Vol.6 No.10
【特 集】 最新の茶に関する研究成果


実需者ニーズに対応した新たなチャ品種の育成
農研機構 果樹茶業研究部門    吉田 克志
 チャの育種は明治時代から始まり,主要品種「やぶきた」は20世紀初頭に民間で育成された。その後,国,府県および民間により多数の品種が育成されたが,「やぶきた」以外の品種で全国的に普及した品種は少ない。本稿では,これまでのチャ育種の歴史を概観し,品種の育成と普及について顧みると共に,実需者ニーズに対応した,品種育成・栽培・加工技術を統括した新たなチャ育種研究体制とその成果について紹介する。
(キーワード:「せいめい」,耐病性,抹茶,テアニン,海外輸出)
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国内外で市販される抹茶の科学的特性の解明
静岡県立大学食品栄養環境科学研究院 茶学総合研究センター
中村 順行
 抹茶はスーパーフードとして世界中の関心事であり,日本茶輸出の牽引役ともなっている。外国産抹茶も含め,国内外で市販される抹茶は飲用のみならず加工用など多用途に利用されているが,その詳細な実態は明らかでない。そこで,抹茶の海外市場における飛躍的拡大を目指し,日本茶ブランドとしての輸出戦略を構築するために,まずは国内外で市販されている抹茶の科学的特性を明らかにしたので紹介する。
(キーワード:抹茶,価格,粒度分布,測色値,化学成分)
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水出し緑茶の機能性
農研機構 果樹茶業研究部門    物部 真奈美
 緑茶を「水出し緑茶」にして飲用することにより,免疫機能の改善やストレス軽減の可能性がでてきた。緑茶を入れる時の水温の違いで茶葉から浸出してくる成分が変わる。以前から水温の違いで味が変化することは知られており,成分バランスの違いが作り出す味の変化を楽しんできた。しかし最近,このバランスの違いが,味だけでなく生理作用にも変化をもたらすことが分かってきた。
(キーワード:エピガロカテキンガレート,エピガロカテキン,テアニン,カフェイン,冷水浸出)
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におい嗅ぎガスクロを用いた茶の香りの解明
農研機構 果樹茶業研究部門    水上 裕造
 茶の嗜好性は香りにあると言っていいほど,香りは茶の嗜好を左右する重要な要素である。茶を淹れたときにたちこめる香りの良さに魅せられ,自ら急須で茶を入れる人もいる。また,湯飲み茶碗から湯気とともにたちこめる香りはわれわれの心をなごませ,惹きつける何かがある。近年,人の鼻を検出器として利用した「におい嗅ぎガスクロ」の利用により,ガスクロだけでは見えてこなかった茶の香りが見えてきた。ここでは,におい嗅ぎガスクロによる香りの分析を紹介し,これまで明らかになった煎茶の香りについて紹介する。
(キーワード:香気,におい嗅ぎガスクロ,香り成分,煎茶)
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気候変動へ対応した茶生産技術
農研機構 果樹茶業研究部門    廣野 祐平・山田 龍太郎・荒木 琢也
 人間活動に由来する気候変動が農作物の生産に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。すでに品質低下等の影響が現れている地域・作物もあり,安定的な農業生産を支える技術開発が求められている。一方で,農業活動自体が気候変動の要因となる温室効果ガスの排出源となっており,その排出削減も求められている。本稿では,これまでに研究開発が進められてきた気候変動による悪影響に適応する茶生産技術と,気候変動を緩和する茶生産技術の概要について紹介する。
(キーワード:防霜ファン,節電,土壌管理,一酸化二窒素,炭素貯留)
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新たな蒸し製「香り緑茶」の開発
静岡県農林技術研究所 茶業研究センター    小林 利彰
 緑茶の需要拡大を図るため,茶生葉を香気発揚処理することで,花様,果実様の香気成分量を高めた,新たな蒸し製「香り緑茶」を開発した。生葉段階での香気発揚処理は量産化が難しく,特に難点とされていた 撹拌工程において,より有効な撹拌条件を明らかにし,新しい連続型撹拌機などの香気発揚装置を開発した。開発した香気発揚装置の実証試験では,発酵茶用の小量処理機と同等以上に香気発揚することが確認され た。ティーバッグタイプの試作品をホームユーステスト形式で嗜好調査した結果,約9割の方が,「香り緑茶」を「好き」,「やや好き」と評価した。今後,商品化に伴い,新たな茶の需要拡大が期待される。
(キーワード:緑茶,香り緑茶,香気発揚,撹拌,低温静置,連続型撹拌機)
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長崎県における「やぶきた」にかわる緑茶新品種「さえあかり」の普及
長崎県農林部    池下 一豊
 日本茶を代表する品種「やぶきた」は,優れた品質により日本茶業発展に大きく貢献してきた。「やぶきた」は,種子(実生)繁殖から栄養繁殖へ転換する時点で,他品種と比較して際立って品質が良好であった。 そのため1960年代から普及面積を急激に増やし,40年前から品種偏重による課題が指摘されるようになったが,現在でも全国茶栽培面積の約75%を占めている。そのような状況で,「やぶきた」偏重を解消し,蒸し製 玉緑茶への品種適性が期待される「さえあかり」が緑茶用新品種として登録されたことから,本品種の長崎県茶業における位置づけと普及方法,今後の展望について紹介する。
(キーワード:さえあかり,やぶきた偏重,蒸し製玉緑茶,普及,長崎県)
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軽トラックで運べる軽量茶園管理機の開発と現地適用性
佐賀県茶業試験場    中村 典義
 軽トラックで運べ,傾斜地でも安全に一人で作業ができる低価格な軽量茶園管理機の開発と実証試験に取り組んだ。開発機の特徴は,刈り幅1,600mm程度,軽トラック側方から積載,操作ハンドル位置の可変機 構および積載時の自動停止機構である。作業は1名で可能であり,開発機は従来の可搬式管理機と比較して,延べ作業時間は短く作業負荷は低い。管理機の違いによる茶芽生育,生葉収量および荒茶品質に顕著な差 はみられない。安全面では15度以内の走行が望ましく,導入コストの回収年数は最短で5.1年である。また導入可能な茶園は,うね幅が180cm以下,搬入道路は無舗装でも幅が2m以上,茶園と道路の段差が±30cm以 内である。
(キーワード:チャ,茶園管理機,傾斜地)
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