Vol.30 No.2
【特 集】 第7回民間部門研究開発功績者の業績


「脱酸素低温発酵法」による新規なヨーグルトの開発
明治乳業株式会社    堀内 啓史・井上 暢子・福井 宗徳・折居 直樹
 従来、ブルガリア菌とサーモフィルス菌で作るヨーグルトの工業生産において,“酸素”の存在は注目されてこなかった。それは、両菌が、 通性嫌気性菌であり、共生関係にあるため、酸素の存在下でも発酵がスピーティーに進むからである。しかし、ヨーグルトの発酵における乳酸菌と酸素の関係に着目して研究した結果、 通常6〜7ppm程度あるヨーグルトミックスの溶存酸素を4ppm以下に調整してからLB81乳酸菌で発酵することで、発酵時間を短縮できることを発見した(脱酸素発酵法)。 更に、この脱酸素発酵法を低温発酵と組み合わせた結果、“食感の滑らかさ”と“組織の保形性”を併せ持つ新規なヨーグルトが出来上がった。 (脱酸素低温発酵法)
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水稲奨励品種「みのにしき」等の育成
農業    尾関 二郎
1.はじめに
2.「みのにしき」育成の目標
3.育成経過の概要
  1)人工交雑
  2)選抜育成
  3)品種登録
4.「みのにしき」の特性
5.「みのにしき」の栽培
6.「みのにしき」の食味
7.「みのにしき」の普及実績
8.「みのにしき」原原種、原種の生産
9.日本イネよいつまでも
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自然圧パイプライン・地下灌漑方式による新水管理技術の開発
(株)パディ研究所     小野寺 恒雄
 田畑輪換において麦,大豆等の高品位安定多収を実現するためには,品種改良や栽培管理技術以外に,湿害,干ばつ対策など,土地基盤条件を整備する必要がある。 そこで,暗渠排水システムの高度化により,排水機能の強化はもちろん,地下水位調節と水稲栽培時の水管理が容易にできる,地下水位調節システム「FOEAS」を開発した。 また,傾斜地の用排水管理の自動化と余剰水の反復利用を図る,「水位調整型排水調節器」を開発した。暗渠施工において,石がある土質や硬い土質, 軟弱土でも施工でき,コストはバックホー掘削の30%以上,トレンチャー掘削の10〜20%ダウンできる,「ベスト・ドレーン工法」を開発した。
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土壌を原料とする水質浄化用高性能リン吸着材の合成と量産化
(株)クレアテラ    柳田 友隆・江  耀宗
1.研究開発の背景
火山灰土壌を原料としてリン吸着力が高く、水中で崩壊しないリン吸着材を火山灰土壌に硫酸第一鉄を加え焼成することにより合成し、 この高性能水質浄化用リン吸着ろ過材をピーキャッチとして商品化した。
2.リン吸着能力、水中安定性、SS除去能力が極めて高い。
3.量産技術を確立
4.応用
池水・溜池の水質浄化
環境省の環境技術実証モデル事業で水質浄化効果、コスト、管理の面が優れているとして高く評価された。
屎尿・生活雑排水処理水の浄化
2,000人槽レベルでの2年間にわたる連続試験で、リン濃度を0.5mg/L以下に維持できることを実証した。
排水や環境水からリンを回収し肥料として再利用できる。
飲食用水からの砒素除去
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温州みかんのβ‐クリプトキサンチン調製技術と高含有果汁製品の開発
(株)えひめ飲料    隅田 孝司
 温州みかん果肉に豊富に含まれるβ-クリプトキサンチンをターゲットにした製品開発に取り組んだ。 精製前のみかん果汁中のカロテノイドと不溶性固形物の沈降率が遠心強度により異なることを明らかにして二段階遠心分離法を考案した。 これにより、β-クリプトキサンチン高含有果汁製品の製造を可能にした。また、ペクチナーゼ剤を併用した凍結・融解法を開発し、 動物実験に用いる高純度β-クリプトキサンチンの大量調製およびその機能性解明に貢献した。
