Vol.4 No.2
【特 集】 農業における気候変動対策研究の現状と成果


農業分野の気候変動への取り組み
農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    渡邊 朋也
 気候変動の影響は農業においてもさまざまな場面で現れてきており,対策技術の開発は喫緊の課題である。本特集では農林水産省プロジェクト研究で行われた,農業における気候変動影響評価,適応技術開発,緩和技術開発の成果の概要を紹介する。
(キーワード:温暖化,影響評価,適応策,緩和策)
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日本の農地における土壌の炭素貯留と温室効果ガスの緩和策
農業環境技術研究所    白戸 康人・麓 多門,片柳 薫子,
岸本 文紅,三島 慎一郎
 農地の土壌炭素量を増加させる管理は,地球温暖化の緩和と,地力の維持増進による農地の生産力向上の両方に役立つ。土壌炭素量を増加させるためには,土壌にすき込む有機物の量を増やすか,不耕起栽培など有機物分解を遅くする管理が有効である。この時,メタンやN2Oの他の温室効果ガスが増えるトレードオフの関係があるため,3つのガスを総合的に評価することが重要である。土壌炭素を日本向け改良RothCモデル,メタンをDNDC―Riceモデル,N2OはRothCと統計モデルの組合せで全国計算し,総合評価を行った。土壌炭素については,RothCモデルを使い土壌炭素の計算をweb上で簡単に行える「土壌のCO2吸収「見える化」サイト」を公開した。
(キーワード:土壌炭素貯留,温暖化緩和,メタン,一酸化二窒素,LCA)
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家畜排せつ物起源の温室効果ガスの国内排出実態把握と抑制技術
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    長田 隆
 家畜生産に伴う温室効果ガスは世界の全排出温室効果ガスの18%もの寄与があると指摘され,食料生産増大と同時に,温室効果ガス排出抑制が強く求められている。とりわけ家畜排せつ物起源の排出は大きな削減が期待されている。多様な家畜排せつ物管理手段に応じた温室効果ガス排出量の測定・評価方法の確立は,効率的な削減手段の開発と選択に不可欠である。肥育豚の飼料改善による一酸化二窒素排出抑制,堆肥化処理時の初発堆積物水分調整による温室効果ガス排出抑制,亜硝酸酸化細菌添加による一酸化二窒素排出抑制や炭素繊維担体の導入による汚水浄化処理からの一酸化二窒素排出抑制方法が開発され,実証研究が進行している。
(キーワード:堆肥化,汚水浄化,低蛋白質飼料,炭素繊維担体,カーボン・オフセット)
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気候変動が土地利用型作物に及ぼす影響
農業環境技術研究所    長谷川 利拡
 気候システムの温暖化は疑う余地がなく,作物生産に対する影響も顕在化してきた。気候変動が作物生産に与える影響は,しばしば負の影響が取り上げられるが,プラスに働くものもある。さらに,影響の程度は地域や作目によっても異なる上に,その仕組みも直接的なものから間接的なものまで多岐にわたる。気候変動にうまく適応するためには,こうした影響の違いを理解した上で賢い選択を行うことが望まれる。本稿では,内外で実施された研究から,気候変動が農業に及ぼす地域的な特徴を俯瞰するとともに,影響のしくみや適応に向けた研究の取り組みを紹介する。
(キーワード: 温暖化,大気CO2濃度,FACE,収量,品質)
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果樹・野菜・花き・茶分野における適応策の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所    杉浦 俊彦
 園芸,茶生産では温暖化の影響はさまざまであり,対応する適応策も多種のものが開発されている。農林水産省委託プロジェクトにおいて近年,開発・改良されたものとして,果樹では被覆資材の利用等による凍害防止技術,植調剤利用等によるウンシュウミカンの浮皮やナシの発芽不良軽減技術がある。野菜では遮光制御を用いたホウレンソウ生産安定技術,環境制御等によるトマトやイチゴの生産安定技術,花きでは夏秋需要期キク安定開花調節技術,茶では適応品種や節電型防霜ファンによる生産安定技術が開発されている。
(キーワード:プロヒドロジャスモン,アルミ蒸着フィルム,気化潜熱利用,気温差制御)
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畜産における高温対策技術
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    永西 修
 夏季の高温環境下では家畜や家禽の成長の鈍化,畜産物の生産量や品質の低下が起こることから,栄養管理や飼養環境の改善の面での対策技術が取り組まれてきた。しかし,温暖化が進行した場合に,畜産業がより一層深刻な影響を受けることが懸念されるため,さらに効果的な高温対策技術の開発が求められている。そこで,本稿では乳牛を中心に最新の高温対策技術として,栄養管理では酸化ストレスの改善,飼養環境ではスポット冷房システムを用いた研究を紹介する。
(キーワード:栄養管理,高温環境,飼養環境,乳牛)
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気候変動が水循環に及ぼす影響と農業水利施設を生かした適応策の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    坂田 賢
 気候変動は気温上昇のみならず,水循環にも大きな影響を及ぼすことが予想されている。農業への具体的な影響の一つとして,用水が必要な時期に現在より利用できる用水量が減少する地域の発生が懸念されている。猛暑となった2010年には水管理を強化する稲作農家が多かったが,十分な用水が得られない場合には品質が低くなった。利用可能な水資源を考慮した上で,農業水利施設を活用した適応策の一つである稲の高温登熟障害対策を行った。パイプライン用水路が整備されると,河川から導水された用水が圃場に到達するまで水温がほとんど上昇しない。また,パイプライン用水路が整備されていない地区よりも1等米比率の向上もみられた。
(キーワード:灌漑,農業水利施設,適応策,水循環,気候変動)
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