Vol.4 No.8 【特 集】 食料生産地域再生のための先端技術展開事業の成果 |
「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」の概要と 今月号の特集について |
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農林水産・食品産業技術振興協会 松本 光人 | ||
「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」では,東日本大震災の被災地の復興を加速し,新たな食料生産地域として再生するため,復興地域の特色を踏まえながら先端的な農林水産技術を駆使した大規模な実証研究を推進している。本特集では,先端技術展開事業で得られた研究成果を,現場における具体的な実証事例を交えながら分かりやすく解説する。 | ||
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プラウ耕・グレーンドリル播種体系の乾田直播による 稲-麦-大豆の2年3作 |
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農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター 大谷 隆二 | ||
東日本大震災から復興し,食料生産地域を再生するために,コスト競争力のある農業の発展が期待されている。仙台平野津波被災水田において2〜3ha規模の大区画水田を造成し,プラウ耕・グレーンドリル乾田直播の播種体系を,麦,大豆にも適用した2年3作体系を導入し,安定多収技術を現地実証した。営農機械で合筆造成した3.4ha圃場(長辺300m,10枚合筆)と2.2ha圃場(長辺170m,6枚合筆)を用いた3年間の実証試験の平均収量は,乾田直播533kg/10a,小麦403kg/10a,大豆226kg/10aであった。実証試験の結果,水稲60kg当たりの費用合計は6,903円,小麦は7,431円,大豆14,711円で,2010年東北平均に対し,それぞれ57%,46%,72%に低減する。 (キーワード:津波被災地,水稲乾田直播,プラウ耕・グレーンドリル体系,2年3作) |
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イチゴ高設栽培システムの標準仕様の策定 | ||
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 岩崎 泰永 | ||
東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県亘理町,山元町のイチゴ産地の復興を支援するため,研究実証プロジェクト「イチゴ高設栽培システムの標準仕様の策定」を実施した。このプロジェクトでは,地域に導入するイチゴ高設栽培システムの統一仕様を提案し,地域の支援機関と連携して,情報提供や問題解決にあたった。高設栽培について現場の問題点を整理したり,培地比較を中心としたモデル実験を行い,高設栽培についての知見を整理し,イチゴ高設栽培の標準仕様を暫定的に提案した。 (キーワード:イチゴ,高設栽培,東日本大震災,ヤシ殻繊維,ピートモス) |
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高付加価値大豆加工製品の研究開発 | ||
東北大学大学院 農学研究科 藤井 智幸・阿部 敬悦・宮澤 陽夫 | ||
豆乳は,オイルボディが分散したコロイド分散系である。豆乳のpHが低下すると,オイルボディがタンパク質を介して凝集し高密度脂質凝集体が生成し,このようなコロイド状態で遠心分離を行うとオイルボディが沈殿画分として分離されることが示された。また,オイルボディをパパイン処理するとコロイドが不安定化したことから,オイルボディ表面のオレオシンが安定化に関与していることが示された。パパイン処理後に加熱することによって凝集を促進させたところ,遠心分離によって容易に浮上画分としてクリームを得ることができた。豆乳コロイド分散系の状態を評価し制御することで,新たな豆乳製品の開発・高付加価値化の可能性が示された。 (キーワード:豆乳,コロイド安定性,オイルボディ,遠心分離,豆乳クリーム |
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農地・農業用施設の減災対策を支える技術開発と実証 | ||
農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究部門 小林 宏康 | ||
東日本大震災後の農業・農村の復興対策として,生業に直結する先端的な営農技術に関心が寄せられたが,土地利用型の農業経営の再開には,地域防災力の確保,農地の機能回復と向上,農業用水の質と量の確保といったハード対策と,復興計画を実行に移すために必要な合意形成の支援や復興業務の効率化といったソフト対策を講じることが欠かせない。そのための技術開発と復興支援を目的とし,農村工学分野を中心に取り組んだ4年間の成果を紹介する。 (キーワード:ハード技術,ソフト技術,防潮堤,排水機場,農地除塩,合意形成) |
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電照栽培による夏秋小ギクの安定生産 | ||
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 住友 克彦 | ||
