Vol.4 No.11
【特 集】 災害に強い農業農村に向けた防災・減災技術開発と研究連携


2016年熊本地震に伴う農業インフラ被害と防災研究連携
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門    鈴木 尚登
 幾多の自然災害を潜り抜けて発展してきた日本国が,人口減少期に入って最初に経験した歴史的災害である東日本大震災から5年余り,今年4月には2回の最大震度7を伴う熊本地震が発生し,農業インフラにも甚大な被害が生じた。本年4月に4法人が統合した農研機構では,東日本大震災の教訓を踏まえ,熊本地震の発災当初から農業・農村被害想定の発信や被災地への派遣支援等,国・県の災害対応に対し研究機関として迅速かつ積極的な技術支援連携を行った。今次の災害教訓は,自助・共助・公助を適切に組合せた災害対策支援における様々な連携の重要性である。
(キーワード:地震災害,災害対策基本法,指定公共機関,防災連携,被災密度,推計震度)
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農業用ダムにおける地震観測記録の重要性
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門    黒田 清一郎
 大規模地震発生時の強震動記録は,農業用ダムの地震時挙動や被災機構等を考える上で不可欠の情報である。東日本大震災を契機に,全国の国営造成の農業用ダムには地震計が設置された。本報ではそのような地震観測記録に基づく農業用ダムの地震時挙動に関する研究を紹介するとともに,農業用フィルダムにおける地震観測記録の重要性について言及する。
(キーワード:農業用ダム,地震計,地震観測記録,大規模地震,地震防災)
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沿岸部の農業地域における巨大浸水被害の軽減策
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門    桐 博英・安瀬地 一作・
関島 建志・中田 達
 沿岸部の農業地域における大規模な浸水被害を軽減するため,海岸線と平行に流れる排水路や落堀をモデルにした新たな津波減勢工の特性を断面二次元実験で評価した。また,これらの対策工を平野部の農業地域に適用した場合の総合的な津波減災効果を評価するため,大型の平面津波実験を行い,広大な農業地域の保護には地域全体に対策を行う必要はなく,適切に対策工を配置することで減災できる可能性があることを明らかにした。
(キーワード:農地海岸,浸水災害,減災,水理模型実験)
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気候変動・津波災害に備えた耐塩性作物の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター     竹内 善信
名古屋大学大学院 清明農学研究科
    近藤 始彦
農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター
     
荒井(三王) 裕見子・竹本(久野) 陽子・岡村 昌樹・黒木 慎・小林 伸哉
 東日本大震災では広範囲な水田が津波・地盤の低下などにより被災し,その塩害が営農再開の大きな支障となっている。また,地球規模の気候変動に伴う海水面の上昇および高潮被害による同種の塩害問題にも有効な解決策が求められている。これまでに作物の塩害発生の生理メカニズムの解明が進むとともに,遺伝資源から耐塩性品種の探索が進展したことにより,品種の開発においても塩害対策が考えられるようになってきた。農研機構はこれらの情報を活用し,塩害対策の有効な解決策の一つとして,日本の栽培に適する耐塩性水稲品種「ソルトスター」を開発した。
(キーワード:イネ,塩害,耐塩性品種,生理メカニズム,栽培)
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震災後の迅速な施設園芸地域の復興に関する課題
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門    中野 明正・岩崎 泰永
 熊本で発生した施設生産における震災事例について紹介するとともに,東日本大震災での事例を復興状況も合わせて述べる。発生した地域や状況も異なり,復興に資する技術開発について一概に述べることは困難であるが,今後の発生に備え知見を蓄積する必要がある。日本列島は南北に長く,気象条件が地域により大きく異なるが,施設生産ではハウス構造や内部装置について,標準化が進められつつある。また,さまざまな栽培法があるが,これについても全国規模で類型化されつつある。生産の効率化,災害への備えとしても,標準化を進める必要がある。一方で,多様な地域の生産現場の実情に合わせた技術の擦り合わせのスキームが必要である。このようなモデルの構築手法を東日本大震災の復興研究からくみ取るべきであろう。多様な技術的なオプションの合理的な組み合わせがシステムとして速やかに提案できるようになる。
(キーワード:施設園芸,標準化,規格化,技術オプション,システム化)
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沿岸域における広域的な地下水資源探査技術の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門    中里 裕臣
 津波や高潮による災害や温暖化に伴う海面上昇により沿岸域の浅層地下水が塩水化し,その利用が広域的に困難となる場合がある。このため,被災時の緊急水源調査や水質障害に備えた水源調査に有効な,探査能率と耐ノイズ性能を向上させた電磁探査システムを開発し,広域的な地下水資源調査を短時間で実施可能とした。
(キーワード:浅層地下水,塩水化,物理探査,CSMT法電磁探査)
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ため池防災支援システムの開発
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門    堀 俊和
 東日本大震災での藤沼貯水池の決壊を受け,地震,豪雨時のため池の災害情報システムの開発を行っている。本システムは地震直後や豪雨が予想される前に,ため池の決壊を予測し,決壊防止や避難対策を支援するための災害情報を共有するシステムである。市町村やため池管理者によるため池現地での対策を支援するだけではなく,都道府県や農林水産省,府省庁間の情報共有を行い,迅速な減災対策を支援するためのシステムである。
(キーワード:ため池,災害情報システム,情報共有,地震,豪雨)
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伝え続けることで次への新たな知恵を生む
宮城大学 食産業学部    郷古 雅春
 東日本大震災は東北の農業農村に,産業としての農業だけでなく,農業生産を背景とした文化,自然環境,国土保全機能などのいわゆる多面的機能にも壊滅的なダメージを与えた。農地や農業水利施設などのハード面の復興は様々な問題を抱えつつも,順調に進んでいる。しかし,農業農村の復興はインフラや経済活動の復興だけではない。いま取り組むべきは,農業水利のルール,農村地域の文化,自然環境,コミュニティなど,多面的機能の持続的な発揮を支える社会的共通資本の復興である。それには時間を要するが,農村の社会的共通資本の重要性を伝え続けていくことが次の時代への新しい知恵を生むことに繋がる。
(キーワード:東日本大震災,多面的機能,社会的共通資本,農業農村,農業水利施設)
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農業農村における防災,復旧・復興の現場に対応するGISとその成果
株式会社イマジックデザイン     友松 貴志
 官民連携で技術開発したGIS(地理情報システム)であるVIMS,およびモバイルGISのiVIMSは,農地,水利施設,地域資源管理等の活動で利用するシステムであるが,地震等災害発生後の緊急時,および中長期的な復旧・復興時においても活用することができた。災害のためにICT(情報通信技術)システムを整備することは難しいが,日常的に利用できるシステムで使い慣れておくことで災害時に即応ができること,地域コミュニティの防災意識の向上に活用した事例を基に,農業農村におけるICT活用による防災減災技術について述べる。
(キーワード:GIS,ICT,自主防災,モバイル)
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