Vol.28 No.3 【特 集】 農林水産省における最新の研究トピックス |
※下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。
技会事務局が選んだ2004年研究トピックス |
農林水産省農林水産技術会議事務局 田沼 繁 |
要約本文なし |
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イネゲノム塩基配列完全解読の達成と今後のイネ研究に対する意義 |
(独)農業生物資源研究所 佐々木 卓治 |
わが国が主導する国際コンソーシアムにより,イネ品種「日本晴」の全ゲノム塩基配列が完全解読された。 この解読によりイネゲノム構造の多くの特徴が明らかにされ,中でも第4および第8染色体のセントロメアの構造解明は,高等植物における最初の例となった。 この配列情報は,今後の遺伝子単離研究の加速推進のみならず比較ゲノム研究や遺伝現象の分子レベルでの研究に新たな展開をもたらすことが期待される。 |
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単為発生マウスの誕生 |
東京農業大学応用生物科学部 河野 友宏 |
哺乳動物では,雌あるいは雄ゲノムのみから構成される単為発生胚は妊娠の初期に致死となる。これは,生殖系列において性特異的にDNAメチル化修飾が行われるため, 父母アレル特異的に発現するインプリント遺伝子が生じ,その結果,雌雄ゲノム間で機能上の決定的な差異が生まれることに起因する。 ゲノムインプリンティングが,単為発生を完全に阻止していることを検証するための最も直接的な方法は,インプリント遺伝子発現を改変し雌性ゲノムのみから個体を発生させることである。 われわれは雌ゲノムのみからなる単為発生マウスの生産に成功し,哺乳類におけるあらたな生殖システムの可能性を示した。 |
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カイコゲノム概要塩基配列の解読に成功 |
(独)農業生物資源研究所 三田 和英・山本 公子・門野 敬子 |
カイコゲノム情報は,新品種改良や有用物質生産などを通して蚕糸業や昆虫産業に大きく貢献すると期待されている。この目的で, ホールゲノムショットガン法によりカイコのゲノム塩基配列が解読された。カイコゲノム4.9億塩基対のうち約80%に相当する配列が解読された。 今回得られたカイコゲノム配列には既存のカイコ遺伝子がほとんど見い出されることから,本配列情報を利用することでカイコを中心にした昆虫ゲノム研究が急速に進展するものと期待される。 |
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小型化搬式・低コスト高効率の新しい熱・電エネルギー 供給システム「農林バイオマス3号機」の開発 |
(独)農・生研機構 九州沖縄農業研究センター 薬師堂 謙一 長崎総合科学大学人間環境学部 坂井 正康 |
農林バイオマス3号機の特徴は,草木系バイオマスを外熱式の浮遊ガス化方式で熱分解することで,高カロリーでクリーンなガス燃料へ変換できる。 得られる熱分解ガスは都市ガス同様に加熱用やガスエンジン,ガスタービンに使用することができ,数kWから数百kWの小型発電では, 世界一の総合発電効率(15〜30%)を実現した。農林バイオマス3号機では,1時間当たり50kgのバイオマス(乾燥重量)で50kW・hの電力が得られ, 実用機では,1tのバイオマスで1,000kW・h/日(約家庭100世帯分の電力供給相当)を供給することができる。廃熱を利用したコ・ジェネレーションシステムを導入した場合, 総合熱効率は70%以上が見込まれる。 |
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イネウンカ類のリアルタイム飛来予測 |
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 大塚 彰・渡邊 朋也 鈴木 芳人・村松 正哉 日本原子力研究所 古野 朗子・茅野 政道 |
イネの重要害虫であるウンカの海外から日本への飛来を予測するシステムを開発した。これにより翌日または翌々日にどの地域に飛来するかを予測できるようになった。 同時に飛来源もわかるのでウンカの飛来の状況がリアルタイムで分かるようになり,防除対策に活かされる。 |
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誤った農薬使用を事前に警告する農薬適正使用判定 サーバーシステム |
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 南石 晃明・菅原 幸治 |
農薬適正使用判定サーバシステムは,農薬取締法の基準に反する農薬使用を事前に警告し,適正使用を支援するシステムである。 農薬使用計画データをインターネット経由で送信すると,農薬取締法で定められた適用条件を満たしているか否かが,農薬登録情報と照合・判定される。 不適切な農薬使用がある場合には,警告とともにその理由がパソコンなどに表示される。 |
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ナタネ・ヒマワリ油を精製した100%バイオディーゼル 燃料で業務用マイクロバスを運行 |
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 岡田 謙介・飯嶋 渡 |
超臨界メタノールを利用したSTING法バイオディーゼル燃料製造装置を開発し,食用油や廃食油から廃棄物を出さないバイオディーゼル燃料製造が可能になった。 地域におけるディーゼルエネルギー自給実証の一環として,その燃料を用いた業務用マイクロバスの運行を開始した。さらに食用油を効率よく生産するために, ナタネ,ヒマワリなど油糧作物の収量向上のための栽培試験によって技術の確立を行う。ナタネ,ヒマワリの栽培は景観効果もあり,地域の活性化にも貢献できる。 |
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温暖化はすでに日本各地で果樹生産に影響を及ぼしている |
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 果樹研究所 杉浦 俊彦 |
果樹農業に対する温暖化の影響について,果樹関係公立研究機関に現状調査を依頼し,全47都道府県から回答を得た。その結果, 温暖化はすでに全国の果樹生産に影響を及ぼしていることが示された。影響はほとんどすべての樹種に及び,着色や貯蔵性など果実に関するもの, 凍害など樹体に関するもの,休眠など花芽に関するもの,病害虫・雑草など広範囲に亘っている。生産にとってメリット,デメリット両面があった。 |
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ブドウの果皮色が黄緑色から赤色に突然変異したメカニズム |
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター 果樹研究所 小林 省藏 |
ブドウ果実の果皮色はアントシアニンにより決まっており,Myb様転写因子遺伝子VvmybA1がアントシアニンの合成制御に深く関わっていることが明らかとなった。 アントシアニンが合成されない黄緑色品種とアントシアニンを合成する赤色枝変わり品種を用いた解析から,黄緑色品種では,VvmybA1の5'上流にレトロトランスポゾンの挿入が見られるが, 赤色枝変わり品種ではそのレトロトランスポゾンが消失していることが判明した(Kobayashi et al., 2004)。 |
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環境勘定による農業の多面的機能の評価 |
(独)農業工学研究所 長利 洋 |
農業・農村のもつ多面的機能について個別機能を精緻化するとともに,新たに開発した農林業環境経済統合勘定を導入して総合的に評価する手法を開発した。 総合評価では,多面的機能の20%が失われるとのシナリオで全国を対象に仮想評価法(CVM)を実施し4,441円/年・世帯の結果を得た。 また,農林業部門による環境への正負の影響を含めた総合的経済評価を可能とする農林業環境経済統合勘定を開発し,農林業部門による環境便益および環境費用を試算したところ,環境便益は47兆8,300億円,環境負荷は10兆590億円,総計で約38兆円の便益との結果を得た。 |
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