Vol.4 No.6 【特 集】 飼料用米の生産と利用をめぐる情勢 |
特集のねらいと内容 |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 野中 和久 |
輸入トウモロコシに代わる国産デンプン質飼料として飼料用米の利用が増えている。飼料用米の生産・利用はわが国の飼料自給率向上に大きく寄与するものであるが,その推進のためにはいくつかの課題があり,2010年度から開始された農林水産省委託プロジェクト研究(国産飼料プロ)では,飼料用米の品種選定,低コスト栽培技術,加工調製技術,各畜種で推奨される給与技術などの開発が進められてきた。本特集では,今後の更なる飼料用米利活用の促進に向け,これら技術や先進地での取り組み事例を紹介する。 (キーワード:飼料用米,育種,栽培,牛,豚,鶏) |
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飼料用米品種の特性と今後の育成方向 |
農業・食品産業技術総合研究機構 次世代作物開発研究センター 石井 卓朗 |
農研機構では,日本の各地域での栽培に適した飼料用米品種を育成してきた。これらの品種は一穂につく籾数が多い,いわゆる穂重型品種で,玄米収量はおおむね750〜800kg/10aを示し,主食用品種よりも3割程度多収である。最近では,「オオナリ」など,1t/10aのポテンシャルを持つ多収品種も育成されている。今後は,多収性に加えて,いもち病圃場抵抗性やトビイロウンカ抵抗性等の病害虫抵抗性,耐冷性等を付与することにより,栽培しやすい飼料用米品種を育成することが重要である。 (キーワード:飼料用米,水稲育種,多収品種,病害虫抵抗性) |
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飼料用米向け多収品種の特性と栽培管理技術 |
農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 吉永 悟志 |
飼料用米向け品種は,同一栽培条件においても主食用品種と比較してシンク容量(面積当たり籾数と玄米一粒重の積)が大きく,吸収窒素当たりの籾や玄米の生産効率が高い特性を有することが多収要因となっ
ている。飼料用米の安定生産やコスト低減のためには,①乾物重や収量の増加による土壌養分吸収の増大に対応した家畜ふん堆肥の活用,②シンク容量の増大により登熟期間が長くなることに対応した水管理,③乾
燥コストの低減に有効な立毛乾燥,④食用米への混入を防ぐための落下種子の防除対策,などの栽培管理技術の適用が重要となる。
(キーワード:水稲,多収,シンク容量,乾物重,養分吸収) |
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飼料用米サイレージの調製技術 |
山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センター 浦川 修司 |
近年,急激に作付面積が拡大している飼料用米は,WCS用イネとは異なり,利用畜種や利用(貯蔵)形態は多種多様であり,流通体制も全国流通と地域内流通に大別される。全国流通では,乾燥調製を行い,飼料工場で加工されて,畜産農家に供給されるが,地域内流通においては,家畜が利用する前に破砕処置等の加工を行う必要があり,そのための様々な破砕機が開発されている。また,乾燥保管経費の削減を目的として,収穫直後の籾米をフレコンバッグでサイレージに調製する技術が注目されつつある。 (キーワード:飼料用米,籾米サイレージ,地域内流通) |
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乳牛への飼料用米の給与技術 |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 永西 修 |
農業総生産額に占める畜産の割合は30%を越え,国民への良質なタンパク質の供給源として重要な役割を担っている。家畜生産費に占める飼料費の割合は50%程度と高く,さらにトウモロコシなどの濃厚飼料の自給率は14%で大半を輸入に依存しているため,近年の輸入飼料価格の高騰・高止まりは畜産経営に深刻な影響を及ぼしている(農林水産省,2016)。今後も良質な畜産物の安定生産を図るためには,国産飼料の一層の生産と利用拡大が重要となっている。中でも飼料用米は水田をそのまま活用できることから,国産濃厚飼料として注目され,家畜への給与に関する研究が進められている。そこで,本稿では乳牛を対象に飼料用米の給与技術に関する取り組みを紹介する。 (キーワード:給与技術,飼料用米,乳牛) |
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新潟県魚沼市における乳牛への飼料用米給与の取組 |
新潟県農業総合研究所 畜産研究センター 関 誠 |
新潟県魚沼市において,地域で生産される飼料用玄米を乳牛に給与する取組が始まり,3年以上が経過し,全国から注目される一事例となっている。その取組の概略は,魚沼市自給飼料生産組合を核に,地域の
生産調整水田で生産される飼料用玄米を,JA北魚沼で破砕作業を行い,配達または引き取りで,破砕済み玄米を酪農家に供給している。 飼料用玄米を3年以上継続して給与する酪農家は4戸で,全てが混合飼料による給与を行い,飼料用玄米の混合割合が30%前後の酪農家も存在し,積極的な給与が行われ,先進的な事例と位置づけられる。 (キーワード:飼料用米,乳牛,自給飼料,混合飼料,魚沼市) |
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肉用牛への飼料用米給与 |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 樋口 幹人 |
肉用牛へは玄米および籾米どちらの形態でも飼料用米を給与できるが,玄米と籾米は飼料特性が大きく異なる。両者とも給与前に破砕や圧ぺん等の加工処理が必要である。肥育牛への給与形態として,市販肥育用配合飼料の一部を飼料用米で置き換える方法や,トウモロコシまたは大麦の代替飼料原料として配合飼料に混合する方法などがある。飼料用米給与と牛肉の脂肪酸組成との関係は一定していない。飼料用米多給では肥育中期以降牛が採食不振を示すことがある。 (キーワード:肉用牛,飼料用米,飼料特性,ビタミンA制御,脂肪酸組成) |
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豚への飼料用米の給与 |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 田島 清 |
豚における飼料用米(玄米)の栄養価はトウモロコシと同等であり,代替として利用することができる。粒度は豚での利用性に影響し,2mm以下に粉砕する必要がある。肥育後期豚への給与ではトウモロコシを完全に代替しても飼養,枝肉,肉質成績において遜色ない成績が得られている。ただし,他の飼料原料との組合せを考慮し,現在のところ飼料中に40%以内の配合が一般的に使いやすいと考えられる。飼料用米を給与することによる肉質への影響は,トウモロコシ主体の慣行飼料給与と比較して大きな違いはみられない。 (キーワード:玄米,籾米,豚,肉質) |
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鶏への飼料用米給与 |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 村上 斉 |
鶏では籾米を全粒(未粉砕のまま)でも有効に利用できる。飼料用米の利用拡大に向けて実施された国産飼料プロでは,採卵鶏および肉用鶏における全粒籾米の給与限界が検討され,栄養素の調整を行えば,飼料中のトウモロコシを全粒籾米で全量代替できることが示された。また,飼料用米を利用する上での留意点などが整理され,様々な懸念が無く一般的に利用可能と考えられる配合水準も明らかになった。さらに,飼料用米を利用することで,特色ある鶏卵・鶏肉を生産できる可能性が示され,飼料用米給与による鶏卵・鶏肉の差別化が期待できた。 (キーワード:飼料用米,鶏,給与限界,鶏卵・鶏肉,差別化) |
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