Vol.4 No.9
【特 集】 植物が持つ病害防御能の誘導とその利用


植物の病害抵抗性の概論
東京農工大学 大学院農学研究院    有江 力
 植物は,「静的抵抗性」と呼ばれる先天的な防御で外敵に対して備えるとともに,外敵になり得るものを認識して発動する「動的抵抗性」でもさらに対抗する。植物にアプローチする多くの微生物はこれらの抵抗性によって排除されるが,それらを凌駕できるものが植物に感染・侵入・進展し,栄養を摂取,病気を引き起こすことができる。植物が持つ,両抵抗性の概要と,病原との関係を紹介する。
(キーワード:植物―微生物相互作用,外的要因,防御機構,侵害戦略)
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病害抵抗性における植物ホルモンの役割
福井県立大学 生物資源学部     仲下 英雄
 植物と微生物の相互作用によって植物細胞内で様々な遺伝子発現の調節やタンパク質の機能の制御が起きるが,その中では植物ホルモンも重要な役割を担い,病原体に対する植物の抵抗性や罹病性の制御にかかわっている。植物ホルモンシグナルは相互にクロストークしており,病原体によっては感染に利用している。また,病害抵抗性は成長や環境ストレス応答と拮抗的関係にあるが,そこでも植物ホルモン間のクロストークが起きている。本稿では,病害抵抗性で主要な役割を担う植物ホルモンを中心として,関連する植物ホルモンも加えて,病害抵抗性における植物ホルモンの役割の重要性を概説する。
(キーワード:植物ホルモン,サリチル酸,ジャスモン酸,エチレン,ブラシノステロイド,アブシジン酸,全身獲得抵抗性)
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植物の防御システムを活性化する化学物質(プラントアクチベーター)について
Meiji Seikaファルマ株式会社 生物産業研究所    梅村 賢司
 植物は,ヒトと同様に,病原菌からの感染を受けると防御応答する。この防御応答システムには,植物とヒトの間で共通した機構が存在し,病原菌由来の特定の成分を認識することで発動する。また,植物の防御システムは,病原菌由来の成分以外に,特定の化学物質を処理することでも活性化できる。このような化学物質の一部は,農薬として実用化されており,イネの最重要病害である「いもち病」防除において中心的な役割を果たしている。本稿では,プラントアクチベーターと称される農薬の紹介を中心に,植物の防御システムを活性化する化学物質について概説する。
(キーワード:プラントアクチベーター,イネいもち病,全身獲得抵抗性(SAR),サリチル酸(SA),エリシター)
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昆虫病原菌を利用した生物防除における抵抗性誘導
東北大学 大学院農学研究科    高橋 英樹
 自然界には,昆虫に感染し病気を引き起こす様々な病原微生物が存在する。近年,これら昆虫病原菌の培養ろ液を施用した植物において,植物病原菌による病害の発生が抑制されることが明らかになってきた。培養ろ液を植物根部に処理すると,植物の防御応答システムにかかわる遺伝子群の発現が誘導されることから,これら昆虫病原菌による植物病害抑制効果は,植物の病害抵抗性システムの活性化に起因する可能性が高いと考えらえた。B.thuringiensis,P.tenuipes,B.bassiana の病害抑制効果の持続性や抑制効果が認められる病害と植物の種類など,明らかにされるべき課題は多く残されているものの,虫害と病害の両方に抑制効果を発揮することができれば,dualfunctional な生物農薬の創出が可能となると考えられる。
(キーワード:昆虫病原菌,誘導抵抗性,防御関連遺伝子,生物防除)
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抵抗性品種・マルチラインと物理的抵抗性誘導
東京農工大学 環境安全管理センター     寺岡 徹
 環境保全型農業が推奨される現況において,優良な抵抗性品種は病虫害防除に不可欠な手段のひとつと言える。しかし,今まで交雑育種された抵抗性品種の多くは短期間で新たな病原菌レースの出現により無効化してしまった。そこで異なる抵抗性遺伝子を「優良推奨品種」に導入した同質系統の種子を複数混合栽培するマルチラインが普及し成果を挙げている。加えて,超音波を利用した抵抗性誘導も実証されつつある。それらの有効性と今後の展望について概説したい。
(キーワード:抵抗性品種,マルチライン,同質系統,超音波)
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ウイルス病に対する抵抗性誘導
−メカニズムから応用まで−
東京農工大学 グローバルイノベーション研究院    小松 健
 ウイルス病に対する抵抗性誘導は,抵抗性遺伝子によるものがよく知られている。近年明らかになってきた抵抗性誘導の多様なメカニズムについて解説するとともに,日本で他国と比べて実用例の多い弱毒ウイルスに関する知見を合わせて紹介する。
(キーワード:植物ウイルス,抵抗性遺伝子,RNAサイレンシング,プラントアクチベーター,弱毒ウイルス)
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発光レポーターを利用した抵抗性誘導能を持つ化合物の
ハイスループットスクリーニング
横浜国立大学 大学院環境情報研究院    平塚 和之
 非破壊的に遺伝子発現を連続観察する技術として発光生物由来のルシフェラーゼ遺伝子によるルシフェリン―ルシフェラーゼ反応を利用した発光レポーター法がある。それは侵襲性が低く,遺伝子発現との連動性も良好であるため,遺伝子発現量変動のモニタリング技術として優れている。この方法は高等植物の研究手法としては比較的古くから知られているが,基礎生物学領域における学術研究での使用例が多く,応用研究での事例は比較的少ない。本稿では発光レポーター法による防御応答遺伝子のモニタリング手法について概説し,抵抗性誘導剤探索への応用の実施例と問題点,今後の展望について解説する。
(キーワード:ルシフェラーゼ,発光レポーター,ハイスループットスクリーニング)
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