Vol.25 No.10
【特 集】 きのこの働きとその利用


国内における食用きのこの生産・流通の現状と問題点
全国食用きのこ種菌協会    塩沢 弘
 食用きのこの消費は、種類による差はあるものの、長期的にみて、全体としては順調に伸びている。しかし、国内生産面では輸入攻勢にさらされているしいたけ、 供給過剰気味のぶなしめじ、えのきたけなど、競合激化のなかで、消費者視点をふまえた構造対策、とくに新鮮、健康(機能活性化成分高含有のPR)、 安全・安心のチェックとともに、きのこ料理の情報提供、定質・適時・適価の安定供給のための産地体制の確立を通じ、ライフスタイルの変化に即応した家庭用、 業務用きのこ消費の拡大への努力が必要となってきている。
←Vol.25インデックスページに戻る



菌根性きのこの栽培
滋賀県森林センター    太田 明
 きのこには枯れ木や落ち葉などを栄養源とする腐生性のものと生きた樹木と共生する菌根性のものがあり、マツタケをはじめとする菌根性きのこは栽培が困難とされてきた。 しかし、近年、共生樹木を利用して各種のきのこを林地や植木鉢で栽培する方法が開発され、さらに、樹木のない純粋培養下でホンシメジやナガエノスギタケなどが栽培できるようになった。 それらの方法を概説するとともに、まだ実用化されていないマツタケの純粋培養による栽培の可能性について考察した。
←Vol.25インデックスページに戻る



輸入シイタケの系統判別
(独)森林総合研究所    馬場崎 勝彦
 1993年から2000年までの8年間につくば市近隣のスーパーマーケットで収集した中国産輸入生シイタケ81子実体は4系統(A,B,C,D)に分かれた。 近年は、主に、森林総研保有菌株FMC155および156と同一系統である2系統(A,B)が輸入されていることが分かった。FMC155(系統A)および156(系統B) は異なる市販交雑品種と報告されているが、交配型は同一であった。系統Cの育種過程で、系統AまたはBの関与が示唆された。
←Vol.25インデックスページに戻る



きのこ類の生活習慣病改善効果
聖徳大学    菅原 龍幸
 きのこ(子実体)類の機能特性を食品の第1次機能、第2次機能、第3次機能に分けて考察した。第1次機能として食物繊維、ビタミンD2、 第2次機能としては呈味成分の5'-グアニル酸、遊離アミノ酸のγ−アミノ酪酸の示す機能を取り上げた。第3次機能としてはコレステロール上昇抑制作用、 血圧上昇抑制作用、耐糖能改善作用、抗腫瘍活性、血小板凝集抑制作用、エノキタケ摂取のガン発症低下効果、抗酸化活性、抗変異原性、消臭作用を取り上げた。

 これらの作用のほとんどが生活習慣病予防に関わるものであり注目される。
←Vol.25インデックスページに戻る



きのこの機能性を生かした新しい食品の開発
武庫川女子大学 生活環境学部    松井(岡村)徳光・大杉匡弘
 現在、日本や欧米諸国の主な死因となっている血栓症やガンに注目し、これらの疾病に対して予防効果を示す生理活性物質について検討した。 きのこ(担子菌)について調べたところ、血栓症に予防効果を示す抗トロンビン活性物質の存在が多種のきのこ類に見いだされた。 また、きのこには免疫力を高め、ガンを予防するβ−D−グルカンが含まれていることも報告されている。 さらに、きのこには細菌やカビのような微生物とは異なり、非常に親しみやすいイメージがある。そこで、”きのこ”という食品素材に着目し、 本研究室の主テーマである健康・機能性食品の開発を手がけることにした。きのこの機能性を生かしたパン、アルコール飲料、チーズ、味噌、うどん、 ソーセージについて報告する。
←Vol.25インデックスページに戻る



 白色腐朽菌によるダイオキシン類の分解
九州大学大学院 農学研究院    近藤 隆一郎
 ダイオキシン類とは、ポリクロロジベンゾ−p−ジオキシン(PCDD)、ポリクロロジベンゾフラン(PCDF)およびコプラナーPCB(Co−PCB) の3種類の化合物の総称である。低濃度のダイオキシンを長期間摂取すると、催奇形性、生殖毒性、免疫・造血機能障害、成長抑制、発ガン、薬物代謝酵素誘導など、 人体は多彩な影響を受けると予想されている。ダイオキシン類は生物難分解性であり、環境中で長期にわたって安定に存在することになるが、 きのこの仲間の白色腐朽菌がダイオキシン類を分解する能力を持っていることが明らかとなった。
←Vol.25インデックスページに戻る