Vol.7 No.10
【特 集】 水熱分解技術の農業利用の可能性


水熱分解技術と農業廃棄物の資源化への応用
静岡大学 創造科学技術大学院    佐古 猛
静岡大学    岡島 いづみ
 高温高圧の水を用いる水熱分解技術は,生体や環境への悪影響が少ない,農業廃棄物を乾燥せずに処理できる,生成物は殺菌されているので衛生的であるといった利点を持っているので,将来の農業廃棄物の適正処理や資源化技術として注目されている。本稿では,高温高圧の水を超臨界水,亜臨界水,高圧過熱水蒸気に分けて,各々の性質と応用分野を示した。さらに私達が取り組んできた(1)亜臨界水を用いるペーパースラッジ(製紙汚泥)からのバイオエタノール製造,(2)亜臨界水を用いるバイオマス+プラスチック混合廃棄物からの粉末燃料製造,(3)高圧過熱水蒸気によるバイオマス廃棄物のガス化・水素製造技術について解説した。
(キーワード:水熱分解,農業廃棄物,資源化,バイオエタノール,粉末燃料,ガス化
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水熱反応による下水汚泥の有効活用
豊橋技術科学大学 グローバル工学教育推進機構    大門 裕之
 市街地近郊にある下水処理場において,水熱反応装置,メタン発酵装置,食品用海藻工場,トマトの植物工場,吸引式堆肥化装置などを設置した豊川バイオマスパーク構想という実証試験を行った。そこでは下水汚泥を基にしてバイオガス,トマト,海藻,堆肥を生産した。水熱反応により下水汚泥を低分子化するために多くのエネルギーを要するが,これによっていくつかの付加価値が得られた。このように水熱反応を一つの目的のために使用するのではなく,水熱反応には様々な有用性を見出す必要がある。ここでは,豊川バイオマスパーク構想におけるその有益性を示す。
(キーワード:水熱反応,付加価値,植物工場,海藻養殖,吸引通期式堆肥化装置)
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水熱分解のエコフィードへの利用
豊橋技術科学大学     熱田 洋一
 水熱分解による有機性循環資源の液状飼料化技術を紹介する。これは,水熱反応が有する高い加水分解能力などを生かして,これまでは飼料原料として未利用であった有機性循環資源 などを可溶化し,品質の高い液状飼料を製造する技術である。また,各種栄養成分の可消化率の向上や消化阻害物質の分解など付加価値の高い飼料を製造可能であると期待されている。
(キーワード:液状飼料化,高付加価値飼料化,高可消化率,消化阻害物質分解)
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水熱分解有機性廃棄物の堆肥化特性
神奈川県農業技術センター    竹本 稔・重久 綾子・吉田 誠
 都市部で発生量の多い食品廃棄物への水熱分解処理の適用および水熱分解処理物の農業利用法の検討を行った。水熱分解処理物(食品廃棄物:おが屑=1:1(容積比))は,pHが3台と低く,高C/N比で粗脂肪や有機酸を多く含む製品で,これをそのまま土壌に施用した場合,作物生育に障害を与えることが明らかとなった。また,処理物と牛ふん堆肥の混合堆肥化処理による作物生育阻害要因の除去を検討したところ,牛ふん堆肥を容量比で10%以上混合すると順調に堆肥化が進行し,コマツナ発芽率は,堆肥化約2週間で回復し,農業利用が可能な資材となった。
(キーワード:食品廃棄物,水熱分解,堆肥化,有機酸,牛ふん堆肥)
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水熱分解技術を活用した食品廃棄物の堆肥化事業
株式会社小桝屋     鈴木 邦彦
 水熱分解技術(亜臨界水処理技術)は付加価値の高い加工に採用されている先端技術である。ここでは,民間企業が食品廃棄物の処理に水熱分解技術を導入した事例を紹介する。水熱分解技術と出会い,大学の研究者らの支援を得ながら,検討をすすめ,食品廃棄物を堆肥化する分解槽10kLの実用システムを確立した。本技術により従来の堆肥化処理に関する課題を解決しただけでなく,日本で初めて行政許可を取得し,実用化した。さらに,5,000バッチ以上の事例解析から極めてランニングコストが安いことも明らかにした。
