Vol.6 No.11
【特 集】 農業環境情報の最新利用技術


農業環境情報は農業へどう貢献できるのか
−本特集のねらい−
農研機構 農業環境変動研究センター     神山 和則
 データ駆動型のスマート農業の展開を進めるには,様々な農業環境情報を収集・蓄積し,発信していく必要がある。本特集では,これを進めていくための基盤となる農業環境情報の蓄積,利用と課題について紹介する。また,農業環境情報を収集・蓄積し,発信を行うために農研機構農業環境変動研究センターで取り組んでいる農業環境インベントリーについて,その考え方と構築について紹介する。
(キーワード:農業環境インベントリー,空間情報,情報解析,情報発信)
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日本土壌イベントリーの開発と利用
農研機構 農業環境変動研究センター    高田 裕介
 わが国の土壌資源を適切に管理することを目的として構築されてきた土壌インベントリー(inventory:財産目録)をインターネット上で公開するサイト「日本土壌インベントリー」を開発した。本システムでは,縮尺を異にする2種類のデジタル土壌図,土壌温度図等を閲覧することができ,デジタル土壌図は2次利用可能な地理情報システム用の汎用ファイルフォーマット形式によりオープンデータとしても提供している。本システムの利用者は多岐にわたり,都道府県庁組織やJAなどでは主に営農指導の現場で活用されている。また,デジタル土壌図をオープンデータとしたことにより,他機関が開発した各種地図公開サイト(WEB-GIS)との連携も進んできている。
(キーワード:デジタル土壌図,日本土壌インベントリー,オープンデータ,WEB−GIS)
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メッシュ農業気象データの構築と利用
農研機構 農業環境変動研究センター     佐々木 華織
 気候変動の影響が懸念される中,農業の後継者不足による土地集約を背景に,それに対応した複雑な栽培管理を行うための高度な気象データが求められている。そこで,農研機構では,1km四方で全国各地の予報値を含む日別気象データを提供するメッシュ農業気象データシステムを構築した。本データは各方面で多岐に利用されており,現在(2018年8月27日)の登録件数は355件に上る。今後,気象データ,作物モデル,栽培管理技術を組み合わせた栽培管理支援情報への活用が期待される。
(キーワード:メッシュ農業気象データ,基準地域メッシュ,オンデマンド,気象庁数値予報モデルGPV,早期警戒・栽培管理支援システム)
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農業集落別データおよび農地区画情報の活用
農林水産省 大臣官房統計部    笹島 竜生・今井 伸一
 農林水産省統計部では,農林業センサス結果と合わせ,農業施策の情報や国勢調査等の統計調査結果を農業集落別に編成し,「地域の農業を見て・知って・活かすDB」(以下「活かすDB」という)により公開しており,地域の状況や施策の効果について,利用者が自由な視点で分析したり,地図形式で「見える化」することが可能となっている。
 また,農地の情報について,衛星画像等をもとに筆(ほ場)ごとの形状に沿って作成した農地の区画情報(以下「筆ポリゴン」という)を農業行政および農業振興の推進に資する関係機関等に提供している。
(キーワード:活かすDB,農業集落,農地区画情報,筆ポリゴン)
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水稲の良食味安定生産を支援する
衛星リモートセンシングデータを用いた情報システムの紹介
株式会社ビジョンテック    原 政直
 衛星リモートセンシングの農業利用は古くから行われているが,農業生産現場で定着した利用にはなっていない。そこで,農業生産現場における少子高齢化による担い手不足を補うために,この衛星リモートセンシング技術の持つ特長を最大限利用し,ICT技術と組み合わせて,水稲の生産現場における軽労化や効率化を促進させ,かつ,高品質,安定生産を実現する生産管理のためのこれまでにない情報サービスシステム「AgriLook(以下,アグリルックという)」を構築した。今後,このアグリルック情報サービスの利用が,コメ生産者に定着すれば,高品質安定生産の実現による生産性,収益性の向上が期待できる。
(キーワード:衛星リモートセンシング,栽培暦(栽培指針),正規化植生指標(NDVI),米粒玄米蛋白含量,時系列データセット,生育トレンド)
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酪農生産現場における農業情報の利用環境に
配慮した酪農のためのふん尿利用計画支援ソフトAMAFE
酪農学園大学    三枝 俊哉
 北海道の酪農場を対象として,乳牛ふん尿に由来する堆肥,尿液肥,スラリーの利用計画を立案するためのソフトウェアAMAFEが酪農学園大学,北海道立農業試験場(現 道総研),畜産草地研究所(現 農研機構)により共同開発された。圃場面積,作付け計画,土壌分析値等の圃場情報を入力すると,堆肥やスラリーを環境に配慮しつつ効果的に圃場に還元する計画を簡易に立案できる。AMAFEは2006年にMicrosoft Excelのワークブック群としてリリースされ,2010年にバージョンアップされて登録利用者は500名を超えた。2017年には株式会社ヒューネスによりクラウドに移植され,本年度より商用運用を開始した。
(キーワード:家畜ふん尿,ソフトウェア,圃場情報,利用計画)
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農業者から見た農業環境情報の現状と課題
株式会社夢ファーム    奥山 孝明
 農業生産を行う上で土地利用型農業の場合,農業機械を使って作業する場面が多く,農業機械の作業性や効率が最優先され,農業環境情報の重要性を認識されていない農業者・農業関係者が多いように見受けられる。土壌,農地情報,気象などの農業環境情報は,農業者にとって非常に重要な情報ではあるが,個人の相対値で判断されることが多く,日本の農業界に標準化と言う言葉が存在しないために,データが提供されても,過去のデータを長く使い続けることが難しい。これらの蓄積した財産を効率よく次世代の経営者にバトンタッチできるよう整備するために,情報の整理をしたい。
(キーワード:e土壌図,筆ポリゴン,気象データ,標準化,位置情報)
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農業ビックデータの利用環境を整備する共通農業語彙
農研機構 農業技術革新工学研究センター    竹崎 あかね
 農業ビッグデータの利用環境整備のために,共通農業語彙として農作業基本オントロジーと農作物語彙体系を構築公開してきた。用語,および用語間の関係を定義した共通農業語彙は,用語の意味に基づいてデータ項目名等を連携することで,ビッグデータ解析の前提となるデータ連携を促進するものである。共通農業語彙は政府が発行した公的語彙リスト,国際的語彙リストと連携しており,それらの関連情報を相互に確認できる。
(キーワード:共通農業語彙,データ連携,農作業名,農作物名)
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スマート農業の基盤としての農業環境情報整備の課題
農研機構 農業環境変動研究センター     岩崎 亘典
 スマート農業の実現にあたって,その基盤として気象,土壌などの農業環境情報の整備が必要である。これらの情報を整備する手法については,農研機構をはじめとする研究機関が取り組んでいるものの,ユーザーが利用可能な形態で提供しなければ,基盤としての意義を持たない。すなわち,ただ公開するだけでなく,適切なフォーマットとライセンスの選択,効率的データ提供のためのWeb APIの構築と提供基盤の維持,データを統合利用するための意味の統一,などが必要となる。このようにして様々な農業環境情報が利用可能となるとともに,農作業に係わる情報がシームレスに統合されることにより,スマート農業の実現が期待される。
(キーワード:農業環境情報,機械的処理,オープンデータ,Web API)
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