Vol.27 No.11
【特 集】 環境に優しい養液栽培技術


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

環境に優しい養液栽培技術開発への課題
千葉大学 園芸学部    篠原  温
 わが国の養液栽培の現状を概観し、環境に優しい養液栽培の開発とその発展の必要性を述べる。最も参考となるオランダの事情をもとに、 わが国の技術開発の課題を列挙し、それらを解説する。栽培施設に関しては、(1)温室の構造、(2)被覆資材、(3)空調方法、(4)病害虫防除法、 (5)植物残さの処理、(6)育苗方法の改善などの技術開発が考えられ、養液栽培に関しては、(1)培地、(2)閉鎖循環型栽培方法、(3)培養液の殺菌、 (4)栽培手法などが考えられ、これらの課題に関する技術開発の方向を解説する。
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オランダの施設園芸と養液栽培
大阪府立大学大学院 農学生命科学研究科    池田 英男
 オランダではこの30年ほどの間に、施設の生産性が急速に向上し、トマト果実の単位面積当たり年間収量は3倍に増加した。 その背景には、施設の高度化、高収量品種の開発、コンピュータの普及、天敵や受粉昆虫の利用などがあるが、それらを可能にしたのは研究機関と企業、 生産者の協力があったからである。EUの形成が進み社会が変わるなかで、地中海沿岸諸国から入ってくる低価格農産物や、輸出先国との競走、 環境対策などの問題を検討しながら、オランダの施設園芸は輸出産業として発展してきた。オランダにおけるこの間の施設栽培の発展過程を検証してみたい。
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施肥・灌水の精密制御による環境に優しい養液土耕
愛知県農業総合試験場    加藤 俊博
 現在、施設栽培においても環境に負荷が少なく、持続的な環境保全型生産システムの確立が求められている。ドリップ・ファティゲーションすなわち「養液土耕栽培」は、 土を培地とすることで、生産性の向上、高品質化が可能で、かつ、低コストで省力化でき、しかも環境問題をクリアできる新しい生産システムとして期待されている。 連作障害対策、施肥管理の手間やわづらわしさからの回避、さらには快適な労働環境作りの課題を抱える施設園芸農家にとって、「土の良さ」をいかし、 施肥・灌水の精密制御が可能な新灌水施肥システムとして注目されている。この養液土耕栽培は、土壌を培地として利用した数値化・精密農法として、 野菜・花きの施設栽培を中心に急速に普及している。
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培養液中にN・P・Kの残留がないトマト養液栽培
―個体群葉面積を指標にした肥料施用量の日調節―
(独)農・生研機構 野菜茶業研究所    細井 徳夫
 トマトの生育特性の解析から、主要肥料要素は培養液からトレース状態まで吸収可能で、施用量に比例した生長量が期待可能な要素(N・P・K)と、 培養液中の濃度が閾点以下であると正常な発生育が不能な要素(S, Ca, Mg)に区分された。培養液中の濃度が閾点以下であると栽培が不能な要素は、 トマト果実のMg, Ca, S含有比率に調合した肥料Cを用い、定植時の培養液ECを1.0にして各要素の低濃度限界を満たす。この培養液に苗を定植し、 果実の含有比率に調整したN, P, K, Mg, S肥料Aを用い、トマト個体群の葉面積(葉長)を指標に、肥料Aの定量管理を毎日行う。 Ca肥料Bを用い果実糖度を指標に培養液のECを調節する。肥料要素の量的制御と濃度制御の組み合わせによる、培養液にN・P・K残留がないトマト良質多収・循環型養液栽培法の基本技術を紹介する。
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中山間傾斜地のための低コスト・省エネルギー養液栽培システム
(独)農・生研機構 近畿中国四国農業研究センター    東出 忠桐
 傾斜地の野菜栽培で問題となる土揚げ作業および土壌病害の回避のため、傾斜地用の養液栽培システムを開発した。傾斜地で点滴給液を行った場合、 給液中は高低差による吐出の違いはないが、バルブ閉鎖後、低い位置から大量の吐出があった。この吐出は点滴資材と配管法の工夫によりほぼ解消できた。 原水圧を原動力として、給液、肥料混入および排液再利用を行う低コスト、省エネルギー養液栽培システムを作成し、徳島県三加茂町のトマト生産者に導入したところ、 7カ月間のトマト栽培が行われ、慣行雨よけ施設に比べ大幅に果実収量が増加した。
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バラ養液栽培における環境保全への取り組み
愛媛県農業試験場    山内  豊
愛媛県立農業大学校    藤堂  太
 かけ流し式のバラロックウール栽培では、培養液の20〜30%が排出されるため、環境負荷を軽減できる新しい閉鎖型栽培システムを開発した。 これは、トイに集められた排出液がトイからロックウールの下に敷いた吸水シートを通して吸収され、再利用される栽培システムである。 本システムでは、専用の培養液組成を用い、培地内の養液組成が乱れたときに除塩処理を行う。これにより慣行のかけ流し栽培に比べ、 収量はほぼ同等で品質の低下はわずかとなる。さらに、給液量は60%、排出液量は25%、施肥量は50%程度まで低減できる。また、ロックウール代替培地として、 スギ皮、ヒノキ皮などの有機質培地が利用可能である。
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環境に優しい養液栽培に向けた培養液の殺菌処理技術
大阪府立食とみどりの総合研究センター    草刈 眞一
 養液栽培の培養液の廃棄が問題となっている。面積の大きい固形培地方式の養液栽培を循環型にする動きがあるが、培養液伝搬性の病害発生への対策が問題となる。 養液栽培で発生する培養液伝搬性病害の発生生態の特徴と、最近実用化されてきているオゾンガスや銀イオンを利用した培養液殺菌技術を紹介し、 循環型養液栽培の技術確立に向けた環境に優しい防除技術を紹介する。
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