(キーワード:水熱分解技術,食品廃棄物,堆肥化,廃棄物処理方法認可,経済性)
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水熱分解食品廃棄物を用いたイチゴ用培土の開発
三重県農業研究所    堂本 晶子
 食品廃棄物に木質チップを混合して水熱分解することにより,固形の水熱分解物ができる。実規模の水熱分解装置を用いて処理された固形の水熱分解物を用い,イチゴ用培土の開発を行った。水熱分解物で培土中のピートモス全量を代替した培土を試作し,イチゴ栽培実証試験を行った結果,慣行と同等以上のイチゴ収量を得ることができた。固形の水熱分解物は培土中のピートモス代替として活用できると考えられる。
(キーワード:水熱分解,食品廃棄物,イチゴ用培土,バイオマス)
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水熱分解による有機性廃棄物の液肥化
元明治大学農場    藤原 俊六郎
 高温高圧下において水の力で加水分解する水熱分解は,高含水率有機性廃棄物を短時間で衛生的に処理することができる。実験用水熱分解装置を用い,野菜屑の液肥化を検討したところ,170℃(0.8MPa)〜200℃(1.6MPa)で液肥化できるが,肥料成分は原料により大きく異なった。また,液肥には作物根に有害な有機酸が多く含まれるなどの課題があるが,有機酸は土壌中で分解するため,施用法を注意すれば肥料として使用できる。水熱分解は,閉鎖系で短時間に処理できCO2や悪臭の発生も少なく,有機性廃棄物処理の新技術として期待できる。
(キーワード:水熱分解,有機性廃棄物,有機液肥,野菜屑,有機酸)
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水熱分解液肥による野菜栽培
明治大学農場    小沢 聖・蜷木 朋子
茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター    七夕 小百合
元明治大学農場    岡部 勝美・竹迫 紘
 作物生育に有害な有機酸を多く含む水熱分解液肥を,耕種的に無害化する以下2方法を開発した。 ①播種,定植前に圃場に施肥し,微生物の分解により無害化する方法で,施肥後,積算日平均地温で300℃を経過することで有機酸の害が効果に転じる。②養液土耕栽培で,苗定植後2から3週間,有機酸を含まない化学液肥などを供給し,その後,水熱分解液肥に切り替えることで,有機酸による被害が実用レベルに低下する。これらの方法で土耕栽培,開放系の養液土耕栽培への水熱分解液肥の適用が可能になった。
(キーワード:土耕,事前施肥,化学液肥事前処理,水熱分解液肥,養液土耕)
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水熱分解技術の有害鳥獣処理への適用
茨城大学農学部附属国際フィールド農学センター    七夕 小百合
株式会社DAイベント    杤本 信彦
元明治大学農場    藤原 俊六郎
 野生鳥獣による農業被害は,全国的に問題になっている。鳥獣捕獲後の処理法として,水熱分解による液肥化技術を検討した。動物質有機物を原料とした場合,植物原料と比較してタンパク質含量が高いため,即効性肥料としての効果が期待できる。実際にイノシシを水熱分解した液肥は,窒素含量が高く,特にアンモニアが多く含まれる。イノシシ水熱分解液肥を用いてコマツナのポット栽培試験を実施したところ,高い生育を維持し,肥料としての効果が認められた。イノシシ水熱分解液肥は,特に根の生育を促進する可能性がある。ただし,発芽や幼植物の生育を阻害するため,施用法に留意する必要がある。
(キーワード:水熱分解,有害獣処理,高タンパク未利用資源,有機液肥)
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