Vol.27 No.5
【特 集】 森林の多様な役割と機能


森林の多面的機能の評価
東京農業大学 地域環境科学部    太田 猛彦
 森林の多面的機能を考える基礎として、「森林の原理」を理解する必要がある。また、多様性、総合性、重複発揮性、階層性など、 多面的機能全体の特徴も知る必要がある。森林の機能区分(ゾーニング)はこれらを基本として実施されるべきである。 また、現行の循環型社会の将来像である「真の循環型社会」においては、森林・自然域の多面的機能の発揮が不可欠である。 一方、森林の多面的機能の中には“根源的”と言えるような機能もあり、貨幣的評価に馴染まない、一般の機能に関しても、その評価方法の開発は十分ではない。 今後、森林に関わる事業の評価などにあたっては、上述した森林の特殊性を考慮した、科学的かつ合理的な機能評価手法を確立することが望まれる。
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森林が生物多様性に果たす役割と保全政策の動向
神奈川県自然環境保全センター    山根 正伸
 伸森林は多様な陸棲生物を育むゆりかごに例えることができる。現在、地球規模での森林減少、劣化が進み、生物多様性の減少が大きな問題になっている。 森林に恵まれ生物相の豊富な日本も例外ではない。今後、森林の生物多様性保全に関する施策・事業の展開が予想できる。そこで本機能に関する研究方向を探るため、 機能の仕組みを具体的な事例を交えて手短に解説し、あわせて内外の関連政策動向を紹介した。
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森林の地球環境保全機能
―地球温暖化の緩和と気候の安定にかかわる森林の機能―
(独)森林総合研究所    石塚 森吉
 森林の地球環境保全機能として、「地球温暖化の緩和」と「気候システムの安定化」に関する森林の働きを取り上げ、それに関わる森林総合研究所の最近の研究を中心に紹介する。 まず、地球レベルでの森林の炭素収支見積もりの現状、日本の森林によるCO2吸収量の算定状況、全国5カ所のタワーによるCO2フラックス観測の目的などを概説する。 次いで、木材利用による温暖化抑制の話題として、建築物の炭素貯留量の実態、木質バイオマスのエネルギー利用の課題を概観する。最後に、森林の気候緩和機能と気候形成機能にかかわる研究例を紹介する。
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土砂災害防止機能
(独)森林総合研究所    竹内 美次
 森林の持つ多面的機能の中でも、土砂災害防止機能は国民の最も期待の大きな機能のひとつである。土砂災害防止機能には本文で示した崩壊防止機能、 侵食防止機能、落石防止機能、防風・飛砂防止機能、魚つき機能のほか、自然災害防止機能として、雪崩防止、防雪、防潮などの諸機能がある。 これらの機能を高度に発揮させるためには、適切な森林配備と維持管理が必要である。しかし、森林の機能には限界があるため、状況に応じて治山施設の配置や避難警戒体制の構築なども考慮する必要がある。
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水源かん養機能
名古屋大学大学院 生命農学研究科    服部 重昭
 本邦各地の森林水文試験地の年間水収支から水流出量は平均的には降水量の約60%であるが、立地環境の影響を受け地域性を示す。 森林流域の貯水量の最大値はおおむね150〜300mm程度と見積もられるが、動的、物理的な貯水量評価法の開発が進められている。 森林の伐採、植栽、間伐といった施業や作業が水流出量に及ぼす影響はある程度定量的に評価されているが、水源かん養機能を向上させる施業や保育法を見出すには、 葉量、群落構造、生長量などの森林情報の収集も必要である。
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快適環境形成機能
(独)森林総合研究所    河合 英二
 真夏の暑い時期、森林の蒸発散作用が盛んになり森林内の木陰に入ると涼しく快適に感じる。また森林は大気中のガス汚染物質を葉内に吸収したり、 樹体表面に付着・分解して大気中から除去し、大気を浄化する働きをする。さらに、騒音源との間に樹林地が存在するとその防音効果によって騒音を減衰したり、 音源を緑で覆うことにより騒音のうるささを軽減する。このように森林は人間生活に快適な環境を提供する。
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森林の保健・レクリエーション機能
東京大学大学院 農学生命科学研究科    下村 彰男
 保健・レクリエーション活動全般に適した森林のあり方を表現するとすれば、基本的には、「活動選択に関して自由度が高く,明るく快適な舞台としての森林」が求められる。 例えば休息型、運動型の活動では、立木密度300本/ha前後の森林形態が適しており、資源の循環利用林として体系化してきた管理技術(施業体系)とは異なる技術と目標設定が必要になる。 森林の機能の問題と、土地利用のあり方としての森林計画とをどのように結びつけるのか、森林という場にふさわしい独自の計画論を構築していく必要がある。
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森林の文化機能
(独)森林総合研究所関西支所    深町 加津枝
 森林をとりまく文化は、それぞれの地域に根ざした生活の技術や知識、思考によって培われてきた森林と人との物質的、精神的なつながりの総体であり、 日本独自の文化のあり方と深い関わり合いをもってきた。森林の文化に関わる機能とは、継続的に森林と人とが交わってきたところに主題をおくものであり、 文化機能を担保するためのキーワードは、「継承」という概念によって適切に説明されるべき性質のものである。日本の森林文化とは何か、 その役割と重要性を認識することなしに、森林の文化機能を発揮させていくことは困難である。先人たちが育んできた生活文化の総体、心のふるさととしての里山を再評価し、 人と森とが関わり合いながら共生できる関係として再構築することが強く求められる。
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