Vol.13 No.6
【特 集】 第80回農業技術功労者表彰受賞者の業績


果樹の根圏制御栽培法の開発とマニュアル化による全国への普及
前栃木県農政部農村振興課    大谷 義夫
 東北から九州まで広い産地を有する主要樹種のニホンナシにおいて,本栽培法による樹体の養水分吸収特性や物質生産メカニズムなどの生理的要因を解明し,これに基づき,先例のない多収性(慣行の2倍)や早期収量の確保(移植翌年に収穫)を実現する革新的な樹形・栽植方法を開発した。また,実証農家による実用性試験において,導入4年目の黒字化を経営評価で明らかにし,基礎研究から現地実装まで一連の成果を得た。さらに,多くの果樹類での実用性の実証を基に,農業者のほか,初心者も導入に移せる分かりやすい栽培マニュアルを作成し,多くの産地において果樹類の改植・新植技術として導入が進んでいる。
(キーワード:根域制限栽培,早期多収,二年成り,移植技術,土壌病害回避,(かん)水制御)
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環境負荷を軽減する芝草の耐病性育種及び耕種的防除技術の開発
千葉県農林総合研究センター 水稲・畑地園芸研究所    加藤 正広
 ゴルフ場のベントグラスの最大の病害であるダラースポット病,葉腐病(通称,ブラウンパッチ)に対し耐病性を持つ全国初の種子繁殖性ベントグラス品種やゴルフ場,公園,校庭に用いられるノシバ,コウライシバなどの日本シバの重要病害である葉腐病,カーブラリア葉枯病に対し耐病性を有する品種を育成し,全国でいち早く耐病性芝草品種の活用を実用化させた。また,芝生土壌表層部のpH を5程度に制御することによって芝草の土壌病害である疑似葉腐病と重要雑草であるスズメノカタビラの発生を抑制する技術を開発した。これらの技術によって,芝生地の環境保全型管理を推進するとともに防除作業に対する労力とコストの削減に貢献した。
(キーワード:芝草,耕種的防除,耐病性品種,土壌pH,疑似葉腐病,スズメノカタビラ)
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紫外光を用いた植物病害防除技術の開発
前兵庫県立農林水産技術総合センター 淡路農業技術センター    神頭 武嗣
 国内のイチゴはうどんこ病に弱い品種が多く,主な防除手段として農薬が使われていた。しかし,うどんこ病菌は農薬に対して強くなりやすく,防除が難しかった。一方,農薬散布作業の軽減や農産物のイメージアップのために,農薬のみに依存しない新たな防除技術が要望されていた。そこで,さまざまな光をイチゴに当てて検討した結果,紫外光によって,イチゴを強くし,うどんこ病に(かか)りにくくする方法を見出した。この紫外光の照明装置をメーカーと「植物病害防除照明装置」として開発し,さらに,照射方法,照射時間等も改善し,実用的な防除技術を確立した。照明器具も当初の直管形蛍光灯から耐用年数の長い電球形蛍光灯へと進化した。
(キーワード:紫外光,UV-B 電球型蛍光灯,病害抵抗性,減農薬,果実品質)
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生産と加工の現場ニーズに応える多様な水稲優良品種の開発と普及
前新潟県農業総合研究所 作物センター    小林 和幸
 「コシヒカリ新潟BLシリーズ」をはじめ,高温登熟性に優れる良食味の早生「こしいぶき」,「ゆきん子舞」,晩生「新之助」等を育成するとともに,高品質・安定生産技術の普及指導に取り組み,稲作経営体の所得向上や規模拡大,経営リスクの分散を図った。また,酒・(もち)米育種の現場で加工特性を迅速に評価して有望個体や系統を効率的に選抜し,業界や企業と一体となって進めた実用化実証試験により,酒造好適米「越淡麗」や糯米「ゆきみらい」を開発,普及させた。さらに,県産新米需要に応える極早生品種や多種多様な新形質米品種の育成,しめ縄加工用イネの選定など,地域農業の活性化や地場産業の振興に寄与する水稲育種と現地普及を推進した。
(キーワード:水稲育種,新品種開発,現場課題解決,農業普及指導)
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農産物の光学的品質評価法と供給期間延長のための加工技術の開発
前(地独)北海道立総合研究機構 農業研究本部 中央農業試験場  小宮山 誠一
 近赤外分光法(光センサー)を用いた農産物の非破壊品質評価技術を開発し,馬鈴薯のでん粉価,だいこんの内部障害,てん菜のショ糖含量および小麦のフォーリングナンバーの迅速評価が可能となった。これらの技術導入により高品質な農産物の評価・選別が実現し,品質管理の効率化や産地評価の向上,クレームの減少に寄与できる。また,農産物の長期供給を目指し,病害虫に強い馬鈴薯品種「スノーマーチ」を用いたチルドポテトや無添加で常温保存可能な果実加工品「レアフル」の開発を行い,国産農産物の利用促進と付加価値向上およびフードロス削減に貢献している。
(キーワード:近赤外分光法,非破壊,品質評価,付加価値向上,長期保存)
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キクの効率的電照技術の開発及び
キク等の品種育成による花き産地振興
前鹿児島県農業開発総合センター    吉水(白山) 竜次
 キクの電照用光源が従来の白熱電球から,長寿命で消費電力の低い蛍光灯やLED光源に移行しつつある中で,これらの新光源を用いて「どの波長(光質)の光」を,「どの時間帯」に,「どのくらいの長さ」で照射すれば最も効率的な花芽抑制が可能かを詳細に再解析し,全国のキク生産現場に対して新たな光源選択の指針と最適な電照方法を提示した。また,鹿児島県キク産地の周年安定生産を目指して,気候変動適応性を重視した電照抑制が可能で耐暑性に優れた夏秋スプレーギクを育成した。さらに,花容草姿(かようそうし)に特徴のあるテッポウユリの鹿児島県オリジナル品種を育成した。
(キーワード:開花調節,LED,花成抑制,スプレーギク,テッポウユリ)
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