Vol.6 No.6
【特 集】 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業の研究成果−実用技術編−


食料自給率向上を目指した豆類優良品種の育成
農研機構 次世代作物開発研究センター    羽鹿 牧太
 豆類の生産性を高めて自給率を向上するためには,それぞれの作目が持つ弱点を克服した新品種の育成が重要である。そこで大豆では加工適性に加えて,耐冷性を改善した「とよみづき」,モザイク病抵抗性を付与した「すずほまれ」,ダイズシストセンチュウ抵抗性を付与した黒大豆「つぶらくろ」,小豆では機械化適性に優れた「紅舞妓大納言」,落花生では糖分が高く食味に優れた「千葉P114号」を育成した。また育種の段階から普及機関,実需者等が積極的に関わり,育成品種の速やかな普及を図るためのさまざまな取り組みを行った結果,「とよみづき」,「すずほまれ」などは順調に普及面積を拡大した。
(キーワード:大豆,小豆,落花生,育種,普及活動)
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きく生産・流通イノベーションによる国際競争力の強化
農研機構 野菜花き研究部門    久松 完
 日本の花き生産は催事・贈答用の高級花き需要に対応した高品質な花き生産がベースになっており,品質を重視するあまりに土地(施設)生産性を犠牲にしてきたところがある。キク類については東南アジア諸国における安定供給体制の構築と価格優位性等を背景に輸入増加が続いている。関税が設定されていない花きは厳しい国際競争下にあり,早急な対策を行わねば,国内生産の衰退を招く脅威にさらされている。そこで,農林水産業食品産業科学技術研究推進事業において,新たな視点での取組により生産性の向上とコスト面での国際競争力強化を図ることを目指して「きく生産・流通イノベーションによる国際競争力強化」の課題 に取り組んだ。
(キーワード:キク,切り花,効率生産,国際競争力)
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CO2長期・長時間施用を核とした環境制御技術を開発し
東海の園芸産地を活性化する
農研機構 野菜花き研究部門    岩崎 泰永
 換気を抑制し,ハウス内のCO濃度,湿度を高めに維持できる期間や時間を長くすることによって光合成量が増加し,収量や切り花本数が増加する。この場合,飽差の低下によって蒸散量が低下し,養水分吸収量が低下する可能性があり,また,光合成量の増加に対応した養分供給量の増加が必要となるなど,環境や生育の変化に対応した養水分管理の最適化が重要である。光合成量の増加を果実収量の増加に結びつけるには,転流の促進および花房の発生速度に影響の大きい気温管理の調節が必要である。
(キーワード:環境制御,CO施用,湿度,飽差)
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高接ぎ木法および多段接ぎ木法を用いたナス科野菜
(ナス,ピーマン)の複合土壌病害防除
農研機構 野菜花き研究部門    中保 一浩
 新規の接ぎ木法として,台木の抵抗性を最大限に活用した「高接ぎ木法」によるナスおよびピーマン青枯病防除技術,および異なる抵抗性を持つ台木品種を"台木"および"中間台木"として組み合わせた「多段接ぎ木法」によるナスの複合土壌病害(青枯病,半身萎凋病)防除技術を開発した。両接ぎ木法とも各地の実証試験において,慣行接ぎ木と比べ青枯病やナス半身萎凋病に対する高い発病抑制効果が確認された。また,生育,収量および果実品質などは,慣行接ぎ木と同等であった。新規接ぎ木栽培と糖蜜を利用した土壌還元消毒やブロッコリーの輪作とを組み合わせた総合防除体系により青枯病およびナス半身萎凋病を持続的に抑 制することができた。
(キーワード:ナス,ピーマン,高接ぎ木,多段接ぎ木,青枯病,半身萎凋病)
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ギフアブラバチを利用した施設栽培ピーマン等における
ジャガイモヒゲナガアブラムシの生物的防除技術
農研機構 野菜花き研究部門    太田 泉
 害虫アブラムシ類に寄生する天敵昆虫のギフアブラバチを用いて,ピーマン等で発生するジャガイモヒゲナガアブラムシを防除する技術を開発した。ギフアブラバチの大量増殖技術を確立するとともに,生物農薬登録を行って製剤化した。ギフアブラバチのバンカー法を開発し,バンカー開始セットを作製した。ギフアブラバチの圃場における利用法には,成虫放飼法とバンカー法があり,成虫放飼法では,ジャガイモヒゲナガアブラムシの密度に対してギフアブラバチの放飼密度を多くすると速効的な抑制効果が得られること,バンカー法では,ジャガイモヒゲナガアブラムシの発生を継続的に抑制できることを示した。
