Vol.13 No.9
【特 集】 侵入病害虫の現状と対策


農作物の侵入病害虫に対する国内検疫の実施について
農林水産省 消費・安全局 植物防疫課    鈴木 柊哉
 近年の温暖化などによる気候変動,人やモノの移動の増加などの影響により,国内への病害虫の侵入・まん延リスクが高まっている。国内への侵入が確認された病害虫に対しては,その被害を最小限に抑えるために早期発見・早期防除が何よりも重要となる。そのため,侵入調査事業,初動対応,緊急防除等の国内検疫の実施について,植物防疫所,都道府県等の関係機関と綿密な連携の上で,病害虫の発生状況に応じて切れ目なく取り組むことにより,侵入病害虫の定着・まん延防止を図っていく。
(キーワード:植物防疫法,侵入調査事業,通報義務,緊急防除,ミカンコミバエ種群,セグロウリミバエ,ジャガイモシロシストセンチュウ,テンサイシストセンチュウ)
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カンキツグリーニング病の今
農研機構 植物防疫研究部門    藤川 貴史
 カンキツグリーニング病は,オレンジをはじめとするカンキツの最重要病害である。アメリカやブラジルのオレンジ産地は本病のまん延と発生拡大によって,甚大な損害を被っている。その一方で,日本の発生地は一部の島に限られており,近年は2つの島で根絶を達成しており,さらに根絶を進めているところである。このような違いを含めて本病の発生状況について紹介するとともに,本病に関する最新の対策技術についても紹介する。
(キーワード:カンキツ病害,発生状況,根絶,産地維持,対策技術)
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日本における特定外来生物クビアカツヤカミキリと
ツヤハダゴマダラカミキリの現状
農研機構 植物防疫研究部門    安居 拓恵・辻井(藤原) 直・上地 奈美
 日本の農林産業に重大な影響を与える侵入害虫種として近年特定外来生物に指定された2種のカミキリムシについて,生態,特徴,日本における分布と被害状況について概説し,日本における研究進捗および分布拡大防止への取り組みと課題について述べる。これまで行われてきた防除対策(殺虫剤,捕殺,網掛け,伐採)に加えて,産卵阻止資材による防除技術,新たな検出技術の利用,そして生産者・街路樹などの管理者・地域住民などの地域や行政の区分をまたいだ情報共有の体制構築が今後の分布拡大防止のカギとなるだろう。
(キーワード:外来カミキリムシ,寄主植物,分布拡大,寄生検出)
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トマトキバガの海外における知見と国内の現状
農研機構 植物防疫研究部門    水谷 信夫
 トマトキバガは南米原産のトマトの大害虫で,世界的に分布を拡大した。国内には2021年に初めて侵入した後,急速に分布が広がり,2024年12月までに国内すべての都道府県で確認された。海外から飛来した可能性があり,これまではフェロモントラップによる確認がほとんどであったが,誘殺数が年々増加し,トマトでの被害が散見され始めている。2023年7月以降,農薬登録が進み,薬剤による防除が進められている。海外では殺虫剤抵抗性個体群が確認されており,海外で進められている天敵や物理的防除を組み合わせた総合防除技術の開発が必要である。
(キーワード:Tuta absoluta,トマト,ナス科植物,薬剤抵抗性,フェロモントラップ)
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侵入カイガラムシ類による被害とその対策
農研機構 植物防疫研究部門
筑波大学大学院昆虫機能制御学講座
        田端 純
 カイガラムシは植物に固着して寄生する昆虫であり,分散能力には乏しい。しかし,国際的な植物生体取引の増加や気候変動の影響により,侵入種による被害が世界的に拡大している。一方,日本の農地では,明治時代以前に持ち込まれた侵入カイガラムシ類が知られているが,これらは導入天敵による防除が進んだ結果,農薬を使用せずとも被害がほとんど発生しないほどに低密度に制御されている。本稿では,これらの事例を改めて振り返るとともに,近年日本国内で分布域を広げつつある侵入種を紹介し,持続的防除に向けて必要な技術開発について検討する。
(キーワード:カイガラムシ,トビコバチ,生物的防除,導入天敵,フェロモン)
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農業被害を及ぼす外来社会性昆虫の日本への
侵入・定着状況と防除手法の開発
国立環境研究所 生物多様性領域    坂本 洋典
 本稿においては,侵略的な外来社会性昆虫のうち,農林水産業にも深刻な影響を及ぼしうる種としてヒアリ,ツマアカスズメバチ,アルゼンチンアリの3種を中心に,各種の最新の侵入・定着状況と防除手法について概説した。生態的特性や農業被害,防除において検討すべき事項を解説するとともに,国立環境研究所が開発の中心となった化学的防除の高度化の実例を紹介した。さらに,今後の外来社会性昆虫の侵入・定着に対する課題について指摘した。
(キーワード:ヒアリ,アルゼンチンアリ,ツマアカスズメバチ,外来生物法,特定外来生物)
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テンサイシストセンチュウの生態と防除
農研機構 植物防疫研究部門    岡田 浩明
 長野県原村で発生したテンサイシストセンチュウに対し,植物防疫法に基づく緊急防除の下,土壌くん蒸処理が行われている。再発防止のために考慮すべき点として,1)1頭の雌がふ化特性を異にする卵を産出することや,年1〜2世代経過することで発生消長が複雑になる,2)現地では好適寄主の栽培に特化した小規模農家が多い,3)アブラナ科およびヒユ科の作物に加えトマトにも寄生することなどをあげた。抵抗性の寄主作物は見つかっていないが,くん蒸剤が6割,有機リン剤と2カ月の捕獲作物栽培がおのおの同じく4割,2カ月の休耕が3割,4カ月の非寄主の栽培が1割程度土壌中の線虫密度を減らすと考えられた。
(キーワード:土壌くん蒸,非寄主,ふ化特性,防除を巡る状況,捕獲作物)
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ジャガイモシロシストセンチュウの特徴およびわが国における対策
農研機構 北海道農業研究センター     坂田 至
 ジャガイモシロシストセンチュウ(Gp)は,バレイショの根に寄生して深刻な生育不良や減収を引き起こす世界的な害虫である。わが国では,2015年に北海道で初めて発生が確認され,その根絶とまん延防止のために,2016年に緊急防除が開始された。Gp の発生が確認されたほ場では,土壌くん蒸剤「D-D」の施用や捕獲作物「ポテモン」の栽培が実施され,高い防除効果が得られている。また,Gpの再発防止を図るために,対策指導要領が定められたほか,Gpの増殖を抑制する抵抗性バレイショ品種が複数開発された。緊急防除の進展と抵抗性バレイショ品種の普及により,Gpの根絶と持続的なバレイショ生産の回復が実現することを期待する。
(キーワード:D-D,緊急防除,抵抗性品種,バレイショ,捕獲作物,ポテモン)
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