Vol.24 No.10
【特 集】 地球温暖化が農業生産に及ぼす影響


温暖化はわが国の農林業にどのような影響を及ぼすか
−最近の研究成果から−
林  陽生
 温暖化が日本の農林業に及ぼす影響について、研究成果をまとめた。特に最近、土壌環境、水稲ほかの作物栽培、害虫、雑草、林業、 食料安全保障の分野で新しい知見が得られている。これらは、「地球温暖化の日本への影響 2001」に詳しく解説されている。 2060年代における水稲栽培への影響を解析した結果、収量を高位に維持するためには、東北以北で最適出穂日を早める一方、 関東以西で遅くする必要があることが明らかになった。この場合でも、全国平均の収量は約10%現在より減少するだろう。 温暖化の背景にある二酸化炭素濃度の上昇は、乾物量の増加に好条件となる。しかし、気温上昇による減収を補えるか否かは今後の大きな研究課題である。
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温暖化による水稲収量と栽培地の変化
中川 博視
 二酸化炭素などの大気中温室効果ガス濃度の上昇とそれによる気温の上昇など、地球規模での環境変化が懸念されている。このような地球温暖化が、 わが国の水稲生産に与える影響を、実験・モデル、予測研究の3点を踏まえながら検討した。また、モンスーン・アジア全域のコメ生産に及ぼす温暖化の影響を捉えるのに必要な問題点を指摘した。
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温暖化が果樹生産環境に及ぼす影響と求められる課題
杉浦 俊彦
 年平均気温の変動からわが国の果樹生産の未来の姿を推定した。現在リンゴの主産地は東北各県や長野県であり、8〜13℃の温度帯とよく一致しているが、 この温度帯は60年後には北海道中心になり、現在のリンゴ産地の多くは暖地リンゴの温度域に入る。ニホンナシ、モモ、ブドウ、 カキなど中部温帯果樹では自発休眠覚醒期は遅れる可能性があるが、一部の品種で検討した結果では広い地域に互って低温が不足して発芽不良を招くほどではない。 ウンシュウミカンは15〜17℃の西南暖地の沿岸部が主産地であるが、この温度帯は2030年には日本海側は北陸沿岸部、太平洋側は東北南部まで北上する。 以上のように温暖化が果樹栽培に与える影響は無視できず今後の対応が迫られている。
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温暖化による雑草の発生と分布の変化
冨永  達
 温暖化は、種子の休眠覚醒と発芽のタイミングを周囲の温度変化によって決定している雑草や、低温にさらされることによって発芽形成が誘導される雑草の発生や分布に大きな影響を与えている。 また、特に冬季の最低気温の上昇は、熱帯や亜熱帯原産の雑草が日本へ定着することを容易にしている。雑草に対する温度、二酸化炭素濃度及び水分ストレスなどの相互作用の影響を総合的に明らかにし、 作物との競合についても検討する必要がある。
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温暖化と害虫発生
山村 光司
 地球温暖化は害虫の発育速度を高めることにより1年あたりの増殖回数を増加させ、その結果として個体数レベルを上昇させるものと予想される。 また越冬時の生存率を高めることにより個体数レベルを増加させる可能性が高い。ただし、作物には害虫の被害を受けやすいステージとそうでないステージがあるため、 害虫発生が早期化することにより作物の発育と害虫発生の同調性が崩れた場合には作物の被害が少なくなる可能性もある。
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