(キーワード:ギフアブラバチ,生物的防除,バンカー法,ジャガイモヒゲナガアブラムシ,ピーマン)
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新たな天敵増殖資材「バンカーシート」を用いた
微小害虫防除技術の開発
農研機構 中央農業研究センター    下田 武志
 施設園芸作物ではハダニ類やアザミウマ類などによる被害が問題となる。これらの微小害虫は薬剤防除が難しいため,天敵であるカブリダニ製剤を用いた防除が行われてきた。しかし,従来のカブリダニ製剤は取扱いが難しく,栽培環境によっては天敵にとって過酷な条件になるため,効果が安定しない問題があった。そこで著者らは,不適な環境条件からカブリダニ類を保護し,簡単・確実に放飼する天敵増殖資材「バンカーシート」を開発した。そして,施設栽培の野菜類や花きにおける利用技術をマニュアル化した。本稿ではバンカーシートの特徴や利用場面,今後の展望について紹介する。
(キーワード:バンカーシート,施設園芸作物,カブリダニ類,微小害虫類)
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地球温暖化の制御と水質保全に資する
地域資源管理技術の実証と導入促進
農研機構 西日本農業研究センター    松森 堅治
 地球温暖化や水質汚濁・未利用有機資源・肥料費の高騰等の農業・環境問題は,喫緊の課題であり,包括的な対策が求められている。そこで,温室効果ガス排出抑制・水質保全・地域の有機資源活用・生産費の低減に貢献する地域資源活用型農地管理技術を実証した上で,ライフサイクルアセスメント(LCA)等で技術の経済価値を評価する手法と,それらの技術を導入した際の水質を予測するモデルを開発した。
(キーワード:温室効果ガス,硝酸性窒素,未利用有機資源,肥料削減,ライフサイクルアセスメント)
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雌生殖道内の精子生存性に着眼した
効率的ブタ人工授精法の開発
広島大学大学院    島田 昌之
大分県農林水産研究指導センター    後藤 雅昭
 高効率のブタ人工授精法を確立するため,母豚管理と精子希釈液の開発を行ってきた。前者については,母豚の光線環境および内分泌的解析により,LED照明が下垂体機能を亢進する結果,発育卵胞数が増加し,強い発情が誘起され,排卵が周年同調化されることを明らかとした。このような環境下では,発情期から黄体期への切り替えが急であることから,多数の精子を子宮内に注入することで白血球浸潤に伴う炎症が誘発されていた。そこで,抗原となる精子数を削減する「微少数精子でも充分な繁殖成績が得られる精液希釈液」を開発した。以上の成果を統合した実証試験により,妊娠率は低下せず、産子数が3%以上増加する高効率人工授精法を確立した。
(キーワード:LED照明,下垂体機能,性腺刺激ホルモン,炎症,人工授精)
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センサーわなのネットワーク化による
野生動物捕獲システムの開発
株式会社 野生鳥獣対策連携センター    阿部 豪
 野生鳥獣による農作物等への被害が深刻化する中,効率的な捕獲手法の開発への要求は,年々高まりを見せている。開発チームでは,特に被害が深刻なシカとイノシシ,サルを対象に効率的な捕獲手法の開発に取り組んできた。チームでは,まずわなに出入りする獲物の頭数を自動カウントし,最も多く進入したタイミングで捕獲を実行できる捕獲支援装置を開発した。続いて,開発した捕獲支援装置をネットワークでつなぐことで各わなから集めた情報を分析し,地域の捕獲促進に役立つ情報をリアルタイムに還元できるシステムを構築した。本稿では,その技術開発の経緯と概要,開発によって期待される成果と今後の展望について解説した。
(キーワード:シカ,イノシシ,捕獲,わな,ネットワーク化)
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日本海沿岸域におけるリアルタイム急潮予測システムの開発
水産研究・教育機構 日本海区水産研究所    井桁 庸介
 日本海沿岸域に突発的に発生する沿岸強流"急潮"をリアルタイムで予測するシステムを構築した。システムの基幹となる高解像度海洋数値モデルの構築にあたっては,定置網での実流速データの取得,急潮発生機構の解明を通して急潮予測精度を確認し,計算精度の向上に努めた。予測計算に用いるデータの取得,予測計算,結果を直感的に理解できる図の作成・公開を自動で実施するシステムを作成し,実用に耐えうる急潮予測システムの運用に至っている。
(キーワード:沿岸強流,急潮,予測システム,漁業被害低減,海洋数値モデル)
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