Vol.31No.6
【特 集】 環境にやさしい病害虫制御技術


環境にやさしい病害虫制御技術開発の現状と展望
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    高橋 賢司
 環境にやさしい病害虫制御は,総合的病害虫管理(IPM)の概念に基づき,予防対策,防除要否の判断,各種防除手段の組み合わせで行う。 それを支える,マルチラインや土着天敵,緑肥などを利用した予防対策技術,電撃型自動計数フェロモントラップや土壌診断などの防除要否判断技術, 天敵や微生物,ウイルス,フェロモンなどを利用した生物的防除技術,発光ダイオードや超音波,光などを利用した物理的防除技術など, これから実用化や普及拡大が期待される技術を取り上げ,開発の現状と今後の課題を紹介した。
(キーワード:IPM,予防対策技術,防除要否判断技術,生物的防除技術,物理的防除技術)
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メロンえそ斑点ウイルスの運び屋を抑える微生物の利用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    津田 新哉
 メロンの栽培土壌や根から取り出した菌株の中から,メロンえそ斑点ウイルスの媒介菌であるオルピディウム菌の感染を抑制する拮抗菌が数株得られた。 得られたオルピディウム菌拮抗菌の中から,現地試験における本病の土壌伝染,ならびにその後の全身感染を効果的に抑制する高機能微生物BS242菌を選抜した。 得られたBS242菌株は,微生物同定によりBacillus sp.の新種相当であることが判明した。
(キーワード:メロンえそ斑点ウイルス,臭化メチル,Olpidium bornovanusBacillus属細菌)
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微生物群集から土壌の健全性や活性を評価する
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    横山 和成
 土壌が持つ生物的な機能,例えば栄養素の植物への持続的供給,病原微生物の爆発的増殖の制御等を担っているのが,土壌中に膨大な数生息する微生物群集である。 この様に,重要性を認識されながら,群集としての機能,振る舞いに関してはほとんど科学的探求の範囲外とされてきたのは,群集が多数の要素,つまり土壌微生物で構成され, それらが相互作用しながら変化する複雑系であり,複雑系は従来科学が得意とする全体を少数の要素に分割し単純化して因果関係を把握する「要素還元」手法になじまないからである。 ここでは,連作障害抑止型土壌のメカニズム解明を目的として開発された非還元的評価手法について紹介する。
(キーワード:土壌微生物,生物多様性,複雑系,生物的豊かさ評価)
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低分子量キチンと非病原性微生物で作物に病害抵抗性を誘導する
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター福島研究拠点
    門田 育生・永坂 厚
 カニ殻などを主成分とするキチン資材は,キャベツ萎黄病や根こぶ病に対する発病抑制効果があるが,低分子量化したキチン(LMC)では, 極めて少量でもこれと同等の効果があることが明らかになった。その作用機構は,従来考えられていたキチン分解菌が産生するキチナーゼによる殺菌効果ではなく, 宿主の病害抵抗性の誘導が主体であると考えられた。しかし,キチン資材やLMC単独での防除効果は低く,生産現場で利用するのは困難と判断した。 そこで,キチン資材に非病原性微生物を組み合わせた防除体系とすることにより,発病抑制効果が顕著に向上し,圃場における防除効果を認めた
(キーワード:キチン,非病原性菌,抵抗性誘導)
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昆虫病原性ウイルスの活用で複数害虫を同時防除する
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    後藤 千枝・務川 重之
 作物栽培においてチョウ目害虫の防除は欠くことができない。チョウ目に特異的な病原ウイルスであるバキュロウイルスは, 環境に対する影響や生産者への負担が少ない防除素材として期待されており,ブラジルのダイズ害虫,日本のチャ害虫などで大きな成果が得られている。 われわれは,複数害虫の同時防除を目標に,新たなウイルス殺虫剤の開発に取り組み,ヨトウガ由来の核多角体病ウイルスにシロモンヤガ由来の顆粒病 ウイルスを組み合わせることによって核多角体病ウイルスの感染力を強化できることを明らかにした。 両ウイルスの活用で,ヨトウガ,オオタバコガ,ウワバ類に対する高い殺虫活性を得ることができる。
(キーワード:核多角体病ウイルス(NPV),顆粒病ウイルス(GV),害虫防除)
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細胞内微生物を利用した天敵増殖技術
静岡大学 農学部 共生バイオサイエンス学科    田上 陽介
 これまでに様々な害虫防除技術が開発され,利用されている。なかでも生物農薬(天敵)による生物的防除は環境への負荷の少ない防除法として注目されている。 しかし,一般に天敵は増殖コストが高く,効率的な大量増殖技術の開発は天敵利用を普及する上で重要なテーマである。近年多くの昆虫はその細胞内に微生物を持つこと, この細胞内微生物は天敵としての能力を高めることに利用可能であることが明らかになってきた。 本稿では,この細胞内微生物を利用した天敵増殖技術の開発に関して,研究の現状と今後の課題・展望について報告する。
(キーワード:寄生蜂,細胞内微生物,Wolbachia,産雌性単為生殖化)
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超音波で果樹園から果実吸蛾を撃退する
徳島県立農林水産総合技術支援センター 果樹研究所    小池  明
 果実を吸汁加害するヤガ類(果実吸蛾類)は,中山間地域における果樹の重要害虫であるが薬剤防除が困難であり,既存の防ガ灯や防虫網も欠点をかかえている。 この研究では,ヤガ類がコウモリの発する超音波を感知して逃避行動をとるという習性を利用し,忌避効果が高い超音波の周波数,パルスパターンを解明し, 高出力超音波発振装置を開発することにより,圃場で利用可能なまったく新しいヤガ被害防止技術を開発した。
(キーワード:果樹,ヤガ,超音波,コウモリ)
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静電気で病害虫を断つ−静電場スクリーンの開発と実用化
近畿大学農学部 植物感染制御工学研究室    豊田 秀吉・松田 克礼・野々村 照雄
カゴメ株式会社 総合研究所    金原 淳司
大阪府環境農林水産総合研究所 食とみどり技術センター    草刈 眞一
 静電気を利用すると浮遊物を電気的に吸着できる。著者らは誘電分極させた絶縁体に,この能力が存在することに着目し,静電場スクリーンを考案した。 このスクリーンはうどんこ病菌など病原菌の胞子だけでなく,タバココナジラミなどの飛翔害虫も捕捉することができる。 また,解放した窓に近い状態で通気性が保てることから,換気が良くなり,夏季の施設栽培で問題となる高温障害も防ぐことができる。 さらに,スクリーンの電極が絶縁体で被覆されていること,また,接地されたアースネットで保護されていることから人間や植物が接触してもまったく危険はない。 本稿ではこの静電場スクリーンの原理とその実用化例を紹介する。
(キーワード:静電場スクリーン,トマトうどんこ病,タバココナジラミ,防除技術)
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