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日本脳炎

 虫が媒介する伝染病がほとんど姿を消した日本で、日本脳炎だけがしぶとく生き残っている。その病原ウイルスはブタで増殖し、これを人体へ橋渡ししているのが水田で発生するコガタアカイエカである。 患者の死亡率は高く、助かっても後遺症は深刻である。

 日本脳炎は戦後に大流行を見たが、その後漸減を続け、1975年ころには、患者数をヒトケタで数えられるほどになった。媒介者のカの減少がその主な要因のようである。
吸血中のコガタアカイエカ
(全農教原図)
 戦後永らく水田に多用された強力な殺虫剤が、天敵相の崩壊を通じて、このカの多発と日本脳炎の流行をまねいた。が、70年ころから、 これらの農薬は人畜への悪影響が問われて次々に規制され、かわって低毒性の有機リン剤が中心を占めるようになった。このことが、天敵相を回復させる一方、 このころから使われた除草剤が思いがけずボウフラに強い殺虫力を示し、このカの激減をもたらしたと解されている。

 しかし、近年、再びコガタアカイエカが激増しはじめ、日本脳炎もその復活が憂慮されるようになってきた。除草剤がボウフラを殺さないものにかわったこと、 水田用の殺虫剤に対して、ボウフラが驚異的な抵抗性を発達させ、まきぞえではほとんど死ななくなったことが原因である。因果は巡る。 虫はダテに4億年の歴史を歩んできたのではないようである。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.2.22)]



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