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メタン燃ゆ

 かつて東南アジアのさる田舎で大便所を借りてふと下を見たら、大きなブタが期待の目で見上げていてビックリしたことがある。 ウンコの肥料ならぬ直接的な飼料利用である。近年、先進諸国では家畜の排泄物の処理が大問題になっているが、糞にはなお40%以上もの栄養分が残されていて、 それ自体が資源といえる。たとえば長期の宇宙旅行はカロリーメイトだけでは済まず、普通の食事をするため、ウンコも普通に出る。 そこでこの"資源"でハエの幼虫を大量に飼育し、鶏などの同伴動物の餌にしたり、加工して搭乗員の食料にしたりする……一部ではそんな研究も行われている。 とくにロシアは、イエバエの大量増殖系統を選抜して鶏糞を用いた増殖プラントを開発し、日本でも某メーカがロイヤルティーを払ってシステム一式を売り出している。 高価で、商売としてペイするかどうかはぼくにはわからないが……。

 一方、ウンコからは大量のメタン(CH4)が発生する。周知のようにメタンは天然ガスの主成分として重要な燃料資源になっている。 東南アジアの別の田舎では、便池に鉄製のドラムを伏せ、中に溜ったメタンガスをホースで引いて炊事に使っていた。そしてガスが出なくなった古いウンコは最後に肥料にする。 おそらく日本の主婦の賛同は得られそうもないが、なんと見事なリサイクルシステムではないか。

 話変わって、メタンは"屁"の主成分のひとつでもある。だからオナラが燃えてもふしぎはないし、さらに"粉塵爆発?"的な効果もあるかも知れない。 昔、ぼくが霞が関に勤めていたとき同僚だったM研究管理官は、多彩な経験と話題の持ち主だった。そのひとつに、氏が東大の学生時代に寮で仲間を集め、 屁を燃やして見せた逸話がある。立ち会った証人までいる実話である。

 本人談、「部屋を暗ろうしてオナラを出し、タイミングを計ってマッチで火をつけると、一瞬、襟巻みたいに首の回りをボワーと炎が包むんや。 もう拍手喝采で、得意になってアンコ−ルに応えたんやが、さすが3回目には材料がのうなって本物をチビッてしもうた」。

[研究ジャーナル,25巻・11号(2002)]



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