Vol.2 No.4
【特 集】 第9回若手農林水産研究者表彰


イチゴ育苗圃の田畑輪換による萎凋病の防除
千葉県農林総合研究センター 暖地園芸研究所    海老原 克介
 千葉県のイチゴ栽培では,育苗期間が夏季に当たるため,高温多湿条件下で発生の多いイチゴ炭疽病の発生が苗生産上の問題となっていた。炭疽病の回避を目的として,夏季冷涼で炭疽病の発生報告のなかった北海道に苗生産を委託するイチゴリレー苗生産が開始されたが,委託先の北海道では,冷涼な気候条件下で発生の多いイチゴ萎凋病の発生が新たに問題となった。そこで,両病害の防除対策技術の確立に取り組んだ。本研究では,北海道に炭疽病菌を持ち込まないための効率的な検定方法を開発した。また,水田条件下では萎凋病菌が徐々に死滅することを明らかにするとともに,北海道における萎凋病防除のための田畑輪換による輪作体系を確立し,両病害の同時防除を実証した。さらに,水田条件下において萎凋病菌が死滅する要因の一つとして,嫌気条件が関与することを明らかにした。これらの成果により,リレー苗生産における検疫体制を確立し,両病害に感染していない苗の生産システムを構築して実用化した。
(キーワード:イチゴリレー苗生産,イチゴ炭疽病,イチゴ萎凋病,田畑輪換)
←Vol.2インデックスページに戻る

アクションリサーチによる新技術普及手法の革新
(独)農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター    後藤 一寿
 新品種や新技術を,アクションリサーチという視点から迅速かつ効果的に普及させる手法について解説する。アクションリサーチとは質的研究手法の一つであり,アクション(活動)とリサーチ(研究)の両方を指し,実践,研究,理論に橋を架ける研究方法である。この視点から,生産者と実需者のニーズを科学的に解析する手法の開発,黒大豆クロダマルをモデルに,ニーズに基づく産地化計画とコンソーシアム形成手法の開発,共創的連携のための8カ条の提言,未来指向のプラットフォームの形成へ向けた提言を行い,新しい技術普及手法として解説する。
(キーワード:アクションリサーチ,ニーズ把握,プラットフォーム,コンソーシアム,共創的連携)
←Vol.2インデックスページに戻る

小型反芻獣レンチウイルス感染症の国内防疫
農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    小西 美佐子
 小型反芻獣レンチウイルス(SRLV)感染症は,めん山羊の生産性を低下させるため,めん山羊産業で最も重要視されている疾病の一つである。われわれは,2002年に国内で初めてSRLVの一つである山羊関節炎・脳脊髄炎ウイルス(CAEV)を分離し,様々な診断法開発および疫学調査を実施してきた。本研究の成果は,感染個体の摘発や清浄化対策などに活用され,わが国のSRLV感染症の防疫対策に貢献している。
(キーワード:めん山羊,レンチウイルス,診断法,清浄化)
←Vol.2インデックスページに戻る

単分散エマルションの製造と評価技術の開発
農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所    小林 功
 高密度配置が可能な非対称構造のマイクロ貫通孔アレイを装備したマイクロチャネル乳化装置を開発・大型化し,従来法では困難であった液滴サイズが均一な単分散食品エマルション液滴の大量製造を実現した。本乳化装置は市販されている。計算機手法を用いることにより,非対称マイクロ貫通孔を介した液滴作製現象の詳細を明らかにした。食品サブミクロン液滴がナノギャップの中でブラウン運動を停止する現象を見いだし,この現象を活用した試料の前処理が不要な食品サブミクロンエマルションの迅速・高画質観察技術であるナノギャップ法を開発した。本技術を用いることにより,食品サブミクロン液滴の存在状態を簡便に把握できることを実証した。ヒト胃のぜん動運動の定量駆動及び食品の消化挙動の直接観察が可能な胃消化シミュレーターを開発した。本消化装置を用いることにより,従来法では困難であった胃ぜん動運動に駆動される食品エマルションの微細化挙動を視覚的に把握できることを実証した。
(キーワード:食品エマルション,マイクロチャネル乳化,生産性,ナノギャップ,胃消化シミュレーター)
←Vol.2インデックスページに戻る

土着天敵と誘引剤利用によるカキのフジコナカイガラムシの防除
福岡県農業総合試験場    手柴 真弓
 カキの重要害虫であるフジコナカイガラムシは,薬剤散布による防除ではその効果に限界がある。そこで,土着天敵による防除を行うため福岡県内の土着天敵相を明らかにして,有力な天敵フジコナカイガラクロバチに対する薬剤の影響を評価し,影響の少ない剤による土着天敵活用型防除体系を構築した。また,フジコナカイガラムシの防除に資するため性フェロモンの成分を明らかにし,合成性フェロモン剤を用いた予察法および交信撹乱法を開発した。さらに,土着天敵を誘引する物質を発見し,これを活用した防除技術の開発に取り組んでいる。
(キーワード:フジコナカイガラムシ,カキ,IPM,性フェロモン,土着天敵)
←Vol.2インデックスページに戻る