Vol.35 No.8
【特 集】 動物感染症の現状と防疫対策


家禽における高病原性鳥インフルエンザの診断と対策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    彦野 弘一・西藤 岳彦
 高病原性鳥インフルエンザは,その強い致死性と伝播性により養鶏産業に甚大な被害を及ぼすことから,家畜伝染病予防法において家畜伝染病(法定伝染病)に指定され,公的に発生と常在化を防ぐ 措置を取ることが定められている。近年,高病原性鳥インフルエンザが中国および東南アジアの国々の家禽において流行し,渡り鳥または人・物を介して日本の家禽に侵入しやすい状況になっている。高病原 性鳥インフルエンザの発生および常在化を防ぐためには,家禽の飼養者,行政,関係団体が連携して防疫にあたる必要がある。動物衛生研究所は,発生時の確定診断や派遣調査を行うとともに,平時の幅広 い研究開発を通じて高病原性鳥インフルエンザの防疫の一翼を担っている。
(キーワード:高病原性鳥インフルエンザ,家禽,防疫)
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野鳥における高病原性鳥インフルエンザ
鳥取大学    伊藤 壽啓
 2010年10月,北海道稚内市で野生のカモの糞便からH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離されたのを皮切りに,翌年3月まで,全国各地で次々と野鳥の死亡個体から同亜型の高病 原性ウイルスが分離された。これらのウイルス遺伝子の進化系統学的解析から,本流行の原因ウイルスは北方からの経路を含む複数の侵入ルートで国内に持ち込まれた可能性が示された。しかし,野生鳥類 における本ウイルスの存続メカニズム,あるいは家禽へのウイルス伝播や流行拡大に果たす野生鳥類の役割については未だ完全には理解されていないのが現状である。
(キーワード:高病原性鳥インフルエンザ,インフルエンザウイルス,野鳥,鶏,存続メカニズム)
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口蹄疫の診断と防疫
(独)農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所    坂本 研一
 東アジアで発生する口蹄疫は,国境を接する口蹄疫常在国から中国に侵入し,感染が拡大して,東アジアの国々に伝播すると考えられ,アジア地域の経済活動の活発化に伴い,さらに感染のスピードは 増している。口蹄疫は複数の検査法を用いて総合的に診断される。近年,イムノクロマト法を用いた簡易迅速診断法が研究・開発されているが,その感度は低く,安全取扱が難しい。一方,口蹄疫には不活化ワ クチンが製品化されているが,野外分離株と抗原性が一致していることが重要である。また,ワクチン接種後もすぐに感染を抑えられないことから,即効性のある抗ウイルス剤を開発し豚での有効性を世界で初 めて確認した。
(キーワード:口蹄疫,イムノクロマト法,不活化ワクチン,抗体識別,抗ウイルス剤)
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悪性家畜伝染病に対する地域貿易体制の整備と課題
鹿児島県農業開発総合センター    北野 良夫
 2010年および,2011年に,隣県宮崎県での口蹄疫(FMD)および,本県でも発生した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の防疫を経験した。結果として,FMDを侵入防止でき,またHPAIは1例のみで封じ 込められた。その要因は,平常時に国内外の発生情報を周知するなど畜産農家等の危機意識を高めていたこと,発生を想定して,防疫資材・要員の確保,防疫対応マニュアルの作成および防疫演習を実施し ていたこと,発生した場合に指示命令系統を一元化して具体的な対応を行ったことが上げられる。近隣諸国では悪性家畜伝染病が続発しているため,発生防止・まん延防止の事務を行う各都道府県は,獣医師・ 埋却地の確保,県境域の防疫体制構築などの課題解決を図りながら万全の対策を講じておくべきである。
(キーワード:口蹄疫,高病原性鳥インフルエンザ,防疫マニュアル,防疫演習,獣医師)
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近年の家畜アルボウイルス感染症の流行動態
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    山川 睦
 近年,国際物流の拡大化・迅速化や地球温暖化などによって,感染動物の移動や吸血性節足動物の活動が活発化し,世界的にアルボウイルス感染症の分布域や流行頻度・時期の拡大がみられる事態 が生じている。わが国では,アカバネウイルスの生後感染による牛の脳脊髄炎が多発する一方で,新たな脅威となりうる新規のウイルスが九州・沖縄地方を中心に相次いで分離されている。欧州では,ブルー タングや「シュマレンベルクウイルス感染症」という新たな反芻動物の異常産が広範囲に流行して大きな社会問題となっている。今後ますますアルボウイルス感染症の監視態勢強化を図っていく必要がある。
(キーワード:牛,アルボウイルス,ヌカカ,新興感染症)
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防疫戦略と獣医疫学
(独)農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所    筒井 俊之
 近年,日本を含め世界各地で,国境を越えた家畜伝染病の流行や新たな家畜伝染病の発生が認められている。これら脅威に対応するため,疾病の発生予防や発生状況の分析などに有用な知見を提供 する獣医疫学の役割が重要となっている。また,疾病発生時の防疫戦略の立案は,獣医学のみならず様々な分野の専門的知識を活用して行う必要があり,学際的な側面をもつ獣医疫学が貢献できる点も多い。 今後,より効率的な防疫を実施するためにも家畜伝染病の防疫戦略に関する分析・研究を進めていく必要がある。
(キーワード:家畜伝染病,獣医疫学,防疫戦略,防疫戦術)
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