Vol.8 No.5
【特 集】 プラスチック問題に対応した持続的な食料供給・環境


食品産業におけるプラスチックを巡る対応について
農林水産省 食料産業局     菅井 剛
 昨年6月に大阪で開催されたG20首脳会合において,海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有し,G20以外の国にも共有するよう呼びかけることが合意され,ビジョン実現に向けて各国で協調して実効的な対策を進めることになった。
 プラスチックごみは,世界全体で年間数百万トンを超える量が陸上から海洋へ流出していると推計されており,このままでは2050年までに海中のプラスチックの重量は魚の重量を超えるとの予測もある。特にG7からの流出量は全体の2%に対し,G20では約48%を占めると推計されており,世界全体で海洋プラスチックごみ問題に取り組んでいくことが喫緊の課題となっている。
(キーワード:海洋プラスチック,資源循環戦略,アクション宣言,リサイクル,3R)
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プラスチック戦略をめぐる各国の政策動向および企業の対応について
―EU の動向を中心に―
(公財)地球環境戦略研究機関 持続可能な消費と生産領域    粟生木 千佳
 プラスチックによる環境影響に対する世論の注目が高まっていると同時に,途上国新興国の経済成長などを背景とした資源使用の増加に伴う環境影響に対処するため資源効率性や循環経済に関する議論が国際社会で高まっている。プラスチック問題は,われわれの日常におけるプラスチックの生産・消費の帰結であり,これに関する国際社会での議論活発化や,EUによる資源効率性・循環経済それに続くプラスチック政策の策定が,各国個別政策,企業・ビジネス環境にも大きく影響を与えた。再生材の活用や使い捨てプラスチック使用回避などプラスチックを中心として循環経済に関連する企業の取組や連携も活発化し,標準化規格やファイナンスなどのビジネス環境も新たな展開となってきている。
(キーワード:循環型社会,循環経済,資源効率性,プラスチック)
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マイクロプラスチックによる海洋汚染
東京海洋大学    兼廣 春之
 プラスチックは安価で丈夫で腐らないという特徴を生かして,さまざまな分野で利用されている。一方で,自然環境中では分解されにくい性質があるため,使用後の廃棄物の処理など多くの環境汚染の原因ともなっている。プラスチックによる環境汚染は陸上だけでなく海洋でも起こっており,海洋に流出したプラスチックを海亀や海鳥が飲み込んだり,オットセイ,アザラシなどの海洋動物に漁網やロープが絡んで死ぬといった生物被害も数多く報告されている。海洋に流出したプラスチックは海流によって運ばれ,はるか遠くの外国の海岸にまで流れ着く。また,深い深海にまで沈んでいるものもたくさんあり,早急な対策が必要とされている。ここでは,プラスチック(マイクロプラスチックを含む)による海洋汚染の実態とその対策について紹介する。
(キーワード:マイクロプラスチック,海洋汚染,Pops(残留性有機汚染物質),プラスチックの紫外線劣化,プラスチック分解微生物)
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高分子多糖類から高性能バイオマスプラスチックの創製とその応用
東京大学大学院 農学生命科学研究科     岩田 忠久
日本電気株式会社 システムプラットフォーム研究所     田中 修吉
株式会社LIXIL Technology Research 本部分析・材料研究所     田中 淳
 現在,石油を原料とせず,再生産可能な植物バイオマスを原料として合成され,これまでの石油合成プラスチックとは異なる構造や機能を有する新規なバイオマスプラスチックの開発が求められている。筆者らは,天然に存在する様々な構成糖と結合を有する高分子多糖類から,耐熱性,機械的物性,光学特性に優れ,射出成型や溶融紡糸も可能な,熱可塑性を有するバイオマスプラスチックの創製に成功した。本稿では,高性能な高分子多糖類エステル誘導体の基礎および応用事例について紹介する。
(キーワード:バイオマスプラスチック,多糖類エステル誘導体,射出成形,高装飾性)
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海洋時限生分解性プラスチックの開発
群馬大学 大学院理工学府 分子科学部門
群馬大学 食健康教育研究センター
    粕谷 健一・橘 熊野
群馬大学 理工学部 理工学系技術部 機器分析部門
    鈴木 美和
 プラスチックゴミによる海洋汚染は,世界的な問題となっている。その解決策の一つとして生分解性プラスチックが注目を集めている。現状の生分解性プラスチックではその分解速度および分解開始時期が十分に制御されておらず,このことが材料の適所への普及を阻んでいると考えられる。本稿では,これらを解決する,環境因子や生物因子を分解開始スイッチングとして利用する海洋時限生分解性プラスチックの研究開発の現状を解説する。
(キーワード:潜在的生分解性プラスチック,スイッチング,海洋時限生分解性プラスチック)
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100%バイオ由来で耐熱性,強度,柔軟性などに優れた高機能樹脂の開発
Bioworks株式会社    新田 和也
 海洋プラスチックゴミやマイクロプラスチックの問題からバイオプラスチックが急激に注目を浴びている。当社は独自の改質技術でバイオプラの一種であるポリ乳酸の耐熱性・柔軟性・強度などを大幅に向上させ,従来の石油から作られた一般的なプラスチックと同等以上の性能を持つ高機能改質ポリ乳酸コンパウンドPlaX®(プラックス)へと生まれ変わらせた。これまで用途が限られていたポリ乳酸を,射出成形・ブロー成形・押出し成形など様々な成形方法に対応させ,幅広い用途での使用が期待される。
(キーワード:ポリ乳酸,添加剤,耐熱,生分解性,バイオプラ)
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プラスチック代替素材としての紙製の食品包装資材の開発
日本製紙株式会社グループ販売戦略本部     内村 元一・佐藤 達也
 昨今,海洋プラスチックごみや地球温暖化問題への関心が高まる中,パッケージにおいても「サステナビリティ(持続可能性)」や「環境配慮(再生可能資源の活用)」といった観点から様々な対策ならびに技術開発が進められている。
 当社では,長年培ってきた製紙技術を基に,再生可能な循環型素材である「紙」に様々な機能を付与する取組を展開しているが,この度,「紙」に酸素や水蒸気,フレーバーなどのバリア性を付与した環境に優しいパッケージ用素材「シールドプラス®」を開発した。さらに,紙ストロー「シルフィールTM」,シャンプー用差し替え容器「スポップス®」など,あらゆる分野・用途でのプラスチック代替製品を開発し,循環型社会形成の一助となる製品提案を行っている。
(キーワード:紙化,海洋プラスチック,脱プラ,ロングライフ,バリア性)
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宅食事業におけるバイオプラ容器リサイクルの構築
ワタミ株式会社
 ワタミ株式会社は,宅食事業において使用される弁当・惣菜容器を植物由来のバイオマス素材を含んだプラスチック容器に変えるとともに,その容器を回収してケミカルリサイクルを行った上で,バイオプラ容器として再生するシステムを構築した。また,弁当・惣菜を製造する過程で発生する調理残さや野菜くずなどを飼料化するなどの食品ロス削減にも取り組んでいる。
(キーワード:宅食,弁当,プラスチック,リサイクル,食品ロス)
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