ホーム > 読み物コーナー > 釣り餌の"商虫"列伝 > 商虫列伝(1) 国産の天然もの

ヤマトフタツメカワゲラ Neoperla nipponensis (写真N-1)
オオクラカケカワゲラ Paragnetina tinctipennis (写真N-2〜3)
[釣り餌名:オニチョロ虫・オニゲラ・オニケラ・オセコ・ケラ]

 写真N-1は、前種よりやや遅れて出現した真空パックで、ぼくが発見したのは写真N-2の別の2種のビン詰とともに2001年の冬、土浦市の大手釣具店である。製造元はいずれも「株式会社マルニチ」とあり、 電話番号によればその所在地は福島県西白河郡である。また、対象魚がイワナ、ヤマメ、マス、ハヤ、アマゴであることも、「要冷蔵」であることも次記の2種と共通している。本種は齢期の異なる大小の幼虫10匹を真空パックにしたものが3枚重ねてとじ合わせてあり、計30匹で750円。

 カワゲラ類の幼虫は釣り師の間ではさまざまな名称で呼ばれ、「オニチョロ」は関東での呼び名である。ほかに関東では「オニゲラ」、関西では「ケラ」「オセコ」「オニケラ」などとも呼ばれる。

 種名を同定いただいた川合氏によれば、本種は日本の河川に広く分布する普通種とのことであるが、これもまた正確な種名が釣りの本などに登載されているのをぼくはまだ見たことがない。 もっとも釣り人にとっては、どんな種類のカワゲラであろうとも実用的には問題ないのであろうが……。

 さて、写真N-2の左側のビン詰は、商品名も製造会社も前種と同じであるが、こちらはビン詰という新形態の釣り餌である。中身のカワゲラも小型で、前記川合氏によれば、本種もまた日本全国で普通に見られる種類とのことであるが、 前種とは別種のオオクラカケカワゲラであった。小型のビン(直径3cm、高さ6cm)に透明な液に漬けた幼虫20匹が入れてあり、価格は750円。

 さて、その浸漬液の素性は店員に聞いてももちろんわからない。ぼくはおそらくアルコールか度の強い酒だろうと推定した。ところが持ち帰って開封してもアルコール臭がない。試しになめてみると甘い。 なんとシロップ漬けであるらしい。本種が釣り餌として用いられていることはすでに本間(注5)によって記録されている。

 かくして、日もちが悪く商品にはなりにくかった「川の虫」は、いまや真空パックとシロップ漬けという新旧二様の手法によって商品化に成功したわけである。

N-1 「オニチョロ虫」(ヤマトフタツメカワゲラ幼虫)
の真空パックの売品
N-2 「オニチョロ虫」(左)と「クロカワ虫(右)の
ビン詰容器

N-3 ビン詰の「オニチョロ虫」の中身の
オオクラカケカワゲラの幼虫
N-4 ビン詰の「クロカワ虫」の中身の
ヒゲナガカワトビケラの幼虫


ヒゲナガカワトビケラ Stenopsyche marmorata (写真N-3〜4)
[釣り餌名:クロカワ虫・ゴ虫・スズリ虫]

 写真N-2の右側の「クロカワ虫」のビン詰は商品形態も価格も全種と同じで、中身はヒゲナガカワトビケラの幼虫23匹入り。前種と同じく川合氏の同定。「クロカワ虫」は関東での釣り用語でトビケラ類の幼虫の総称だが、 関西では「ゴ虫」「スズリ虫」などと呼ばれる。

 ヒゲナガカワトビケラは日本全国の山間部の渓流から平野部の河川にまで普遍的に分布し、老熟幼虫は体長45mm(写真N-4)と大型でもあるため、カワゲラ類の中では釣り師に最も多用されている種類である。 幼虫は水底の小石の間に砂粒を絹糸で綴り合わせた定住性の巣を作って流れてくる藻などを食べて育つ。

 同じ価格で前種よりも3匹多い理由は定かではないが、長野県の天竜川の流域で昔から食用に供された「ざざむし」の最近での主要な材料も本種の幼虫である。



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