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アブラムシ

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クリオオアブラムシのコロニー
クリオオアブラムシのコロニー
 俗にゴキブリのことをアブラムシと呼ぶ人が多いが、害虫としては集団で植物に吸汁被害を与える本家アブラムシのほうがはるかに上である。この害虫には農家の人も、 花作りを楽しんでいる人も、手を焼いているに違いない。とにかく一世代が短く、幼虫を直接産む「胎生」でやたらに増え、世代の短さを反映して殺虫剤抵抗性がつきやすい。 多くのウイルス病などの難病を媒介し、その被害が直接の吸汁被害よりも大きいことが多い。排泄物にすす病が発生して植物を汚染する。などなど、人間から見ればいいとこなしの害虫である。

 一般にアブラムシ類の生活は複雑である。夏には草本類(夏寄主)に寄生し、秋は移動して樹木類(冬寄主)に寄生する。代々雌が処女生殖で雌を生み、 多くは成虫に翅がないが、高密度になったり、寄主間の移動時期にはちゃんと翅のある雌が生じて分散や移動を行う。この女系家族は、秋になると短日と低温の刺激で翅のある雄が生まれ、 雌は年間ただ一度の交尾をして「卵生」で冬寄主に卵を生む。卵は冬を越し、春に孵化した幼虫はまたすべて雌になる。やがて夏寄主に戻って再び処女生殖を繰り返す。

 アブラムシ類には、一年中同じ植物だけで生活するもの、雄が現れないものなど、生活史は種類によってさまざまなタイプがあり、重要な害虫種でも生活史が未解明なものも多い。 また近年、外敵から集団を守る役割を担う、生殖能力のない「兵隊」階級が存在する種類が見つかるなど、この仲間は見た目に地味な虫ながら、奥はたいそう深いのである。

 余談だが、アブラムシの語源は江戸時代にハギに寄生するアブラムシを数匹手ですりつぶし、頭髪に塗ってテカテカに光らせる子供の遊びがあったことに由来する。

[研究ジャーナル,28巻・8号(2005)]



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