者もあるという。

 ぼくの住む、つくば市には、まだカブトムシがたくさんいる。にもかかわらずデパートなどでの売れ行きはすこぶるいい。子供たちはもはや、自分で採るという発想を構造的に失ってしまったのかもしれない。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.4.8)]



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