Vol.3 No.4
【特 集】 第10回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績


食品媒介性原虫感染症に対する新規薬剤の技術開発
帯広畜産大学 原虫病研究センター    加藤 健太郎
 現在我が国において,原虫病を含めた感染症による食に対する危機感,それに伴った風評被害が蔓延しており,特に食肉産業における国民の不信感は極めて大きい。そこで本研究では,食品媒介性の原虫感染症,特にトキソプラズマ症について,感染源となる家畜を対象として,現在の未熟な原虫病対策に取って代わり,原虫独特の生活環を遮断することができる革新的な抗原虫薬の技術開発を行った。
(キーワード:トキソプラズマ,抗原虫薬,糖鎖薬,薬剤耐性,薬剤スクリーニング系)
←Vol.3インデックスページに戻る

アブラナ科野菜における分子育種の基盤構築とその応用
三重大学大学院    諏訪部 圭太
 アブラナ科には,ハクサイやキャベツ,ナタネ,ダイコン等,多様な野菜類が属し,育種対象とする形質も多岐にわたる。その多くは複数因子による量的形質であるため,遺伝様式の解明は育種に重要である。アブラナ科植物における遺伝解析技術を確立するため,高汎用性DNAマーカーとして知られるSSRマーカーを主体とした詳細遺伝地図を構築し,国際標準化や近縁種とのゲノム類縁関係の解明等を通して,アブラナ科野菜における高精度・高汎用性分子遺伝学研究技術を確立した。本技術により,長らく混乱を極めた根こぶ病抵抗性の遺伝様式を解明し,本抵抗性機構の進化仮説の提唱や強度根こぶ病抵抗性ハクサイ品種の新規開発に貢献した。
(キーワード:連鎖地図,QTL,MAS育種,コーディネート育種,ハクサイ根こぶ病)
←Vol.3インデックスページに戻る

飛ばないナミテントウの育成と利用技術の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター
    世古 智一
 ナミテントウはアブラムシの有力な天敵であるが,成虫は飛翔能力が高いため放飼後すぐに飛翔して逃げられる傾向があり,作物上に定着しにくい問題が指摘されている。これを解決するため,ナミテントウ集団の中から飛翔能力の低い個体を検出できる選抜技術を開発し,遺伝的に飛翔能力を欠くナミテントウ系統を育成した。本系統は,施設だけでなく露地でも作物上で高い定着率を示し,様々な作物とその栽培環境でアブラムシ防除に有効である。飛ばないナミテントウは施設野菜類用の天敵製剤として登録・販売されており,今後は露地での実用化を目指す。
(キーワード:ナミテントウ,飛翔不能化,天敵製剤,基礎研究,実用化研究)
←Vol.3インデックスページに戻る

肉用牛の効率的生産および脂肪交雑推定に関する研究
長崎県農林技術開発センター     橋元 大介
 肉用牛生産に関して生産者のみならず,消費者の視点からも考察し,黒毛和種肥育牛生産における技術的課題解決に向け,黒毛和種の早期肥育技術の確立,おいしい牛肉の生産技術の開発および超音波エコー画像を用いた精度の高い脂肪交雑推定ソフトの開発を行った。また,これらの研究成果を基に肉用牛「黒毛和種去勢牛早期肥育技術マニュアル」を作成し,全国和牛能力共進会「肉牛の部」出品対策への応用がなされた。併せて,出品牛選抜においては,脂肪交雑推定ソフトの活用もなされた。その結果,第8区(若雄後代検定牛群)においては優等1席ならびに名誉賞・内閣総理大臣賞を獲得し,「長崎和牛」ブランド力の強化に大きく寄与した。
(キーワード:肉用牛,早期肥育,おいしさ,脂肪交雑,推定)
←Vol.3インデックスページに戻る

ニホンジカの資源管理に関する研究−新たな衛生管理手法と猟区制度の活用−
森林総合研究所 北海道支所    松浦 友紀子
 深刻な農林業被害をもたらしているニホンジカの個体数調整が,全国的に緊急の課題となっている。また,個体数調整に伴い多くの個体が捕獲されている現状において,捕獲個体の資源的活用の促進が求められている。そこで本研究では,資源利用と一体化した個体数管理方法を提案するために,法制度による一律規制とは異なり独自のシカ管理が実施可能な「猟区」制度が,有効な個体数管理システムになり得るかを検討し,さらに捕獲個体の安全安心な資源利用法を提示した。
(キーワード:ニホンジカ,個体数管理,資源利用,人材育成,野外内臓摘出)
←Vol.3インデックスページに戻る