Vol.30 No.11
【特 集】 環境保全を重視した農林水産技術革新


環境保全を重視した農林水産技術革新
東京農業大学 総合研究所    三輪 睿太郎
 環境と農林水産業をめぐる科学技術の発展予測に基づき,これまで対立軸として捉えられてきた「生産性」と「環境」が,今後の科学技術が新たな世界観を 確立しながら発展することによって調和軸として捉えられるとみて,減農薬・減肥料化への技術開発を中心に環境保全を重視した農林水産技術の現状と方向を論ずる。
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農業における技術革新の展望
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター    丸山 清明
 農業技術は20世紀に急速に発展した。それは主に化学と工学の技術を農業技術に取り入れた結果である。今後,農業が持続的に発展するためには, より深化した生物学と情報科学を取り入れた農業技術を開発する必要がある。
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資源循環型畜産技術の現状と展望
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    柴田 正貴
 輸入飼料を前提とした生産効率向上のための家畜の高能力化,経営の規模拡大が進められた結果,資源循環の途切れが徐々に大きくなり, これが環境問題の顕在化などにつながっていることが指摘されている。今後の重要な課題は,耕作放棄地や転作水田の有効利用を含めた耕 地利用率の向上とそれによる食料自給率の向上,地域における自然循環機能の維持増進による持続型畜産の確立である。このためには, 要素技術のみならず,地域社会における自然循環型畜産の有する価値の医学や人文・社会科学的解明も加えたシステム構築研究が必要とされる。
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森林・林業・木材産業における技術革新の展望
(独)森林総合研究所    鈴木 和夫
 21世紀を迎えて国土の7割を占める森林に対する価値観が大きく変貌した。世界の共通語で語られるようになり,その多面的な機能と価値が グローバルな観点から検討され始めた。一方で,わが国の木材自給率は2割で木材生産額は国内総生産の0.1%に満たない。技術革新(イノベーション)とは, 新たな価値が生まれて社会が豊かになることであるとすれば,森林を社会的共通資本として捉え,国民のニーズに対応した多面的な機能の発揮をさらに進めるとともに, 森林・林業・木材産業のイノベーションとして,バイオマス生産,水保全,温暖化防止,知の世紀,への対応が喫緊の課題である。
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水産業における技術革新の展望
(独)水産総合研究センター    松里 寿彦
 水産分野における技術革新の展望を述べる前に,わが国水産業の現状と問題点について,1)魚食文化,2)世界的水産物需要の増大,3)獲る,加工する,運ぶ,飼う, そして消費する体制,に分けて記述した。特に国内消費減の原因である「魚離れ」,わが国EEZ(排他的経済水域)内資源の有効利用,生産から消費までを含む トータル・システムの欠如,が問題と考えられる。技術革新の展望については水産業の個別要素別に論じたが,全体としては恵まれた わが国EEZ内の海洋生物資源の水産資源化,利用加工技術のさらなる向上,養殖用種苗生産技術の開発のほか,環境保全的生産システムの確立が急がれることなどを述べた。
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食品産業に於ける技術革新の展望
味の素株式会社    山野井 昭夫
 本稿は,食品産業の中核を占めている製造業の立場から,その技術革新の展望を論じたものである。食品産業は1次産業たる農林水産業の産品を加工処理して 3次産業たる食品流通業や同サービス業に伝達し,これらをとおして一般消費者の食生活に利する役目を担っている。食品産業の技術革新の方向は,消費者の食品に対する顕在的, 潜在的要望に対し,的確に応える製品を提供できることを目指すことにある。消費者の食品に対する4つの要望,価値観(略して「簡」,「健」,「良」,「絆」) を中心に対応方法を展望するとともに,逆に食材提供の農林水産業への情報提供などの任を負うことなどを述べている。
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環境と調和した食料生産のためのエコシステム制御
(独)農業環境技術研究所    佐藤 洋平
 エコシステムは生命維持のための機能を果たしており,人間活動を支える最も重要な基盤となって,種々のサービスを私たちに提供してくれている。 農業はこのエコシステムを活用した食料生産であり,「生物制御」を本質とする。このことが農業環境研究の原点となる。 地球規模での課題に対処するための国際取決めは農業環境研究のスコープを拡大してきた。農業がもたらす環境負荷を削減するなど農業環境研究の原初的課題から 今日までの研究の歩みを俯瞰し,グローバル化が進みかつ不確実性の大きくなるなかでの農業環境研究を展望する。
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