Vol.4 No.5 【特 集】 最近の農業生物資源ジーンバンク事業の活動と遺伝資源の利用 |
農業生物資源ジーンバンク事業 |
農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝子組換え研究センター 根本 博 |
ジーンバンク事業は,農業にかかわる遺伝資源の探索収集,特性評価,保存,配布および遺伝資源に関する情報提供を一貫して行う事業である。遺伝資源として植物,動物,微生物,DNAを対象としている。1985年に「農林水産省ジーンバンク事業」として活動を開始して30年を迎えた。現在,植物遺伝資源22万点,微生物遺伝資源3万2千点,動物遺伝資源2千点を保存し,年間約1万点の遺伝資源を教育・研究用に配布している。 (キーワード:遺伝資源,ジーンバンク,種子,育種,遺伝子) |
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遺伝資源へのアクセスと利益配分にかかわる国際条約の紹介 |
農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源センター 土門 英司 |
遺伝資源の国際取引の場面では,アクセスとその利用から得られる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)は避けて通ることのできない重要な問題である。近年発効した生物多様性条約ABS名古屋議定書は締約国にABSにかかわる手続きがとれるよう義務づける国際文書である。また,食料・農業植物遺伝資源条約では作物遺伝資源の国際取引のための特例を定めている。これらの条約はジーンバンク事業とも関連が深く,遺伝資源提供国の加盟状況はそれぞれ異なるため国際的な状況は複雑になっている。ここでは植物遺伝資源を例にABSにかかわるこれらの国際条約について概説する。 (キーワード:ABS,CBD,ITPGR,遺伝資源,ジーンバンク) |
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植物遺伝資源研究の現状と今後 |
農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源センター 馬場 晶子 |
農業生物資源ジーンバンク事業の植物部門の活動内容として,作物遺伝資源の探索収集から保存までの一連を説明するとともに,国内探索,Vigna属植物の特性評価と再同定,遺伝資源の高度化に向けたストレス耐性試験法の開発とこれを用いた新規遺伝資源の同定,超低温保存法の開発など,最近の成果についても紹介する。 (キーワード:作物遺伝資源,探索収集,増殖・特性評価,高度化,保存[種子・栄養体]) |
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微生物遺伝資源研究の現状と今後 |
農業・食品産業技術総合研究機構 遺伝資源センター 一木(植原) 珠樹 |
農研機構のジーンバンク事業微生物部門は植物病原微生物(糸状菌類,細菌類,ウイルス・ウイロイド類,線虫など)を主な対象として国内外から収集,分類評価し配布している。ジーンバンク事業の開始から約30年経過した現在,保存株数は3万点を超え,2万6千株程度が配布可能である。配布数は年間1,000〜1,500点程度で植物病原微生物が9割を占めており,分類・同定や病害診断・病原検出などに使用されている。保存株情報の高度化を図り,保存株の約半数について分類・同定のためのバー・コード領域の塩基配列情報を蓄積しつつあるほか,微生物利用マニュアル,病名データベースの構築や推奨菌株の提供も行っている。 (キーワード:微生物遺伝資源,植物病原微生物,収集,保存,配布) |
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遺伝資源情報の高度化と提供 |
農業・食品産業技術総合研究機構 山崎 福容・竹谷 勝 |
農業生物資源ジーンバンクでは遺伝資源そのものを収集・保存するだけではなく,遺伝資源の利用を促進すべく情報の高度化とWeb公開を進めている。独自に開発した遺伝資源検索システムでは品種名や原産地といった来歴データを用いた検索のほか,草丈・耐病性などの特性データによる検索が可能であり,遺伝資源の画像や塩基配列データ,収集地点の地図情報などをダウンロードすることもできる。また,検索システムと連携した配布申込システムも備えており,より多くの利用者が目的に適った遺伝資源を活用できるように努めているところである。 (キーワード:遺伝資源,World Wide Web,データベース,検索システム) |
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農業生物資源ジーンバンクにおける種子の受入保存管理 |
農業・食品産業技術総合研究機構 知花 高志・小柳 千栄・ 宮下 進・根本 博 |
農業生物資源ジーンバンクでは,海外や国内で探索収集した作物の種子を受け入れ,低温庫で保存し,利用者の要望に応じて提供する業務を行っている。現在約22万点の植物遺伝資源を保存し,年間約1万点の提供依頼に応えている。種子の保存は配布用の中期貯蔵庫(室温−1℃,湿度30%)とオリジナル種子用の長期貯蔵庫(室温−18℃,湿度30%)で重複して保存する体制で実施している。配布用の中期貯蔵庫の種子は5年に一度発芽率を検査し,活力が落ちた種子は更新して,配布種子の発芽率を維持している。 (キーワード:遺伝資源,ジーンバンク,種子,保存,配布) |
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野菜の品種改良における遺伝資源の利用 |
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 川頭 洋一 |
国内の農業において,高齢化や気候変動,国際競争力,消費者ニーズの多様化などの課題に対応するため,野菜においても新品種開発は重要な役割を担っている。新品種開発を行うためには,まず有用な形質を有する育種素材が必要であり,有用な育種素材を見いだすためには,遺伝的多様性に富む遺伝資源の集団を保有しておくことが重要である。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では,これまでジーンバンク事業などで収集した国内外の遺伝資源を利用して野菜の育種を行ってきたが,本稿では,農研機構で近年育成された実用品種・中間母本の事例を紹介する。 (キーワード:野菜,育種,品種,遺伝資源) |
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大学における遺伝資源保存と教育 |
宮崎大学 農学部 明石 良・田中 秀典・橋口 正嗣 |
宮崎大学は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施するナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)におけるミヤコグサ・ダイズ課題の中核機関として遺伝資源(バイオリソース)の整備を進めるとともに,これらの生物遺伝資源を軸とした人材育成やその国際展開を進めている。さらに,本学大学院農学研究科では,農学に関する多様で高度な専門知識・技能を国際的に活用し展開できる高度専門技術者および研究者を育成する「農学国際コース」を新設し,「生物遺伝資源の保存と利活用に関する実践プログラム」による遺伝資源教育を実施している。 (キーワード:NBRP,ミヤコグサ・ダイズ,遺伝資源,人材育成,農学国際コース) |
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