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アリガタバチ

 10年以上も前から、屋内でアリに似た小さな虫に刺される被害が全国的に続出している。この虫は、その形からアリガタバチと呼ばれる数種類の寄生バチの仲間で、 人を刺すメスにはハネがないので、アリに刺されたと思っている人も多いようである。

シバンムシアリガタバチ
 本来は畳を食い荒らすシバンムシ類という小甲虫の幼虫に寄生する天敵で“ありがたいハチ”でもある。しかし、人を刺す性質ゆえに、昨今は新興の衛生害虫としての重要性の方がはるかに高まっている。

 畳は日本人の生活の知恵が生んだ優れた発明品である。洋風建築が急増した近年でも畳への郷愁は捨てがたく、どこの家でも一つは和室も設けている。 だが、コンクリートの床に畳を置き、上をじゅうたんで覆うような使われ方は、日本的な木造建築の中で開発された畳にとっては、さぞ不本意なことだろう。

 これによって畳の湿度が高まり、廃屋の腐れ畳くらいにしか出番のなかったシバンムシ類に、絶好の発生条件を与えることになった。害虫が増えればその天敵も増える。 こうして思わぬアリガタバチの多発をもたらすこととなった。

 アリガタバチの問題は、和室を洋室に改造して、畳を取り除けば劇的に解決する。それとも、夏の夜、畳に座り枝豆でビールを飲むたのしみのために、 刺される不快をがまんするか、その選択は自由である。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.3.25)]



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