Vol.6 No.12
【特 集】 薬用作物の国内生産拡大に向けて


本特集のねらい
−薬用作物の国内生産拡大に向けた取り組み−
農研機構 西日本農業研究センター    川嶋 浩樹
 薬用作物は,地域の競争力強化を図る上で重要な品目として期待されている。一方,わが国の漢方製剤の原料となる生薬は,国内需要の約9割を海外からの輸入に頼っているのが現状であり,国内生産の拡大を図る必要があるとされている。薬用作物の国内生産を振興するための様々な取り組みが行われている。薬用作物の生産拡大に向けた農林水産省委託プロジェクト研究「薬用作物の国内生産拡大に向けた技術の開発」では,栽培技術の改善,作業の軽労化,収益性の確保を目指して技術開発に取り組んでいる。
(キーワード:薬用作物生産,技術開発,省力化,経営モデル,プロジェクト研究)
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薬用植物の国内栽培における現状と課題
医薬基盤・健康・栄養研究所 薬用植物資源研究センター    菱田 敦之
 薬用植物の国内栽培が再評価され,各地で試験栽培が行われている。しかし,薬用植物は一般作物と比べ,栽培技術に関する情報が乏しく,栽培に適した品種,農薬や農業機器の整備が遅れている。最近,各地で薬用植物の病害が確認され品質や収量を著しく低下させているが,病原が特定できず防除ができない状況にある。さらに,全国的に広がる労働力の不足は極めて深刻であり,前述の課題とともに薬用植物の国産化を阻む要因である。この状況を打開するためには,企業,大学,公的研究機関,そして行政機関が連携して技術開発を進め,生産環境を整備して生産者を支える体制作りが必要である。
(キーワード:薬用植物の栽培,国産化,病害防除,作業の軽労化,品種育成)
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植物園と薬用作物研究
−高知県立牧野植物園の取り組みから−
高知県立牧野植物園    水上 元
 高知県立牧野植物園は,60年前に高知県出身で日本の植物分類学の基礎を築きあげた牧野富太郎博士を顕彰する目的で設置された。東京からはるか離れた一地方の公立植物園であるが,世界に先駆けてミャンマーでの植物インベントリーを開始している。また資源植物研究センターを設置し,収集してきた標本類からの新規医薬品や機能性食品素材の開発をめざすとともに,植物の導入・栽培技術を活用して,薬用作物の生産栽培を確立して高知県の中山間地域の振興につなげる研究を行うなど,植物資源の産業活用を意識した研究を行ってきている。牧野植物園のこれまでの薬用作物栽培に関する研究事業を紹介するとともに,植物園が薬用作物栽培事業にどのように貢献できるかを考察した。
(キーワード:植物園,産業振興,中山間地域,ホソバオケラ,シャクヤク)
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薬用作物の栽培の課題とその将来性
千葉大学 環境健康フィールド科学センター    渡辺 均
 近年,薬用作物の栽培に注目が集まっているが,種苗や栽培技術の遅れ,栽培性や買取り単価が低いなど,さまざまな問題点や課題が明らかになってきた。これらの問題点や課題が,国内の薬用作物栽培の普及の妨げになっている。一方,薬用作物は品目数が非常に多いことから,各地域の風土や実情に合った栽培性の高い品目を選択することで,独自の産地を形成する可能性も秘めている。いずれにしても,栽培技術の改善は喫緊の課題である。そこで,トウキのセル成型苗を用いた1年栽培法を確立させ,収穫された当帰は昨年より医療機関での処方が始まった。また,オタネニンジンの栽培期間の短縮化を目的とした早期育苗技術を開発した。
(キーワード:薬用作物栽培の問題点と課題,将来性,栽培期間の短縮化技術,トウキ,オタネニンジン)
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薬用作物の適地判断のための気象情報利用方法の開発
農研機構 北海道農業研究センター    井上 聡
 薬用作物について,対象地点の気象等の環境情報を元に栽培適地かどうか,さらに収量について見通しを立てることが出来れば,産地化が大きく加速する。カンゾウを対象として,北海道内の複数地点において同一条件にて栽培試験を行うと共に気象等の環境情報を取得し,気象応答反応より収量推定モデルを開発した。その結果,カンゾウ栽培には気温が高くて水はけの良い場所が適していて,適地では3年で収穫できることを推定した。さらにメッシュ気象データを用いてマップとして収量推定結果を提示した。
(キーワード:カンゾウ,気象応答反応,栽培適地,メッシュ気象データ,ハイサーグラフ)
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知らない病気だらけの薬用作物
農研機構 遺伝資源センター    佐藤 豊三・一木(植原) 珠樹
 薬用作物の中には野生に近く遺伝的に雑多な品目のほか,最近まで野生の植物体を採取・加工していたものもある。特にこれらの病害は調査が遅れており,栽培関係者にとって薬用作物は知らない病気だらけになっている。そこで,薬用作物の栽培から流通にわたる特殊性を考慮して病害研究を進めた結果,調査不足のカンゾウ類およびミシマサイコなどではもちろん,病害の多く知られたオタネニンジンやシャクヤクでも糸状菌あるいはウイルスによる新規病害が続々と明らかになってきた。今後も各品目の新規病害の究明,発生生態,診断,防除の研究とともに,普及・啓発の拡充と継続が求められる。
(キーワード:薬用作物,トウキ,ミシマサイコ,オタネニンジン,カンゾウ類,シャクヤク,糸状菌病,ウイルス病)
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新潟県における薬用作物栽培の取り組みについて
新潟県農業総合研究所 中山間地農業技術センター    諸橋 修一
 新潟県の薬用作物生産は下降傾向にあったが,2011年以降,新潟市や新発田市,胎内市など新たに試作を行うところが増えている。新潟県では農総研中山間地農技センターで薬用作物の栽培試験を始め,重点作物の選定を行い,シャクヤク,トウキなどを選定している。また,新潟市農業活性化研究センターにおいても,上記の他ハトムギ,キキョウを選定している
(キーワード:薬用作物,新潟県中山間地農業技術センター,新潟市農業活性化研究センター,東京生薬協会)
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山口県における薬用作物栽培の取り組み
山口県農林総合技術センター    安永 真
 山口県では,今後の需要増加が見込める品目として薬用作物の栽培に取り組むこととした。取り組みに当たって,本県では薬用作物の栽培についてほとんど実績がなかったことから,薬用作物の知識を有する大阪生薬協会と連携協定を締結し,トウキ,シャクヤク,ヒロハセネガ,ミシマサイコ等を試作した。薬用作物の栽培は,一般の作物の栽培と異なる部分が多く,試作ではさまざまな問題も発生し,その解決に苦慮しながらも栽培技術の組み立てを進めている。
(キーワード:生薬,トウキ,シャクヤク,ヒロハセネガ,ミシマサイコ)
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