Vol.8 No.3
【特 集】 第20回民間部門農林水産研究開発功績者表彰受賞者の業績


日持ちと輸送性に優れたトルコギキョウ品種の開発
株式会社サカタのタネ     森 一俊・堀内 慎吾・西尾 章
佐瀬農園     佐瀬 昇
 トルコギキョウはその花色や花型の豊富さから近年人気のある切り花となっている。日本のみならず,海外でも盛んに栽培が行われ流通する量も大きく増えた。その理由の一つに日持ちの良さがあげられる。夏の花であるトルコギキョウは特に暑い季節においても日持ちが良いため生産者,市場関係者,また生花店でも安心して扱えると好評である。このトルコギキョウの日持ちと輸送性をよりよくすることができないかと研究を重ねた結果,変形雌ずいと細胞質雄性不稔をもつ素材を用いて目的とするトルコギキョウを育成した。現在これらのトルコギキョウは国内外で好評を博し,世界中で栽培され消費者の皆さんに楽しんでいただいている。
(キーワード:トルコギキョウ,日持ち,輸送性,変形雌ずい,無花粉)
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革新的殺菌技術を利用した果汁製造ラインの実用化
サッポロホールディングス株式会社 R&D本部     井上 孝司・平光 正典・
高柳 純司
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 研究開発本部
    大澤 直樹
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 SCM 本部
    西川 秀嗣
 近年においては,果汁のような低pH状態で生育し高い耐熱性を有する耐熱性好酸性菌(TAB)や耐熱性カビが発見され,商業的に100℃以上の高い殺菌条件で処理しなければ商品の安全性を確保できない。一方,果汁のような食品は加熱による成分変化が大きく,殺菌条件を高くすることで品質低下が発生するという問題があった。そこで,われわれは農研機構との共同研究により熱と電気の物理的作用により従来の加熱のみの殺菌と比較して短時間で数十倍高い殺菌効果が得られる革新的な殺菌技術である「交流高電界殺菌法」を確立し,果汁製造ラインへの実用化を行った。これにより,果汁の褐変や加熱臭の発生を抑制し,高品質な製品を提供できるようになった。
(キーワード:ジュール加熱,高電界,殺菌,ポッカレモン100)
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家畜感染症向け新検査システム開発による
農工連携イノベーション
キヤノンメディカルシステムズ株式会社     後藤 浩朗・石川 正行・
高橋 匡慶
全国農業協同組合連合会     宇留野 勝好
 海外で高評価の和牛に焦点をあて,独自技術の電流検出型DNAチップ技術を生かし「簡単,迅速,正確,安価」に牛の感染症原因微生物を網羅的に検出するDNAチップカードを開発,実現した。牛の鼻汁,糞便などサンプルごとの検出系を試作,うち鼻汁(呼吸器病)用はすでに上市し予防対策などに活用され始めている。この技術は,簡便かつ迅速,高感度に多項目の遺伝子を検出することから家畜感染症の浸潤状況調査や早期発見,複合感染発見をより容易に実現し,生産性の向上に貢献するものと期待される。
(キーワード:産学官連携,牛呼吸器病(BRDC),DNAチップ,ワクチネーション,生産獣医療)
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革新的な加工技術の開発による安納いものブランド化
有限会社西田農産    西田 春樹
 種子島では,特産のさつまいもの安納いもへの関心が高まるなか,2007年以降,栽培面積が拡大し青果用とともに加工用の需要が増加した。香ばしい香りを好む消費者ニーズに応えるため,炭火焼きによる「連続式焼きいも製造装置」を開発し,冷凍焼きいもを製品化するとともに,焼きいもペーストの製造技術を確立し,食品企業との提携によりペーストを利用したスナック菓子や安納いもグラッセなどの新商品を開発した。このような取り組みは消費者に幅広く受け入れられ,種子島産安納いものブランドの確立に大きく貢献した。
(キーワード:安納いも,連続式焼きいも製造装置,焼きいもペースト,商品開発,ブランド)
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トプラメゾン液剤による飼料用とうもろこし除草技術の開発
日本曹達株式会社     山田 茂雄・高橋 明裕
 近年,飼料用とうもろこし畑において様々な外来雑草の侵入が確認されている。既存の除草剤では防除困難な草種も多く,オオブタクサなどはとうもろこしを覆いつくし甚大な被害をもたらしてきた。既存剤とは異なる作用で幅広い雑草種に除草効果を示す化合物トプラメゾンを創出し,製剤化したトプラメゾン液剤(商品名:アルファード液剤)を飼料用とうもろこし除草剤として農薬登録を取得するとともに,外来雑草の被害が深刻な現地圃場で検討を重ね,オオブタクサを始めとする外来雑草を防除する技術を確立した。飼料用とうもろこしの安定生産に有効な技術として普及が進んでいる。
(キーワード:飼料用とうもろこし,トプラメゾン,除草剤,オオブタクサ,外来雑草)
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氷点濃縮製法®による「明治おいしい低脂肪乳」の開発
株式会社明治    宮内 淳・加藤 誠太郎・宮川 淳美・神谷 哲
 国内の生乳生産量は1996年をピークに減少し,酪農業の活性化施策が重要な課題となっている。生乳は牛乳,ヨーグルト,チーズなどに加工される。生乳はそのまま使用する場合と保存可能な"乳原料"に加工される場合がある。主な"乳原料"である脱脂粉乳は,海外品との価格差が大きく,品質面での差別化も難しい。輸入障壁が高い液体"乳原料"を差別化することができれば,日本の酪農業の価値向上や活性化に繋がり,また,付加価値型商品開発にも結びつく。そこで,非加熱で濃縮可能な凍結濃縮技術に着目し,これまでは困難であった乳業への導入を目指して技術開発を行った。その結果,生乳の新鮮なおいしさを失うことなく濃縮できる製法「氷点濃縮製法®」を開発した。本新製法で得られた脱脂濃縮乳の風味優位性を明らかにし,さらに当社独自の脱酸素技術と組み合わせることで,風味優位性を最大限発揮した商品「明治おいしい低脂肪乳」を開発し,2019年4月に発売した。
(キーワード:脱脂濃縮乳,凍結濃縮,氷点濃縮製法,低脂肪乳)
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