Vol.30 No.10
【特 集】 和牛のブランド戦略


和牛 −現状と展望−
(社)畜産技術協会    松川  正
 和牛4品種、すなわち、黒毛和種、褐毛和種、無角和種、日本短角種の合計頭数の95%を黒毛和種が占めている。牛肉輸入自由化後黒毛和種の比率は高まった。 和牛は国内の牛肉消費量の15%程度を供給している。海外でも和牛肉は高級牛肉として評価されており、日本への輸出向け牛肉生産のためにも、 和牛は重要な遺伝資源と目されている。この状況のなか、国内では和牛を知的財産として位置づけ、その遺伝資源の保護・活用策が動き出した。
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和牛の育種の現状と方向
神戸大学大学院 農学研究科    向井 文雄
 和牛はその遺伝的多様性を源泉にして産肉能力検定直接法と間接法の2段階選抜により農用牛から肉用牛へと急激な用途変更に成功したが、 脂肪交雑の改良は十分な成果が得られていなかった。平成3年(1991)、牛肉の自由化を迎え、安価な輸入牛肉に対抗するために和牛の優れた特性である肉質、 特に脂肪交雑の一層の改良と斉一化のために、生産現場から収集される枝肉情報を活用した育種価評価体制を確立し、枝肉形質の育種価に基づく育種改良を推進した。 依頼16年、評価体制の進展にともなう枝肉形質の改良およびBLUP法による選抜が集団構造へ与えた影響について概説し、遺伝的多様性を維持した育種の展開の必要性について述べる。
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黒毛和種の品種鑑別技術
神戸大学大学院 農学研究科    万年 英之
 ここ10年の間、外国産輸入牛肉を国産牛肉と偽称した事例に代表されるような、牛肉などの食品を不当な表示で販売するという不祥事が絶えない。 特に牛肉では、高級牛肉を生産する黒毛和種として偽装表示されることが多い。正しく表示された牛肉の販売は、消費者や生産者の受益といった点で非常に重要である。 ここでは、牛肉の偽装表示の背景やわが国における牛品種の遺伝的背景について述べ、さらにわれわれが開発した黒毛和種とホルスタイン種およびその交雑牛に対するDNAマーカーを用いた鑑別技術に関して紹介する。 この鑑別法は偽装表示の抑止力となるばかりでなく、和牛ブランドを守るためにも貢献できるだろう。
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呈味性を加味した和牛肉生産技術
兵庫県立農林水産技術総合センター    岩本 英治
 現在の枝肉市場における牛肉の評価は脂肪交雑に大きく依存している。しかし、消費者は見た目の美しさよりも適度な脂肪交雑で食べておいしい牛肉を求めている。 食肉のおいしさには筋肉中のアミノ酸組成や脂肪酸組成が関与し、特にアミノ酸やイノシン酸が味に影響し、脂肪酸組成が風味に影響することが知られている。 これまでのわれわれの試験研究により、牛肉の呈味成分は種雄牛による遺伝的影響を大きく受け、さらに、肥育期間や濃厚飼料中のトウモロコシ形状によっても変化することが明らかとなった。
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和牛肉のおいしさの特徴と評価技術
日本獣医生命科学大学 応用生命科学部    沖谷 明紘
 わが国の消費者は和牛肉(黒毛和種牛肉)を、味がよいから輸入肉よりも圧倒的においしいと判定している。味と香りを区別して判定した結果、 和牛肉にはコクのある脂っぽい甘い香り(和牛香と命名)があることが、おいしさの主原因であると判明した。 本香は霜降り和牛肉を空気に触れさせて熟成した後に80℃で短時間加熱すると最もよく生成することが分かった。本香の生成には微生物は関与していないと推定された。 本香の示す甘い香りは、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトンなどのラクトン類によると推定された。従って和牛肉の官能評価では、鼻孔の開閉によって口中香を味と峻別して判定することが必須である。
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和牛のブランド戦略と牛個体識別システム
(独)家畜改良センター 十勝牧場    鈴木 一男
 牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(以下「法」という)により、牛個体識別システムが牛(肉)のトレーサビリティの基盤として位置づけられ、 国内すべての牛が耳標番号によりデータベースに登録され管理されている。これら登録された情報は、インターネットによる公表のほか、生体流通時の要件や品種登録、 あるいは各種補助金、共済金などの決裁、動産担保の証明などにも利用され始めている。一方、わが国の知的財産でもある和牛の遺伝資源の保護の観点からも、 「和牛」表示の厳格化が求められ(食肉の表示に関する検討会、2007)、品種や生産履歴の証明手段などとして、牛個体識別システムの情報活用が期待されている。
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