夏秋期の小ギク生産では,気象変動の影響で開花期が安定せず,需要期の計画生産が困難である。輪ギクやスプレーギク生産では電照栽培で開花時期を調節し,計画生産が行われていることから,夏秋期の小ギク生産でも電照栽培の導入による計画生産を目指し試験を行った。既存の夏秋期の小ギク品種から電照栽培に適した光応答性を有する品種を選抜し,それら品種の電照終了から開花までの日数(到花日数)を調査した。到花日数のデータを用いて,開花目標日から逆算して電照終了することによって高精度な開花調節が可能であり,電照栽培による夏秋期の小ギクの需要期計画生産が実証された。 (キーワード:暗期中断,日長反応,短日植物,抑制栽培) |
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植物工場の高収量化・高効率生産に向けた 総合環境制御システムの開発 |
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現在世界標準であるオランダの施設園芸用統合環境制御システムを凌駕する性能を有する国産の統合環境制御システムを開発した。開発システムは,オランダのシステムとは異なり自立分散型のシステムで,中央のコアシステム(CS)と単体でも高度な制御が可能なインテリジェントコントローラ(IC)で構成される。ICとしては,CO2ICや細霧発生による気温・飽差ICを先行して開発済みである。CSは予測制御や気温・湿度・CO2濃度の同時制御,生育予測などが可能な極めて高度な機能を有し,施設全体の光合成速度など速度変数の見える化も実現した。
(キーワード:統合環境制御システム,自律分散制御,速度変数,光合成速度の見える化) |
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ブルーベリーのオフシーズン出荷技術の実証研究 | ||
東京農工大学大学院 農学研究院 荻原 勲・堀内 尚美・千年 篤 | ||
鉢植えのブルーベリーを夏季に低温・短日処理して秋季に開花を誘導した開花株(鉢)を農業者の既存ハウスにレンタル鉢として導入し,オフシーズン(冬季)に果実の収穫を行うことにより,収益をもたらす新たなスタイルの果樹生産モデルの実証を行った。その結果,果実の収穫が12月から翌年9月まで連続し,収量は最大7倍になった。果実は糖度が高く,消費者の評価は高かった。オフシーズンには通常の4倍の価格で販売できたので,収益性を検証した。 (キーワード:ブルーベリー,オフシーズン出荷,連続収穫,高収量,収益性) |
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宮城県の新しい高品質カキ(あまころ牡蠣とあたまっこカキ) −地元定着を目指した養殖実証研究− |
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水産研究・教育機構 東北区水産研究所 沿岸漁業資源研究センター 神山 孝史 |
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東日本大震災後の宮城県のカキ養殖の復興のために,新しい高品質カキの養殖技術の開発と現場での実証を行った。天然シングルシードをもとにしたカゴ養殖により産卵前に出荷する一粒カキの生産が志津川湾で成功し,「あまころ牡蠣」として商品化した。また,松島湾にある桂島の潮間帯で干出を周期的に与えながら養殖する技術開発を行い,生産物を「あたまっこカキ」として商品化した。これらは試食会と試験販売を通じて多様な消費者や飲食店関係者の評価を受けるとともに,大手オイスターバーなどで本格出荷に移行しつつある。こうした新たなカキ養殖の導入と地元の定着を進めながら,市場での宮城県カキのイメージアップを図りたい。 (キーワード:あまころ牡蠣,あたまっこカキ,一粒カキ,潮間帯カキ,天然シングルシード) |
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水産加工場における電力使用量の「見える化」と データ分析による省エネルギー対策 |
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ミツイワ株式会社 小田嶋 俊和・一宝 賢太・熊沢 拓 | ||
東日本大震災にて被災した冷凍水産物の加工場(以下,水産加工場)では,鮮度管理のために保管,加工,配送にて冷蔵設備を保有し,その電力経費が経営を圧迫している。これらの電力使用量の削減のためには,操業中の使用量の把握が重要となるが,情報不足により工場内の電力使用量の見える化は進まず,現場に必要とされる管理体制の整備も進んでいない状況である。弊社は,2012年より農林水産省の「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」の一環として,「自然エネルギーを利用した漁村のスマート・コミュニティ化技術実用化・実証研究」を担わせていただいている。そこで得られた研究成果を元に,本稿では,被災地の水産加工場の電力使用量の「見える化」と,そのデータ分析や,気温,生産量といったデータとの関係性を分析を踏まえ,弊社が実施した省エネルギー対策について説明する。 (キーワード:省エネルギー活動,データ分析,エネルギー管理体制) |
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