Vol.30 No.7
【特 集】 注目される森林セラピー


わが国における森林セラピーの展開
(独)森林総合研究所 森林管理研究領域    香川 隆英
 森林セラピーがわが国で始動して4年が経つ。その間,産学官の森林セラピー研究会や全国市町村・民間が参画する森林セラピー総合プロジェクトなどをとおして, 順調に森林セラピーの芽が育ってきた。森林総合研究所などを中心とした研究成果も着実に学会誌などで報告され,森林セラピー基地やセラピーロードの広がりは, しっかりした科学的エビデンスの裏付けがあることで,さらに期待が高まっている。
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森林セラピーの生理的評価法
(独)森林総合研究所 構造利用研究領域    恒次 祐子
 現在実施している森林セラピー効果実証実験においては,中枢神経系指標として近赤外分光分析法による脳血液動態,自律神経系指標として心拍数, 血圧ならびに心拍変動性,内分泌系指標として唾液中コルチゾール濃度,免疫系指標として唾液中免疫グロブリンA濃度の測定を行っている。 本稿ではこれら生理指標の特徴や測定法,解析法を紹介する。生理的評価をこれほど大規模な森林浴実験に適用した例はこれまでになく, 今後も実験をとおして評価法を改善しながら森林セラピーの効果を検証していきたい。
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森林セラピーの生理的リラックス効果
千葉大学 環境健康フィールド科学センター    朴  範鎭
 最近,人の生理的状態を評価する方法が確立され,今まで経験的に知られていた森林セラピーの生理的リラックス効果がフィールドにおいて解明されようとしている。 われわれは,2005年度に林野庁が発表した「森林セラピー基地構想」に基づいて,全国24カ所において計288名の大学生を対象とした生理実験を行った。 その結果,都市部に比べて森林部においては血圧や脈拍数が低下することおよび副交感神経活動が昂進し,交感神経活動が抑制されることが認められた。 さらに,唾液中のコルチゾール濃度も低下することが分かった。結論として,全国24カ所の森林における生理評価から,森林セラピーが生理的リラックス効果をもたらすことが明らかとなった。
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森林セラピーの心理的リラックス効果
千葉県森林研究センター    綛谷 珠美
 森林の癒し効果が注目されるなか,森林セラピーの心理的なさまざまな効果が解明されつつある。都市と比較して,森林では緊張や不安を減少させるリラックス効果があり, さらに,活気を高める気分の改善効果がある。これらの効果は森林浴コースによって若干異なり,眺望が良く,さわやかなコースでは活気が増加しやすく, 森林に包まれたような静かなコースでは緊張や不安が和らぐようである。また,高齢者では森林で思い出が刺激され,気分が改善されることや, 障害者では痛みの認知が軽減されることも明らかになった。さらに,幼児に対しても森林はストレスを緩和し,精神面での成長に必要であることが示された。
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森林大気中のフィトンチッド
(独)森林総合研究所 バイオマス化学研究領域    大平 辰朗
 森林内で見出されるフィトンチッドは,針葉樹ではa-ピネンが,広葉樹ではイソプレンが主な物質として検出される。それらの量は季節によって変動し, 6月から9月の夏期に多くなり,冬期には少なくなる。1日の中での日内変動は物質の種類によって異なり,a-ピネンなどのモノテルペン類は夜の方が昼よりも多く, イソプレンは昼の方が夜より多い。日中の森林におけるフィトンチッドの量の水平方向の分布は,林縁部よりも森林の中央付近が多くなり, 垂直方向では地上に近いほど多い傾向にある。
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森林セラピーロードを構成する環境要因の特徴
(独)森林総合研究所 森林管理研究領域    高山 範理
 本稿では,2004 年から2006年までに行われた森林セラピー実験のうち,森林内の環境測定について報告する。 森林セラピーロードにおいて癒し効果を担保する環境要因(視覚=「照度」,嗅覚=「マイナスイオン」,聴覚=「音圧」,触覚=「PMV(中等度温冷感指標)」および「PPD(予測不満足率)」)を測定し, 対照として同時測定した都市部との比較から,各環境要因の特徴を整理した。これまでのところ,森林内は,相対的に人間にとって眼に優しい光環境であり, マイナスイオンが多く,静かで,涼しく,温熱環境的に快適な傾向にあることなど,初夏から初秋における森林内の環境要因の主な傾向や, 特徴の一端が明らかにされている。
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森林セラピーによる免疫能の向上
日本医科大学 衛生学公衆衛生学    李  卿
 筆者は,森林浴が抗がん作用のあるNK細胞(ナチュラル・キラー,Natural killer)の機能を高めることを初めて実証した。 NK細胞は3種類の抗がんタンパク質:パーフォリン(Perforin),グランザイム(Granzyme),グラニュライシン(Granulysin)を放出してがん細胞を傷害する。 筆者は,まずフィトンチッド(ヒノキ材油など)がヒトNK細胞内抗がんタンパク質の増加によってNK活性を上昇させることを明らかにし,次いでサラリーマンを対象とした飯山と赤沢自然休養林での森林浴実験を行い, 森林浴がヒトNK細胞数およびNK細胞内の抗がんタンパク質の増加によってNK活性を上昇させ,持続効果があることを明らかにした。
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