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葉根菜の品種開発とその高品質種子の安定的生産技術の開発
(株)武蔵野種苗園    大野 盛司・藤澤 義宏・立川 裕信・市井 健次
 一般的に野菜の栽培は,秋冬栽培が主体であり,夏季の栽培では病虫害の発生,高温による生育障害等による収穫物の品質低下,低収量性の問題で安定的な生産が望めなかった。 そこで,高温期でも安定的に高品質の収穫物が得られる品種の育成を目指して品種改良を進めた。特に,葉根菜(ニラ・カブ・ネギ・チンゲンサイ)の品目において, 高温期の栽培でも安定した品質と収量性があり安定採種,安定供給ができる品種開発に取り組んだ。その結果,これらの品目は,周年栽培が可能になり, 高品質,高収量が望めるようになった。
 特に,チンゲンサイは日本だけでなく,中国,東南アジアなどアジアを中心に幅広く栽培されるようになり収穫物の収量性も向上した。
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水耕栽培で利用できる初めての農薬「オクトクロス」の開発
(株)サトーセン    伊藤 克彦
 オクトクロスは水耕栽培用殺菌剤で,2002年に農薬登録された。本剤は銀の微細な粒子をナイロン繊維上にめっきしたもので取扱が容易である。 水耕栽培の野菜類の根腐病を対象とする。

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土壌のミネラル成分に着目した高品質な農作物栽培農法の研究開発
エーザイ生科研(株)    中嶋  止
 日本の農作物施肥は従来、専ら多量要素中心で行われてきたが、本研究では軽視されてきた土壌中の微量要素成分に着目し、 土壌分析診断による独創的な農法を開発して高品質でおいしい農産物生産を可能にした。技術の骨格は2つあり、 1つは栽培圃場の土壌pHに応じた独自の微量要素抽出法による土壌分析診断技術の開発、もう1つは処方箋に対応するミネラル製剤の開発と葉面散布剤による生育コントロール技術の開発である。 この2つの技術を組み合わせた独創的な農作物栽培法(中嶋農法)が確立され、現在広く農家に普及している。
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閉鎖型苗生産システム実用化技術開発
太洋興業(株)    岡部 勝美
ベルグアース(株)    三輪 輝彦
 「苗半作」とよくいわれるように、苗の質は作物の生育・収量に大きく影響するが、変化の激しい自然条件下においては、良苗を安定生産するには高度な技術が必要となる。 そこで、自然環境によらずに、断熱遮光された閉鎖空間内の光・温度・養水分などの環境諸要素を、蛍光灯・エアコン・ファンなどを活用し制御することで、 良質な苗が誰でも簡単に、計画的・低コストで生産できる「閉鎖型苗生産システム」(商品名:「苗テラス」)を開発した。さらに、 閉鎖型環境下での接ぎ木苗の一貫生産技術開発をすすめ、無農薬トマト接ぎ木苗(商品名:「e-Nature」)を開発し、全国のトマト産地への供給を開始した。
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製糖副産物からの風味改善・消臭・生理活性物質の研究開発
(株)ヤクルト本社    赤星 良一・太江田 和年
三井製糖(株)    渡邉 一郎・杉谷 俊明
 海外からの農産物輸入拡大の圧力に伴い,製糖産業界も安い原料糖の脅威に晒されている。そこで,日本の高い地価や人件費などを考慮したうえで製造コストを総合的に下げることに取り組んだ結果, 食品の風味改善剤,体臭やタバコの匂いなどの生活消臭剤,家畜の体重増加作用や抗ストレス効果を持つ飼料用原料など高付加価値製品の開発に成功した。 今後は,免疫賦活効果,細菌やウイルスの感染防止効果,抗ストレス効果を応用した分野が伸びていくものと予測している。さらに, 嫌気性菌による硫化水素産生抑制機能を利用して,下水道処理施設の金属腐食と悪臭の防止,介護老人施設での便臭対策などが大きな市場になると期待している。
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